【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第96回

2011/6/23
 「6月連戦」

 J1第14節、新潟×広島。
 後半44分、佐藤寿人のゴールにやられる。ガマン比べに負けた印象。午前中まで降り続いた雨が上がり、直射日光を浴びる蒸し暑いコンディションだった。疲れの出る終盤にすべてが集約される。決勝点を奪われた時間帯は危ないシーンが続いて、耐え切れるかなぁと心配していた。タテにすばやくつながれ、佐藤寿人にきっちり仕事をされる。

 僕は内容的にはほぼ互角の試合だったと見る。ヨンチョル、ミシェウの状態が不充分だったわりに持ち味は出せていた。が、得点機が作れていたかというと物足りない。決定機がなかったわけじゃない。特にミシェウに代わって出場した川又堅碁に「よっしゃ、もらった!」的なシーンがあった。たぶん多くの読者が川又のゴールを待望しているだろう。川又がピッチに入ると活発に動きまわって、局面が一変する。文句なく面白いのだ。ただゴールが生まれない。僕もいつ口開けの日が来るのか注目している。1点とったら勢いでバーッと続いていきそうな選手なのだ。

 が、冷静に振り返ると今の新潟には足りないものがある。攻め込んでもクロスのところで跳ね返される。あるいはその前にカットされる。シューターにうまくボールが入らない。これは一般的には「クロスの精度が悪い」と表現されることの多い状態だ。「クロスの精度が悪い」ことが好機の数自体を減らし、たまに入っても「シュートの精度が悪い」に結びつく悪循環。フツーはそういう風に表現する。

 だけど、ホントにそうだろうか。その場合の「クロスの精度」とは一体、どのくらいのレベルを基準にしてるのか。まぁ、セリエAの強豪チームなどでピンポイントとしか言いようのないクロスが供給されることがあるのはわかる。しかし、そんなアメージングなプレーを要求してるのか。わからないが、きき足誤差2センチとか、そういうのが必要か。

 僕は「もらい方の技術」を考える。パスをもらう前の動き。パスをもらう準備。以前、まだジダンがいた頃のレアルマドリードが来日したとき、僕が一番驚いたのは「もらい方の技術」だった。これはFWに限らない。細かく位置どりを変え、あるいは動き、人の間に顔を出し、そうやって流れるようなパスサッカーのリズムが生まれる。

 FWで「もらい方の技術」を感じるのは、Jでは前田遼一、佐藤寿人だろうか。柳沢敦も巧い。これは勉強次第でいくつになっても向上する部分なので、川又など今から覚えたら選手生活が長くなるだろう。佐藤寿人は僕の好みの選手だ。もらい方に工夫がある上にしつこさがある。読者はこの試合、佐藤寿人がオフサイドにひっかかったり、寸前でクリアされたり、一体、何回の不発を味わったか思い出してみよう。実際はそれだけじゃない。ボールにからまなくても何度も何度も動き直して、チャンスをうかがい続けた。

 J1第15節、名古屋×新潟。
 NHK-BS1生中継にてテレビ観戦。いや、これはねー。
 試合前はU-22代表召集組(ゴートク&鈴木大輔)に代わって、大野のスタメン出場が見られると楽しみだった。あ、あとミシェウの状態が芳しくなく、大島が2トップの一角に入る。しかし、これはねー。

 どう書けばいいか。ボコられた。それでいいか。
 締切日の関係で、見終えてすぐ書いてるからちょっと立ち直れない。
 難しいとこに入っちゃったなぁ。最初、肉離れやなんかで選手が揃わなくなって、ちょっと低空飛行になってきたところで、U-22代表に選手をとられたりして、これはどうもトンネルに入った。この6月連戦きついなー。自信を失わなければいいが。

 攻めの形が作れない。サイドが攻め上がっても中に人数がいないから、単調なものに終始する。ビルドアップしても仕掛ける感じがない。開幕当初、ヨンチョルがキレキレだったときは、ヨンチョルの仕掛けから変化が生まれた。今は誰も均衡が崩せない。均衡が崩せないまま、外でまわして何となくクロスを入れる。決定的な仕掛けがない。名古屋は守りやすかったと思う。

 これどうする? 唯一の光明は川又、木暮が入ってから活性化した前線か。
 川叉堅碁は今日もポストを叩いた。いやー、決まらんなぁー。川又は蛮勇をふるって均衡を崩す選手だ。だから皆、川又が好きだ。現状は色んな「惜しいシーンの見本市」みたいなことになっている。この苦しいところで仕事をしてこそ人気も本物になるってもんだけど。

 まぁ、ここまでやられれば逆に切り替えも早いだろう。次節はヨンチョルも韓国U-22代表に呼ばれて、危機感ひりひりだ。相手は無敗の仙台だ。震災以来、神がかりの進撃を続けるチームだ。どのみち若いののチャレンジになるだろう。この一番苦しいところで勝負させよう。苦しいときこそ明日につながるものが必要だ。


附記1、僕ね、こういうとき悔しがるのがいいと思うんですよ。悔しさはスポーツの原点です。単に連敗じゃない。惨敗だ。だけど、顔は上げときましょう。だってさ、これ戦いだぜ。歯ぎしりして悔しがった後は勝つしかないじゃん。勝たなきゃおさまんないよ。

2、次節・仙台戦は震災後、初めて被災地のクラブをホームに迎える試合です。企画も盛り沢山です。サッカーを愛する者として共感と連帯をまっすぐ届けたいですね。あ、僕は恒例のサッカー講座を担当する予定です。2週続けて「JR東日本パス」です。

3、はんにゃむーほんにゃむー、はんにゃむーほんにゃむー、出ましたー。「長岡駅からバス50分、出雲崎町の出雲崎大祭が終わるころ〜、川の字、叉の字、堅の字、あとひとつがうーん、難しい字〜。初ゴール決まっておめでとう〜。黒の字、崎の字、がっちり抱き合う〜であろう」。おお、気絶してる間にお筆先が勝手にこんなことを。一体、出雲崎大祭っていつなのですか?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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