【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第102回(前編)
2011/8/4
「高倉健さん」
J1第6節、新潟×川崎。
個人的には好きなカードだ。というのはフロンターレにとってビッグスワンが「鬼門」になっていて、過去11敗1分と一度も勝ちがないといった相性の話ではない。このカードは懐かしいのだ。僕がJリーグを本格的に見るようになったのは01年のことだ。スカパーからサッカー番組のオファーをもらった。それまでは週刊誌コラムでJを取り上げることはあっても、毎週、見に行くようなことはなかった。
最初に見に行ったのが何故か当時J2の川崎の試合だった。たぶん実家が川崎市多摩区にあるからどんな感じか気になったんだと思う。スカパーで担当することになったのはW杯の情報番組だったから、J2を見てもあんまり参考にならない。が、気にしないでJ2もじゃんじゃん見に行った。まぁ、首都圏の試合だけだ。まだ『サッカーマガジン』の連載も始まっていない。原稿に書く気はなくて、ただJリーグを知りたくてやみくもに色んな会場へ出かけていただけの時期。
等々力で見た「川崎×新潟」は大概、熱戦だった気がする。プロスポーツの興行で「川崎×新潟」は新鮮だなぁと感じた。だから僕が初めて出会ったアルビレックス新潟はJ2時代、等々力に来たビジターチームだ。新潟も川崎も、その後、J1の壁にはね返され、涙に暮れたりする。当時から新潟サポは数がぜんぜん違った。スタジアムの雰囲気がガーッと上がる。今は両軍、J1に定着して久しいけれど、僕にしてみればあの頃のJ2戦線からずっと続いているものなのだ。ちなみに当時の芸風を記そう。新潟は「大事なところで取りこぼしがある」。川崎は「肝心なところで悲劇的な結末を迎える」。もう少しでJ1昇格に手が届きそうな(同時にまだ手が届かない)頃の話だ。
あれから10年が経って、11年シーズン、震災で延期された第6節だ。川崎は上位を走るが、ケガや累積で本来のスタメン5人を欠く陣容。新潟は逆に選手が戻ってきたタイミングだ。チョ・ヨンチョルが6月以来のスタメン復帰、叉、リザーブGKに東口が登録された。J2同級生っぽい両軍(正確には昇格年が1年違う)だけど、同じバイオリズムにはなれないんだなぁ。もちろん今夜も熱戦を頼むぜ。新潟市の気温はこの1週間、フェーン現象でやたら暑かったり、逆に肌寒かったり、台風の影響が大きかったけど、今日はちょうどいい感じだよ。
前半は落ち着きのない試合だった。ミスも多いし、守備ブロックにかかるしで、どちらにも主導権が渡らない展開。多くの場合、20分くらい過ぎるとどうにかなるもんだけど、稀に前半いっぱいバタバタした感じが続くことがある。見てる側もハラハラして疲れるが、やってる選手も集中が切れないから疲れると思う。カットやクリアがピンボールみたいに色んな選手に当たって、偶然のチャンスやピンチを作る。こういうときはがっちり守ることだ。そうやって徐々にリズムを作りたい。CBに入った菊地がすごく効いていた。川崎は中村憲剛がいないと構成力がガクッと落ちる。
前半見終わって、0対0、僕にはものすごく残念なことがあった。「健さん」の姿が見えないのだ。「健さん」のホントの名前はわからない。こう、何というか東映任侠映画が似合いそうな、男のなかの男という風情のサポーターだ。僕はひと言も声をかけたことがないけど、最近はいつも視界の端に「健さん」が入るようにして試合を見ていた。正直言って川又堅碁とどっちが好きかというくらい「健さん」のファンになっている。「健さん」と僕には共通点があって、それはキャップを後ろ前にかぶる習慣だ。最初は、あ、後ろ前の人があそこにもいたと思って、注目したのだった。
「健さん」はひとりでスワンへ来ている。僕のイメージのなかで、新潟の男気がキャップを後ろ前にかぶったらこうなるという人だ。たぶんあり余る男気が、アルビレックス新潟をほっとけないと思わせたんだと思う。だけど、ここしばらくの試合には納得していない。「健さん」はピンチになると、キャップをせわしなく前に直したり、後ろ前にしたり、叉、前にしたりする癖がある。見ちゃいられないなぁという風情だ。僕は男のなかの男からアルビは見捨てられちゃったのかと、いつも「健さん」の座るあたりを眺めて心配になった。
−後編に続く−
J1第6節、新潟×川崎。
個人的には好きなカードだ。というのはフロンターレにとってビッグスワンが「鬼門」になっていて、過去11敗1分と一度も勝ちがないといった相性の話ではない。このカードは懐かしいのだ。僕がJリーグを本格的に見るようになったのは01年のことだ。スカパーからサッカー番組のオファーをもらった。それまでは週刊誌コラムでJを取り上げることはあっても、毎週、見に行くようなことはなかった。
最初に見に行ったのが何故か当時J2の川崎の試合だった。たぶん実家が川崎市多摩区にあるからどんな感じか気になったんだと思う。スカパーで担当することになったのはW杯の情報番組だったから、J2を見てもあんまり参考にならない。が、気にしないでJ2もじゃんじゃん見に行った。まぁ、首都圏の試合だけだ。まだ『サッカーマガジン』の連載も始まっていない。原稿に書く気はなくて、ただJリーグを知りたくてやみくもに色んな会場へ出かけていただけの時期。
等々力で見た「川崎×新潟」は大概、熱戦だった気がする。プロスポーツの興行で「川崎×新潟」は新鮮だなぁと感じた。だから僕が初めて出会ったアルビレックス新潟はJ2時代、等々力に来たビジターチームだ。新潟も川崎も、その後、J1の壁にはね返され、涙に暮れたりする。当時から新潟サポは数がぜんぜん違った。スタジアムの雰囲気がガーッと上がる。今は両軍、J1に定着して久しいけれど、僕にしてみればあの頃のJ2戦線からずっと続いているものなのだ。ちなみに当時の芸風を記そう。新潟は「大事なところで取りこぼしがある」。川崎は「肝心なところで悲劇的な結末を迎える」。もう少しでJ1昇格に手が届きそうな(同時にまだ手が届かない)頃の話だ。
あれから10年が経って、11年シーズン、震災で延期された第6節だ。川崎は上位を走るが、ケガや累積で本来のスタメン5人を欠く陣容。新潟は逆に選手が戻ってきたタイミングだ。チョ・ヨンチョルが6月以来のスタメン復帰、叉、リザーブGKに東口が登録された。J2同級生っぽい両軍(正確には昇格年が1年違う)だけど、同じバイオリズムにはなれないんだなぁ。もちろん今夜も熱戦を頼むぜ。新潟市の気温はこの1週間、フェーン現象でやたら暑かったり、逆に肌寒かったり、台風の影響が大きかったけど、今日はちょうどいい感じだよ。
前半は落ち着きのない試合だった。ミスも多いし、守備ブロックにかかるしで、どちらにも主導権が渡らない展開。多くの場合、20分くらい過ぎるとどうにかなるもんだけど、稀に前半いっぱいバタバタした感じが続くことがある。見てる側もハラハラして疲れるが、やってる選手も集中が切れないから疲れると思う。カットやクリアがピンボールみたいに色んな選手に当たって、偶然のチャンスやピンチを作る。こういうときはがっちり守ることだ。そうやって徐々にリズムを作りたい。CBに入った菊地がすごく効いていた。川崎は中村憲剛がいないと構成力がガクッと落ちる。
前半見終わって、0対0、僕にはものすごく残念なことがあった。「健さん」の姿が見えないのだ。「健さん」のホントの名前はわからない。こう、何というか東映任侠映画が似合いそうな、男のなかの男という風情のサポーターだ。僕はひと言も声をかけたことがないけど、最近はいつも視界の端に「健さん」が入るようにして試合を見ていた。正直言って川又堅碁とどっちが好きかというくらい「健さん」のファンになっている。「健さん」と僕には共通点があって、それはキャップを後ろ前にかぶる習慣だ。最初は、あ、後ろ前の人があそこにもいたと思って、注目したのだった。
「健さん」はひとりでスワンへ来ている。僕のイメージのなかで、新潟の男気がキャップを後ろ前にかぶったらこうなるという人だ。たぶんあり余る男気が、アルビレックス新潟をほっとけないと思わせたんだと思う。だけど、ここしばらくの試合には納得していない。「健さん」はピンチになると、キャップをせわしなく前に直したり、後ろ前にしたり、叉、前にしたりする癖がある。見ちゃいられないなぁという風情だ。僕は男のなかの男からアルビは見捨てられちゃったのかと、いつも「健さん」の座るあたりを眺めて心配になった。
−後編に続く−