【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第102回(後編)

2011/8/4
 けれど、この試合はモノにできそうだ。川崎は守備面の課題を抱えている。DFラインの前にスペースがある。叉、DFが中にしぼるからサイドも使えそうだ。後半8分、ミシェウがワンタッチでDFのウラを突く。ブルーノ・ロペスの動きだしとピッタリ重なり、先制ゴール炸裂! 「健さん」これ見逃しちゃったなぁ。タテに早い新潟の理想的な得点シーンだ。ブルーノ・ロペスはゴール裏へ駆けて、ドラゴンボールのパフォーマンス。

 とはいえ「後半早々1点リード」の展開はこれまでも「健さん」のキャップを後ろ前、前後ろに目まぐるしく変えさせてきた原因だった。この後の試合運びが問題だ。僕は不在の「健さん」に成り代わってキャップをかぶり直してみた。「健さん」キャップの方は俺が今日は代わりますから力をください。

 前後ろ、後ろ前、前後ろ。やってみて落ち着かない。落ち着かないのだが、何かやってるという実感がある。僕は人生、こういうことがあるなぁと思う。小学生のとき、輪ゴムを指先でくちゃくちゃいじり続ける子がいた。その子が風邪かなんかで休んだとき、昼休みに輪ゴムをくちゃくちゃいじってみた。その子はおとなしい子だったけど、クラスにいないのが寂しかった。僕は何となくクラスというのか、世界全体がその子の輪ゴムくちゃくちゃもあって完成しているように感じていたのだ。

 菊地直哉の頼もしさが尋常ではなかった。人に強い。そして、戦況が見えている。後半75分、田中亜土夢に通したロングパスの狙い、質はどうだ。亜土夢のシュートはGKに阻まれたが、ある意味、ゴールシーン以上にスタジアムが沸いた場面。いや、菊地は間違いなくスーパーな選手だ。最後の方、足がつったようだが、これから状態が上がるにつれていい仕事をしてくれるに違いない。

 ロスタイムには新加入の村上佑介が投入されて、雰囲気満点のなかタイムアップ。「健さん」勝った。勝ったよ。4位の川崎を叉もスワンではね返したよ。今度は「健さん」の喜ぶ姿が見たいよ。アルビはまだ本物じゃないかもしれない。だけど、頑張ってるよ。これで震災中断の日程を消化して、次節から後半戦だ。スタジアムを満員にしようよ。「健さん」の力が必要だよ。


附記1、仮称「高倉健さん」への呼びかけというテイサイに終始しましたが、ホントに今、すべての「健さん」の力が必要です。主のいない席は世界全体を支えるピースの欠損かもしれない。そこに座るべき人がいて、生き生きした喜怒哀楽があって、初めて世界は動き出すのです。とそんな風に感じましたって話。僕は「あなたがいるからスタジアムなのだ」ということを言ってる。

2、この日は試合前、なでしこジャパンの阪口夢穂、上尾野辺めぐみ両選手の凱旋スピーチ、及び小林慶行選手のJ300試合出場達成の表彰式がありました。あらためておめでとうございます。

3、ケンゴゴールはこの日も惜しいとこまで行きましたね。交代出場のわずかな時間でちゃんと見せ場を作るとこがすごい。はんにゃむー、ほんにゃむー。次節・山形戦は他でもない、川又堅碁まつりであろう〜。もう、新潟県まつりカレンダーは見飽きた〜。エイエイオー!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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