【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第103回

2011/8/11
 「初連勝」

 J1第19節、山形×新潟。
 7月最後の週、新潟県と福島県北部は記録的な豪雨に見舞われた。複数の河川で堤防が決壊し、床上浸水、土砂崩れ等、甚大な被害が出る。僕はNHKのニュースで三条や南魚沼の状況を見て、これはサッカーどころの話じゃないなぁと思う。亡くなった人も出ている。第一、アルビサポは今日、山形までたどり着けるのか。陸路は確保できてるのか。そして、そもそもNDソフトスタジアムの天候はどうなのだろう。雷雨がないといいのだが。試合は可能なのか。

 後日、判明したところによると三条市は洪水ハザードマップを作成し、避難訓練を実施していたそうだ。7年前の経験(平成16年豪雨)を生かし、被害を最小限に食い止めた。アルビサポはどうにか陸路を確保し、マイカーや応援バスで現地入りした。驚くなかれ、何と2500人! もっとも被害地区在住のサポーターはもちろん、当日はJRが止まった為、応援バスの集合場所まで行きつけない方が泣く泣く観戦をあきらめている。

 チームは喪章をつけて試合にのぞむ。試合前のロッカーでは豪雨の犠牲者に黙祷がささげられた。必勝あるのみ。順位争いや勝ち点も大事だが、新潟のサッカーチームは今日、絶対に負けてはいけない。
 
 キックオフ時の天候は曇り。風が強かった。スタメンを見ると右サイドバックの村上が新鮮だ。酒井高徳は左に戻った。これで左右どちらからでも仕掛けられるイメージ。山形は引いてくることが予想されるから、人数をかけた分厚い攻撃を期待したい。
 
 試合は前半、ほぼ思うままに攻めることができたんじゃないか。山形は後方の守備ブロックで何とか対応するが、中盤のプレスがない。これは組み立て自在だ。この「専守防衛」っぷりは山形がミッドウィーク、ナビスコ杯を戦った影響だろうか。それとも新潟がこじ開けられないと踏んでのことか。当然のこと、チャンスが多かった。が、ゴールが割れない。田中亜土夢がクロスバーを叩いた。本間のミドルがキーパーにセーブされた。

 だけど、この展開なら必ず点が入る。山形の集中力にも限度がある。続行続行。選手の揃った新潟はやっと本来の魅力をとり戻しつつある。

 後半、風上にまわった山形が前へ出てきた。小林伸二監督がバランスを修正したのだと思う。これは望むところだった。オープンゲームにしてくれた方が逆を突くチャンスが生まれる。僕としては前半の形で、「ガードの上からがんがんパンチを入れ、効いてきたところでフィニッシュブロー」という試合も見たかったんだけど、オープンにしてくれるならそれに越したことはない。

 得点はこの時間帯だった。後半17分、押し込んだ形から本間が右にさばいて、村上が持ち上がる。このとき、村上は敵マーカーを二度タイミングをずらして振り切っている。ニアに速いクロスを入れた。足先から飛び込んできたのは田中亜土夢だ。これが先制ゴール! 村上&亜土夢は合わせてまだ間がないと思うけど、長年一緒にやってるような呼吸だった。

 「相性がいい。キープできるし、足下もある。自分をおとりに使ってくれてもいいと思っています。これからもコミュニケーションを取って、連係していきたい」(村上佑介コメント。田中亜土夢について)

 新加入、初スタメンの村上が仕事をした。最高だ。これはチームに勢いをもたらす。叉、田中亜土夢はついに本格化したと見ていいだろう。「山形キラー」で終わらせてはいけない。僕はもうこのゴールには泣かなかった。もはやそんな選手ではない。コンスタントに主力として試合を決定づける働きを期待すべきだ。

 0-1リードでどうなるかなというのがそこからのポイントだ。印象を言うと意識が守りに入った。あれだけ圧倒的な試合運びができていたんだから、そう臆病になることはない。が、皆、この試合を勝ち切ることに全神経をこらしていた。ロスタイムに入っての2枚の選手交代(ヨンチョル→石川、ミシェウ→鈴木大輔)なんて「石橋を叩いて渡る」だ。最終的には6バックですよ。

 山本雄大主審の笛が鳴り、新潟は今季初の連勝を飾る。このところ○●○●○と勝ち負けが交互に来るパターン(相撲の世界ではこれを「ぬけぬけ」と呼ぶ)だったが、やっと○○だ。今年は夏がいつもと違う。上昇ムードだ。ここから○○○○と行こう。▲。


附記1、豪雨の被害にあわれた方に当コラムからもお見舞いを申し上げます。水害は怖いですね。僕の家も川沿いなので他人事ではありません。

2、アルビレックス新潟シンガポールのリーグカップ制覇は素晴らしいニュースです。いや、初タイトルはシンガポールに先越されちゃったなぁ。クラブの努力がひとつずつ実を結んでいくのを感じます。矢野貴章のW杯代表にしびれてたら、気がつけば日韓のA代表を擁し、オリンピック代表を輩出し、女子代表はW杯を獲って国民栄誉賞ですよ。で、シンガポールがタイトル獲った。次は日本でもタイトル狙わないといけません。

3、入稿間際になって、元日本代表・松田直樹選手の訃報が飛び込んできました。呆然としています。今はただ御冥福を祈ります。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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