【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第106回
2011/9/1
「分身2トップ」
J1第22節、神戸×新潟。
好調神戸に挑む一戦。ゲンのいい相手だが、今回はそうカンタンじゃないだろう。新潟はミシェウを負傷で欠いたこともあって、思い切った新布陣をひく。ブルーノ・ロペス&アンデルソンのブラジル人2トップだ。これは楽しみ。叉、左サイドバックに石川を入れ、酒井高徳を控えにおいた。それからGK・東口順昭がついにスタメン復帰だ。ウェルカムバック、待ってたぞ東口!
タメを作れ、攻撃に変化をつけられるミシェウの不在は戦術イメージを変える。芝が悪かったことも加わってロングボール主体の、タテに速い攻撃になった。開始早々(前半4分)の先制点は、その意図が結果に結びついたもの。タテへ送ったボールをブルーノ・ロペスが受け、敵を引きつけアンデルソンに渡す。アンデルソンは移籍初ゴール! 微妙にヘアスタイルが違うけれど、黄色いスパイクや背格好がそっくりの「分身2トップ」がさっそく機能した。
僕の世代は新日本プロレスの「マシン軍団」を懐かしく覚えており、こう、川又堅碁も含めてスーパーストロングマシーン1号、2号、3号と呼びたいところだ。ちなみにアントニオ猪木は当時、人気を集めていた筋肉マンをリングへ上げる構想を持っていたらしい。その権利交渉が不調に終わり、誕生したのがマシン1号だった。で、その後の増殖は勢いなのだった。
新潟も勢いをつけたいねぇ。ところが、前半のうちに流れを失ってしまう。30分、ベテラン吉田孝行に同点ゴールを喫し、主導権は神戸へ渡る。神戸はやっぱり好調なんだなぁ。バタバタしても立ち戻る場所がある。後半になって更にそれが鮮明になった。じっくり攻めの形を作ってくる。新潟はカウンター一発狙いという感じ。
で、後半15分、松岡の決勝ゴールを許すわけだが(ゴール前にこぼれを作ったことを東口は悔やんでいるだろう)、まぁ、サッカー的には順当な結果だったろうか。神戸はいいチームになっている。新潟は田中亜土夢の退場(イエロー2枚)もあって、ちょっと追いつく迫力に欠けた。
新潟はサイド攻撃が機能しないと面白い展開にならないなぁ。今日の「ブラジル人2トップが孤立」みたいな状態は、Jリーグでよく見る低迷チームのパターンだ。神戸が対応に慣れたところで、ペースを失った。チョ・ヨンチョルに開幕時のキレが戻らないかなぁ。
J1第23節、新潟×大宮。
8月最後のスワン開催。涼しかった。もう、秋の気配ですね。しかし、秋を目前にして安閑としていられない両チームだ。降格圏が見えている。絶対に勝ちたい。いやー、こうなって来ると「淳さんを迎えて新旧監督対決」なんて風流なこと言ってる場合じゃありません。テーマはリアリズム。
新潟は前節同様、ブラジル人2トップだ。開始早々、ほとんど神戸戦のVTRみたいなチャンスを作るが得点には至らない。大宮はいつの間にかピンパォン(前C大阪)を獲得していて、ラファエル、イ・チョンスと3トップだ。ここで叉、「4-3-3」の鈴木淳アルビを回想しそうになるが、そんな余裕はないのよ。あれっ、そしたら序盤にイ・チョンスNG。
共に芸風としては勝ち味の遅い両チームである。しかし、大宮も苦労してるなぁ。震災中断でトレーニングマッチを組んだときは、メンバーも揃って強烈な印象があった。今日は見た感じ、上田康太が上がったときとラファエルの一発が怖いくらいだ。試合は新潟ペースに終始する。だけど、今日はペースを握るだけじゃダメだ。リアリズム、リアリズム。結果に結びつかなければ何もない。
決定機はいっぱい作れたんだよ。作れたさー、沖縄さー、なんくるないさー。そうなんだ、なんくるないのが問題なんだ。何故か決まらない。何故かクロスバー直撃。僕は惜しいシーンの度に「忘れろ俺、惜しくても仕方ない。次だ次」と切り替えるが、そうすると忘れることばかりが増えていく。
大宮戦はどういうわけかこうなってしまう。両軍、結果がほしい試合なのにテンションがガッと上がらない。どうですか、読者は大宮戦というと何を連想しますか。「スコアレスドロー」ですか。そうなりました。すいません。
内容の話をすれば優勢でしたよ。ポジティブな要素はいくらでも言える。でも、リアリズムで語るべき試合なんだよね。結果を求めて結果が出ず、という試合だった。帰りのバス停の列で無口になっちゃったなぁ。まぁ、あのバス停の暗がりで雄弁でもまわりの人が引くだろうけどね。
附記1、なんて言ってる間もなくアウェー広島戦ですよ。がんばれ、超がんばれ。試合間隔がタイトなときはどこだって苦しいですよ。苦しい、超苦しい。いや、それが繰り返したいだけで書いてますけどね。それはそうです。超それはそうです。
2、大宮戦の日は寝坊しちゃって、NO石川雲蝶でした。そしたら後で知り合いの関東サポが「越後中里で降りて行ってきましたよ」だって。やばい、追いつかれた。早く「4雲蝶」くらいになりたい。
3、あと最近読んだ関川夏央さんの本(『「ただの人」の人生』、文春文庫)に新発田出身の画家、佐藤哲三のことが出てきて興味津々でした。宮城県美術館の洲之内コレクション見に行きたいなぁ。それから洲之内徹が晩年暮らしたという「出湯温泉石水亭の裏山の山荘」はどうなっているんだろうか。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第22節、神戸×新潟。
好調神戸に挑む一戦。ゲンのいい相手だが、今回はそうカンタンじゃないだろう。新潟はミシェウを負傷で欠いたこともあって、思い切った新布陣をひく。ブルーノ・ロペス&アンデルソンのブラジル人2トップだ。これは楽しみ。叉、左サイドバックに石川を入れ、酒井高徳を控えにおいた。それからGK・東口順昭がついにスタメン復帰だ。ウェルカムバック、待ってたぞ東口!
タメを作れ、攻撃に変化をつけられるミシェウの不在は戦術イメージを変える。芝が悪かったことも加わってロングボール主体の、タテに速い攻撃になった。開始早々(前半4分)の先制点は、その意図が結果に結びついたもの。タテへ送ったボールをブルーノ・ロペスが受け、敵を引きつけアンデルソンに渡す。アンデルソンは移籍初ゴール! 微妙にヘアスタイルが違うけれど、黄色いスパイクや背格好がそっくりの「分身2トップ」がさっそく機能した。
僕の世代は新日本プロレスの「マシン軍団」を懐かしく覚えており、こう、川又堅碁も含めてスーパーストロングマシーン1号、2号、3号と呼びたいところだ。ちなみにアントニオ猪木は当時、人気を集めていた筋肉マンをリングへ上げる構想を持っていたらしい。その権利交渉が不調に終わり、誕生したのがマシン1号だった。で、その後の増殖は勢いなのだった。
新潟も勢いをつけたいねぇ。ところが、前半のうちに流れを失ってしまう。30分、ベテラン吉田孝行に同点ゴールを喫し、主導権は神戸へ渡る。神戸はやっぱり好調なんだなぁ。バタバタしても立ち戻る場所がある。後半になって更にそれが鮮明になった。じっくり攻めの形を作ってくる。新潟はカウンター一発狙いという感じ。
で、後半15分、松岡の決勝ゴールを許すわけだが(ゴール前にこぼれを作ったことを東口は悔やんでいるだろう)、まぁ、サッカー的には順当な結果だったろうか。神戸はいいチームになっている。新潟は田中亜土夢の退場(イエロー2枚)もあって、ちょっと追いつく迫力に欠けた。
新潟はサイド攻撃が機能しないと面白い展開にならないなぁ。今日の「ブラジル人2トップが孤立」みたいな状態は、Jリーグでよく見る低迷チームのパターンだ。神戸が対応に慣れたところで、ペースを失った。チョ・ヨンチョルに開幕時のキレが戻らないかなぁ。
J1第23節、新潟×大宮。
8月最後のスワン開催。涼しかった。もう、秋の気配ですね。しかし、秋を目前にして安閑としていられない両チームだ。降格圏が見えている。絶対に勝ちたい。いやー、こうなって来ると「淳さんを迎えて新旧監督対決」なんて風流なこと言ってる場合じゃありません。テーマはリアリズム。
新潟は前節同様、ブラジル人2トップだ。開始早々、ほとんど神戸戦のVTRみたいなチャンスを作るが得点には至らない。大宮はいつの間にかピンパォン(前C大阪)を獲得していて、ラファエル、イ・チョンスと3トップだ。ここで叉、「4-3-3」の鈴木淳アルビを回想しそうになるが、そんな余裕はないのよ。あれっ、そしたら序盤にイ・チョンスNG。
共に芸風としては勝ち味の遅い両チームである。しかし、大宮も苦労してるなぁ。震災中断でトレーニングマッチを組んだときは、メンバーも揃って強烈な印象があった。今日は見た感じ、上田康太が上がったときとラファエルの一発が怖いくらいだ。試合は新潟ペースに終始する。だけど、今日はペースを握るだけじゃダメだ。リアリズム、リアリズム。結果に結びつかなければ何もない。
決定機はいっぱい作れたんだよ。作れたさー、沖縄さー、なんくるないさー。そうなんだ、なんくるないのが問題なんだ。何故か決まらない。何故かクロスバー直撃。僕は惜しいシーンの度に「忘れろ俺、惜しくても仕方ない。次だ次」と切り替えるが、そうすると忘れることばかりが増えていく。
大宮戦はどういうわけかこうなってしまう。両軍、結果がほしい試合なのにテンションがガッと上がらない。どうですか、読者は大宮戦というと何を連想しますか。「スコアレスドロー」ですか。そうなりました。すいません。
内容の話をすれば優勢でしたよ。ポジティブな要素はいくらでも言える。でも、リアリズムで語るべき試合なんだよね。結果を求めて結果が出ず、という試合だった。帰りのバス停の列で無口になっちゃったなぁ。まぁ、あのバス停の暗がりで雄弁でもまわりの人が引くだろうけどね。
附記1、なんて言ってる間もなくアウェー広島戦ですよ。がんばれ、超がんばれ。試合間隔がタイトなときはどこだって苦しいですよ。苦しい、超苦しい。いや、それが繰り返したいだけで書いてますけどね。それはそうです。超それはそうです。
2、大宮戦の日は寝坊しちゃって、NO石川雲蝶でした。そしたら後で知り合いの関東サポが「越後中里で降りて行ってきましたよ」だって。やばい、追いつかれた。早く「4雲蝶」くらいになりたい。
3、あと最近読んだ関川夏央さんの本(『「ただの人」の人生』、文春文庫)に新発田出身の画家、佐藤哲三のことが出てきて興味津々でした。宮城県美術館の洲之内コレクション見に行きたいなぁ。それから洲之内徹が晩年暮らしたという「出湯温泉石水亭の裏山の山荘」はどうなっているんだろうか。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!