【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第107回

2011/9/8
「宿題」

 J1第24節、広島×新潟。
 後半30分くらい経った頃、もしかするとこの人たちのシュートは今日、絶対決まらないのではないかと思えてきた。「この人たち」というのはサンフレッチェ広島だ。前半から再三、素晴らしい崩しを見せている。スカパー画面を見ながら僕は何度も「あわ」とか「ひい」とケーハクな声を上げていた。

 やられるのが時間の問題に思える。GK・東口の好セーブが続いた。クロスバー直撃のシーンも二度ほどあった。クロスバーっていうものが、あれでなかなか頼りになるものだ。敵にまわすと厄介だが、味方につけるとけっこう凄いシュートをはじき返してくれる。

 新潟サポは「ポストに嫌われる」「クロスバーに嫌われる」は自分らのシュートだと信じて疑わないが、ここ広島ビッグアーチでは違う。「またかよー」と天を仰ぐのは広島サポの方だ。広島はリズムもよく、実に面白いサッカーをするが、どうしてもシュートが決まらない。

 これは何とかなっちゃうのかと思い始めたところで広島・ペトロビッチ監督が動いた。切り札・ムジリ投入だ。このムジリって選手が懐が深くて、独特のテンポを持っている。後半36分だからほとんど投入早々だ。持ってかわして、ドーン! それまでアヤも流れもあった試合を、恩讐(おんしゅう)のかなたへドーン!

 そんな決まり方をする試合なのかと僕は少々、鼻白む思いだった。どえらい蒸し暑さのなか、ていうか後半から雨の降るなか、皆、足つったりして頑張ってきたんだよ。瀬戸際の攻防に見るべきものがあった。で、ジョーカー勝負か。そんな話か。確かに新潟は切り札が薄い。アンデルソンはいるけど、アンデルソン・リマじゃないからなぁ。

 新潟の攻めはよく研究されていた。もう、ブルーノ・ロペスぜんぜん自由にさせてもらえない。だもんでボールがおさまんない。決定機を作ること自体、苦労していた。ブルーノかミシェウにボールがおさまんないと人数かけた攻めにならない。ボールを失うと反撃に来るから心配でなかなか上がれない。で、そういう均衡が出来ていた。上がれないからぎりぎりどうにか守る。そして広島がシュートを外す。

 攻めが面白かったのは前後半、終わり間際だなぁ。前半はやっとサイドが使える感じになって終わった。試合終盤はビハインドのなか、無理攻めした。ってことは多少ヤバイなぁと思っても勇気を出して人数をかければよかったかもしれない。特に雨でピッチが走るようになってからは、とりあえずゴールへ向かっていれば何かまぎれだって起きかねない。

 夏休み最後の試合、新潟は宿題がたまったままだ。少なくとも広島はゴールこそ遠かったが、自らの信じるサッカーを全うした。勝負自体はジョーカーの質で決したが、やり切ったと思う。新潟はこれを信じるというスタイルを見せていない。あるいは不徹底だ。僕は結果はしょうがないと思うよ。負ける日だってあるだろう。そうじゃなくて信じるスタイルのぶつかり合いが見たいんだ。互いにゴールが遠いとしても、頑固者対決っていうかさ、ガマン比べっていうかさ、そういうのが見たいんだ。

 懐かしい日韓W杯で大好きになったチームにアイルランドがある。アイルランドはビッグスワンへ来たから覚えておいでの読者も多いだろう。ぜんぜんスペクタクルなサッカーじゃないんだ。何とかのひとつ覚えみたいにサイドからクロスを入れ続け、はね返され続ける。だけど頑固なんだ。ブレない。精神の強度がある。一番凄かったのはドイツ戦だなぁ。どっちも頑固でさ。熱い試合になるんだ。やり続けてこじ開けたよ。スペクタクルなんかなくても人は感動する。

 この先、残り10試合か。相手がどこで勝ち点がいくついくつって話になるけど、肝心なのは精神の強度だと思う。信じるものをやり切ればいいだけ。サポーターはそのつもりでしょ。サポーターはシンプルだよ。土壇場勝負で一番みっともないのはブレブレになることだからさ。

 チームにもそれを見せてほしいんだ。ユングベリ獲るとこもあるけど、新潟はこのメンツで行くしかないじゃん。やり切って負けたら、ちくしょー敵が強かったって言うよ。やり切ってほしい。それが夏休みの宿題。9月には提出してもらうよ。

 あぁ、文句ばっかり言って終わるのはシャクだな。東口順昭が素晴らしいプレーを見せた。決勝点を防げなかったことで本人納得してないと思うが、ケガ明け完全にトップフォームだ。絶体絶命のピンチをしのぎ、フィードやコーチングで味方に活路を示した。現時点、僕は今年の新潟のMVPは小澤さんだと思っているが、残り10試合でひっくり返してくれ。

附記1、台風12号接近中ですね。こないだ水害にあった三条とか南魚沼の辺りが心配です。気をつけてくださいね。しかし、北朝鮮戦やれるんかなー。

2、僕は学生時代以来のラグビーファンでもあって、来週開幕するラグビーW杯を心待ちにしています。で、アイルランドってラグビーでも頑固な芸風なんですよ。アレだねぇ、司馬遼太郎に「百戦百敗の民」と評されるくらいだもんな。不屈の闘魂なんだなー。

3、日曜から栃木市、札幌市とブックイベント2連戦です。今年は北尾トロさんと色んな街へ行ってる。予定では来週の散歩道は札幌で書くことになります。できたら丸山公園の宮越屋珈琲本店で書きたいなー。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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