【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第108回
2011/9/15
「非常事態」
「東口順昭前十字じん帯損傷/全治8ヶ月」の報には心底驚いた。何ということだろう。先週、復調の話題をとり上げたばかりだ。不運としか表現しようがないのだが、不運では言葉が軽すぎる気がする。長いリハビリに耐えて、やっとスタメンに戻った矢先だ。まだ復帰祝いの勝利も飾っていない。
W杯アジア1次予選が始まったというのに日本代表としてのキャリアも足踏みしてしまった。月並みだが、本当に代わってやれないかと思う。俺は松葉杖でも原稿なんか書けるよ。何で俺なんかのじん帯がムダに無事で、今、一番大事な東口がケガを重ねるのだろう。
2年めの正GKとして日本代表として、東口が経験し吸収する筈だったものの大きさを思う。まぁ、それは思っても仕方ないものなんだけど。願わくばこの不運を乗り越えて、更に強くなってほしい。東口は2011年に強くなったんだといつか書かせてほしい。
で、今度の負傷がものすごく微妙だなぁと思うのは「ファンフェスタのゲーム中」というところではないだろうか。試合中、練習中というのと違って、どうも人聞きが悪い。「練習中ならともかく、一体、何をやってるんだ」と文句が出たりするだろう。
それから「そもそもシーズン中にファン感って必要なのか」という意見も出る。いわゆる「そもそも論」というやつだ。疲れてる選手にゲームや雑用をやらせて、チームに何かメリットがあるのか。大体、危機管理的に正しいのか。想像だけどそんなところじゃないかな。
僕はあいにくファンフェスタへ出かけたことがなく、ニュースリリースに旨そうなものが掲載されてるのを指をくわえて見てる側の人間(トホホ)だから、正味のところはわからないのだ。一般論を言うと「シーズン中のファン感開催」はクラブ&チームの大サービスだ。たぶんシーズン終了後、オフ期間は雪や寒さがあって開催が難しいのだろう。そこで逆転の発想で夏季開催が考案された。まぁ、「雪国の夏の成人式」ですね。
で、これはクラブ&チームにとってはそれなりの作業である。もちろんやらない方が楽であるのは間違いない。でも、ファンに感謝を示したいというのも本音だと思うなぁ。「お世話になってる」「後押しを受けてる」のはいつも感じていることだし、第一、アルビレックス新潟にとってファン、サポーターとの関係性は経営的にも哲学的にも基盤を構成している。時間をかけて成り立ったものの上に「シーズン中のファンフェスタ」があるんだと思う。
だから開催時期を見直すとしたら相互の関係性のなかで決めるしかないんだ。「東口ケース」をどう判断するかは、そういう主体的な問題だと思う。ただもうひとつ考慮すべきは「人聞きが悪い」負傷の内実じゃないか。これはね、リアルに考えると難しいですよ。
もし、「選手にバンジージャンプをやらせて大ケガをさせた」だったら問答無用ですよ。そういうのじゃないでしょう。僕は現場見てないけど、アルビレックス新潟はそんな非常識なクラブじゃない。じゃ「お遊びのゲーム」についてどう考えるかだけど、セイローで練見する人はわかると思うなぁ。サッカー練習のある部分というのは「お遊びのゲーム」なんだ。設定やルールを決めて、そのなかでプレーする。「ピッチ中央にゴールのお尻をくっつけて2つおいて試合する」とかフツーのことだ。選手は普段と逆向き、センターサークルへ向かって攻める。
つまり、僕が言いたいのは「お遊びのゲーム」がダメだって線引きはカンタンじゃないっことですね。ま、新聞報道だけ見る一般の人に対しては確かに「人聞きが悪い」。だけど、サッカーを知ってれば知ってるほどそれはカンタンには言えない領域になる。世間っていうのはマジメが好きだから「お遊びのゲーム」は旗色が悪いけれど、フットボールのリアルは「昭和の根性主義のサッカー部」とは別のものなんだ。
ケガというのは栗原広報の「広報ダイアリー」が言及していたように、起きてしまうときはどんなに注意しても、ちょっとしたはずみで起きてしまうものなんだとしか言いようがない。僕は足を骨折してギプス生活を余儀なくされ、不屈の闘志でジムトレーニング、氷上練習と回復し、復帰戦で全く同じところを骨折してシーズンを棒に振ったアイスホッケー選手を知っている。ロッカーで何て声をかけたらいいかわからなかった。彼は不注意なプレーをしていたわけでも、フィジカルトレーニングを怠ったわけでもない。ただとんでもなく運が悪かっただけだ。
いずれにしても僕らはJ屈指の好キーパー・東口抜きで残り試合を戦うほかなくなった。クラブは清水エスパルスから武田洋平を期限付きで借り受ける決断をする。ベストを尽くそう。チームが沈めば東口が一番苦しむことになるよ。
附記1、結局、札幌ドームのプレスルームでこれを書いています。ここが一番仕事しやすい。今回は「札幌ブックフェス2011」参加が主目的ですけど、ついでにプロ野球取材もくっつけました。ちょうど僕を追いかける感じで台風12号が来て、札幌市に大雨警報出たんですよ。9月の北海道としては異例の蒸し暑さでしたね。
2、しかし、札幌でも派手なディスプレー出てたけど、モスバーガーの「新潟タレカツバーガー」全国発売はすごいことですね。今、どこのモスへ行っても大きく新潟って書いてあります。
3、旅の友は『天空の蜂』(東野圭吾・著、講談社文庫)です。95年に刊行されたクライムサスペンスなんだけど、テロリストが原発を狙う設定なんだ。作中、政府や行政の対応が大変興味深いです。よく6年前にこんな状況を想像したなぁと思います。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
「東口順昭前十字じん帯損傷/全治8ヶ月」の報には心底驚いた。何ということだろう。先週、復調の話題をとり上げたばかりだ。不運としか表現しようがないのだが、不運では言葉が軽すぎる気がする。長いリハビリに耐えて、やっとスタメンに戻った矢先だ。まだ復帰祝いの勝利も飾っていない。
W杯アジア1次予選が始まったというのに日本代表としてのキャリアも足踏みしてしまった。月並みだが、本当に代わってやれないかと思う。俺は松葉杖でも原稿なんか書けるよ。何で俺なんかのじん帯がムダに無事で、今、一番大事な東口がケガを重ねるのだろう。
2年めの正GKとして日本代表として、東口が経験し吸収する筈だったものの大きさを思う。まぁ、それは思っても仕方ないものなんだけど。願わくばこの不運を乗り越えて、更に強くなってほしい。東口は2011年に強くなったんだといつか書かせてほしい。
で、今度の負傷がものすごく微妙だなぁと思うのは「ファンフェスタのゲーム中」というところではないだろうか。試合中、練習中というのと違って、どうも人聞きが悪い。「練習中ならともかく、一体、何をやってるんだ」と文句が出たりするだろう。
それから「そもそもシーズン中にファン感って必要なのか」という意見も出る。いわゆる「そもそも論」というやつだ。疲れてる選手にゲームや雑用をやらせて、チームに何かメリットがあるのか。大体、危機管理的に正しいのか。想像だけどそんなところじゃないかな。
僕はあいにくファンフェスタへ出かけたことがなく、ニュースリリースに旨そうなものが掲載されてるのを指をくわえて見てる側の人間(トホホ)だから、正味のところはわからないのだ。一般論を言うと「シーズン中のファン感開催」はクラブ&チームの大サービスだ。たぶんシーズン終了後、オフ期間は雪や寒さがあって開催が難しいのだろう。そこで逆転の発想で夏季開催が考案された。まぁ、「雪国の夏の成人式」ですね。
で、これはクラブ&チームにとってはそれなりの作業である。もちろんやらない方が楽であるのは間違いない。でも、ファンに感謝を示したいというのも本音だと思うなぁ。「お世話になってる」「後押しを受けてる」のはいつも感じていることだし、第一、アルビレックス新潟にとってファン、サポーターとの関係性は経営的にも哲学的にも基盤を構成している。時間をかけて成り立ったものの上に「シーズン中のファンフェスタ」があるんだと思う。
だから開催時期を見直すとしたら相互の関係性のなかで決めるしかないんだ。「東口ケース」をどう判断するかは、そういう主体的な問題だと思う。ただもうひとつ考慮すべきは「人聞きが悪い」負傷の内実じゃないか。これはね、リアルに考えると難しいですよ。
もし、「選手にバンジージャンプをやらせて大ケガをさせた」だったら問答無用ですよ。そういうのじゃないでしょう。僕は現場見てないけど、アルビレックス新潟はそんな非常識なクラブじゃない。じゃ「お遊びのゲーム」についてどう考えるかだけど、セイローで練見する人はわかると思うなぁ。サッカー練習のある部分というのは「お遊びのゲーム」なんだ。設定やルールを決めて、そのなかでプレーする。「ピッチ中央にゴールのお尻をくっつけて2つおいて試合する」とかフツーのことだ。選手は普段と逆向き、センターサークルへ向かって攻める。
つまり、僕が言いたいのは「お遊びのゲーム」がダメだって線引きはカンタンじゃないっことですね。ま、新聞報道だけ見る一般の人に対しては確かに「人聞きが悪い」。だけど、サッカーを知ってれば知ってるほどそれはカンタンには言えない領域になる。世間っていうのはマジメが好きだから「お遊びのゲーム」は旗色が悪いけれど、フットボールのリアルは「昭和の根性主義のサッカー部」とは別のものなんだ。
ケガというのは栗原広報の「広報ダイアリー」が言及していたように、起きてしまうときはどんなに注意しても、ちょっとしたはずみで起きてしまうものなんだとしか言いようがない。僕は足を骨折してギプス生活を余儀なくされ、不屈の闘志でジムトレーニング、氷上練習と回復し、復帰戦で全く同じところを骨折してシーズンを棒に振ったアイスホッケー選手を知っている。ロッカーで何て声をかけたらいいかわからなかった。彼は不注意なプレーをしていたわけでも、フィジカルトレーニングを怠ったわけでもない。ただとんでもなく運が悪かっただけだ。
いずれにしても僕らはJ屈指の好キーパー・東口抜きで残り試合を戦うほかなくなった。クラブは清水エスパルスから武田洋平を期限付きで借り受ける決断をする。ベストを尽くそう。チームが沈めば東口が一番苦しむことになるよ。
附記1、結局、札幌ドームのプレスルームでこれを書いています。ここが一番仕事しやすい。今回は「札幌ブックフェス2011」参加が主目的ですけど、ついでにプロ野球取材もくっつけました。ちょうど僕を追いかける感じで台風12号が来て、札幌市に大雨警報出たんですよ。9月の北海道としては異例の蒸し暑さでしたね。
2、しかし、札幌でも派手なディスプレー出てたけど、モスバーガーの「新潟タレカツバーガー」全国発売はすごいことですね。今、どこのモスへ行っても大きく新潟って書いてあります。
3、旅の友は『天空の蜂』(東野圭吾・著、講談社文庫)です。95年に刊行されたクライムサスペンスなんだけど、テロリストが原発を狙う設定なんだ。作中、政府や行政の対応が大変興味深いです。よく6年前にこんな状況を想像したなぁと思います。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!