【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第109回
2011/9/22
「残り10節」
J1第25節、新潟×鹿島。
インターナショナルマッチデーのブレークをはさんで、J再開だ。残り10節。アルビレックス新潟は秋田ミニキャンプでチームの結束をはかった。ここからが勝負どころだ。そして、そのなかでも今日の鹿島戦の意味が重い。ポジティブな試合がしたい。迷いなく最終節まで走っていけるような手応えが欲しい。
この辺り、やっぱり僕はライターなのだなぁと思う。「好試合を期待する」という論調になってしまうのだ。サポーターならそんなキレイ事でなく、「何が何でも勝利を」「相性のいい鹿島から勝ち点3を」と考えるだろう。降格圏から少しでも遠ざかりたいと願うだろう。それは僕だってとっとと下位を抜け出して欲しいと思う気持ちは同じだ。だけど、たぶん見たいもんが違う。
ライターは凄いもんが見たい。正直、浅ましいことだと思うけれど、それが職業的な習慣だ。例えば「凡戦の勝利を積み上げて無事、J1残留を果たしました」よりも「キワキワの土壇場勝負、川又がついに自らの壁を突破し、2ゴールを挙げてチームを救いました」の方が見たい気がする。目の前の鹿島戦も「アントラーズ眠っててくれ」の方へ意識が向かわない。「最高のアルビレックスと最高のアントラーズが見たい」の方向だ。
そうしたら、これが「今季ベストバウト」と言いたい試合になった。「今季ベストゲーム」なら圧勝した8月の清水戦が挙げられるだろう。そうではなくてベストバウト。互いに闘志に満ちて、クオリティの高い応酬がタイムアップまで途切れない。サッカーの面白さが十二分に表現された試合。つまり、好勝負、好試合。
「いや、それどころじゃないぞ、えのきど」という声が聞こえてくるようだ。冗談じゃない、2点リードして勝てなかったんだ。勝てる試合を勝ち切れなかった。俺たち、終盤追いつかれるホームゲームを何度見せられたらいいのか。もっと危機感を言葉にしてくれよ。
僕も危機感は共有している。勝ち切ってよかった試合だとも思う。だが、それ以上に素晴らしい試合だった。「最高のアルビレックスと最高のアントラーズ」だったかはともかく、両軍良さを消し合うことなく、最後までスリリングな展開が続いた。僕はラスト30分の鹿島の底力にも感服した。あそこから「鹿島る」チームを歴史のなかで作り上げてきたのだ。
では、この試合で見えたものは何だろう。僕には「チームが成長しようとする姿」に思える。残り10節になって成長する姿もないだろうとフツーは考える。が、おそらく黒崎イズムは違うのだ。秋田ミニキャンプで整理されたものを実戦で伸ばしていこうとする。今年のチームはまだ伸びしろがある。もっと良くなる要素がある。
最高の例が酒井高徳だ。この試合では(韓国代表帰りのチョ・ヨンチョルを控えに置いて)1列前のサイドハーフでスタメン出場した。後ろからボールを奪われるなど「本職サイドバック」ならではの課題もあった。が、1点めにからんだ折り返しのシーンはどうだ。鹿島・西との白熱のマッチアップはどうだ。酒井高徳は自分の良さを信じて、ひたむきにプレーしていた。
僕は今季の苦闘が本当に実を結ぶのは、ひょっとしたら来季以降なのかもしれないと思っている。が、前を向き、伸びてゆくチームをこれから最終節まで楽しめるのじゃないかと考える。いや、完成形を目指すなら、もっと勝負に徹する必要があるんだよ。試合運び、時間の使い方等、あまりにも不器用なところはいくらでも指摘できる。
だけど、そういうイメージじゃないんだなぁ。未完なら未完のまま、あくまで可能性を追いかけようというチームに見える。チーム全体も、個々の選手も、小さくまとめようとしない感じに見える。この先、オリンピック予選なんかで選手が欠ける試合があるだろう。固定メンバーでがっちり行くのは不可能だ。バックアップも含めて皆で成長していくしかない。
得点は前半44分、本間勲、後半22分、ブルーノ・ロペスともに凄くいい点だった。他にも亜土夢のクロスにブルーノが飛び込んだやつが素晴らしかったなぁ。やり方は整理されてすっきりした。そして、メンバーが変わってもそのやり方を追いかけようと意思統一された。ここから僕らが見せてもらうのはそう悪いもんじゃないと思うよ。
だから僕の今週の話は「勝っていたのに追いつかれて勝ち点2損した」じゃない。「残り10節、重要な最初の試合でポジティブな印象を得た」だ。平たく言ってまずまずじゃないですか。先々週書いた「夏休みの宿題」はちゃんと提出してもらった気がしますよ。
附記1、そしたらナビスコ清水戦、負けちゃったですね。さっき書いたことと矛盾するようだけど、僕はぜんぜん「今年の苦闘がカップウィナーとして結実」でいいんだけどな。まぁ、次でひっくり返しましょう。新潟は成長する軍団なんだから「二兎を追うものは」なんてせこいこと言わず、一戦一戦ぐんぐん成長していきましょう。
2、ナビスコ清水戦負けたからって僕は主張を変えませんよ。鹿島戦良かったもん。てか、本間勲連続ゴールじゃないですか。いい傾向いい傾向。
3、僕は目下、『アルビレックス散歩道』単行本の追い込み作業中です。本当はエイヤード・小早川史子さんに編集を担当してもらう予定だったんだけど、申し訳ない、色々あって大幅に刊行が遅くなりました。09、10年の2シーズン分に書下ろし2編を加えた内容です。順調にいけば10月にはスタジアムに並びますよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第25節、新潟×鹿島。
インターナショナルマッチデーのブレークをはさんで、J再開だ。残り10節。アルビレックス新潟は秋田ミニキャンプでチームの結束をはかった。ここからが勝負どころだ。そして、そのなかでも今日の鹿島戦の意味が重い。ポジティブな試合がしたい。迷いなく最終節まで走っていけるような手応えが欲しい。
この辺り、やっぱり僕はライターなのだなぁと思う。「好試合を期待する」という論調になってしまうのだ。サポーターならそんなキレイ事でなく、「何が何でも勝利を」「相性のいい鹿島から勝ち点3を」と考えるだろう。降格圏から少しでも遠ざかりたいと願うだろう。それは僕だってとっとと下位を抜け出して欲しいと思う気持ちは同じだ。だけど、たぶん見たいもんが違う。
ライターは凄いもんが見たい。正直、浅ましいことだと思うけれど、それが職業的な習慣だ。例えば「凡戦の勝利を積み上げて無事、J1残留を果たしました」よりも「キワキワの土壇場勝負、川又がついに自らの壁を突破し、2ゴールを挙げてチームを救いました」の方が見たい気がする。目の前の鹿島戦も「アントラーズ眠っててくれ」の方へ意識が向かわない。「最高のアルビレックスと最高のアントラーズが見たい」の方向だ。
そうしたら、これが「今季ベストバウト」と言いたい試合になった。「今季ベストゲーム」なら圧勝した8月の清水戦が挙げられるだろう。そうではなくてベストバウト。互いに闘志に満ちて、クオリティの高い応酬がタイムアップまで途切れない。サッカーの面白さが十二分に表現された試合。つまり、好勝負、好試合。
「いや、それどころじゃないぞ、えのきど」という声が聞こえてくるようだ。冗談じゃない、2点リードして勝てなかったんだ。勝てる試合を勝ち切れなかった。俺たち、終盤追いつかれるホームゲームを何度見せられたらいいのか。もっと危機感を言葉にしてくれよ。
僕も危機感は共有している。勝ち切ってよかった試合だとも思う。だが、それ以上に素晴らしい試合だった。「最高のアルビレックスと最高のアントラーズ」だったかはともかく、両軍良さを消し合うことなく、最後までスリリングな展開が続いた。僕はラスト30分の鹿島の底力にも感服した。あそこから「鹿島る」チームを歴史のなかで作り上げてきたのだ。
では、この試合で見えたものは何だろう。僕には「チームが成長しようとする姿」に思える。残り10節になって成長する姿もないだろうとフツーは考える。が、おそらく黒崎イズムは違うのだ。秋田ミニキャンプで整理されたものを実戦で伸ばしていこうとする。今年のチームはまだ伸びしろがある。もっと良くなる要素がある。
最高の例が酒井高徳だ。この試合では(韓国代表帰りのチョ・ヨンチョルを控えに置いて)1列前のサイドハーフでスタメン出場した。後ろからボールを奪われるなど「本職サイドバック」ならではの課題もあった。が、1点めにからんだ折り返しのシーンはどうだ。鹿島・西との白熱のマッチアップはどうだ。酒井高徳は自分の良さを信じて、ひたむきにプレーしていた。
僕は今季の苦闘が本当に実を結ぶのは、ひょっとしたら来季以降なのかもしれないと思っている。が、前を向き、伸びてゆくチームをこれから最終節まで楽しめるのじゃないかと考える。いや、完成形を目指すなら、もっと勝負に徹する必要があるんだよ。試合運び、時間の使い方等、あまりにも不器用なところはいくらでも指摘できる。
だけど、そういうイメージじゃないんだなぁ。未完なら未完のまま、あくまで可能性を追いかけようというチームに見える。チーム全体も、個々の選手も、小さくまとめようとしない感じに見える。この先、オリンピック予選なんかで選手が欠ける試合があるだろう。固定メンバーでがっちり行くのは不可能だ。バックアップも含めて皆で成長していくしかない。
得点は前半44分、本間勲、後半22分、ブルーノ・ロペスともに凄くいい点だった。他にも亜土夢のクロスにブルーノが飛び込んだやつが素晴らしかったなぁ。やり方は整理されてすっきりした。そして、メンバーが変わってもそのやり方を追いかけようと意思統一された。ここから僕らが見せてもらうのはそう悪いもんじゃないと思うよ。
だから僕の今週の話は「勝っていたのに追いつかれて勝ち点2損した」じゃない。「残り10節、重要な最初の試合でポジティブな印象を得た」だ。平たく言ってまずまずじゃないですか。先々週書いた「夏休みの宿題」はちゃんと提出してもらった気がしますよ。
附記1、そしたらナビスコ清水戦、負けちゃったですね。さっき書いたことと矛盾するようだけど、僕はぜんぜん「今年の苦闘がカップウィナーとして結実」でいいんだけどな。まぁ、次でひっくり返しましょう。新潟は成長する軍団なんだから「二兎を追うものは」なんてせこいこと言わず、一戦一戦ぐんぐん成長していきましょう。
2、ナビスコ清水戦負けたからって僕は主張を変えませんよ。鹿島戦良かったもん。てか、本間勲連続ゴールじゃないですか。いい傾向いい傾向。
3、僕は目下、『アルビレックス散歩道』単行本の追い込み作業中です。本当はエイヤード・小早川史子さんに編集を担当してもらう予定だったんだけど、申し訳ない、色々あって大幅に刊行が遅くなりました。09、10年の2シーズン分に書下ろし2編を加えた内容です。順調にいけば10月にはスタジアムに並びますよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!