【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第110回

2011/9/29
 「導火線に火がつかない」

 J1第26節、仙台×新潟。
 BS-TBSの生中継が終わって腕組みをした。これはまずいや。僕がイメージするより事態は悪いのかもしれない。完敗を喫した。ナビスコから中2日で体力的にきついのはわかる。が、6月のホーム仙台戦が好ファイトだったように、この対戦は何か底力のようなものを引き出してくれると思っていた。

 震災から半年、アルビレックス新潟はユアテックのピッチに立つ。スタジアムには仙台サポの手になる「宮城の希望の星になろう」「あの風景をとり戻す 雄々しく立ちあがろう」等の断幕が掲げられている。ベガルタ仙台はあらゆる悪条件をはね返し、驚異的な頑張りを見せている。ここでふがいないサッカーはできない。

 新潟のスタメンに出場停止のブルーノ・ロペス、オリンピック予選招集の酒井高徳、鈴木大輔の名前がない。4-4-2の2トップにアンデルソンとミシェウ、左サイドバックに石川、、CBに千葉が入る布陣。まぁ、実に順当なところだ。別に悪いメンバーじゃない。結果を主力欠場のせいにはできないだろう。

 試合は「前半、決められるところで決めておけば」というパターン。田中亜土夢の2本のFKをはじめ、惜しいシーンはあった。が、仙台側から見てそう難しい試合ではなかったと思う。仙台の戦い方はブレがない。がっちり守備ブロックを作ってわずかなチャンスに賭ける。僕はその一体感に驚いた。鋼(はがね)が入っている。これが2011年の経験からベガルタが獲得したものだ。

 思えば仙台と新潟は似た特徴を持ったチームだ。戦力差がここまで順位を分かつほどついてるわけじゃない。が、一方は上位戦線をうかがい、もう一方は下位に沈んでいる。「堅守」というストロングポイントをがっちり持った仙台と、いつの間にか見失っている新潟の差だろうか。仙台は今季、先取点を奪った試合で負けていない。

 その先取点を奪われた。後半13分、左右に振られて赤嶺のフィニッシュが防げなかった。同30分にはカウンターの守備に駈け戻った亜土夢がハンドをとられ、リャン・ヨンギにPKを決められる。亜土夢はよく戻っただけにアンラッキーだった。僕はこの日の亜土夢は迫力があったと思う。PKの後、交代で下げられたのが残念だった。それにしても試合終盤のどうにもならなさは問題だ。足が動かない。気力が伝わらない。これはまずいや。新潟は自信を失いかけている。

 この敗戦でチームは完全にJ1残留争いの渦中に入ったと思う。中位へ浮上するきっかけは失われた。僕は残り10節の入りが鹿島、仙台というのはちょうどいい導火線だなと考えていた。見方が甘かったのだろう。こうなったら勝負するしかない。33節の川中島ダービーが大一番になる。

 残り試合、上位勢とひと当たりするのがミソだなぁ。貪欲に勝ち点1ずつでも積み上げたい。甲府にはハーフナー・マイクがいる。勝ち点差は詰められるだろう。楽じゃないぞー。面白いじゃん。埼玉勢の動向も気になるが、とにかく現状は甲府を仮想敵ロックオンだ。

 こういう展開は当コラム3年めにして初めてだなぁ。これまで取材を通して沢山の残留チーム、降格チームを見てきた。僕の印象を言うと残るチームには苦境でひとつにまとまる強さがある。それは最終節、ぎりぎりで残留を決めた「08年アルビレックス」にも共通していたことだ。ここからやり遂げよう。この苦しい2011年の経験を若いチームの財産にしよう。

 サッカーの中身の話を少し。これはまずいやと思った僕は仙台戦後、すがる気持ちでチョモランマ先生に電話をかけた。チョモランマ先生はもちろん仮名だ。僕が常にサッカーについて教えを乞う存在。以下、要約をお届けする。斯界の最高峰・チョモランマ先生の肉声が掲載されるのは稀有なことである。

 「チョモランマ先生、新潟は大丈夫でしょうか?」
 「わからん。尻に火がついたのは確かじゃな」
 「見ていて気になることはありますか?」
 「ボールロストじゃな。それがボディブローのように効いている」
 「ていうのはどゆことですか? わかりやすく言ってください」
 「攻めかかるタイミングでボールロストが目につくのう。あれは危なっかしい。心配になって上がれる者も上がれなくなるじゃろう」
 「どうすればいいですか? わかりやすく言ってください」
 「ボールをロストしないことじゃよ」
 
 いやいや、それはそうなんでしょうけどチョモランマ先生、そういうことですか。今度の磐田戦はそこを重点的に見てみることにしよう。僕はこのピンチをよりサッカーを知る機会、よりアルビレックス新潟を理解する機会としたい。重圧のなかで次第に普段は見えないものが見えてくる。こうなったら徹底的につきあいますよ。


附記1、台風15号、大丈夫でしたか? 首都圏は交通機関がストップして大変でした。『散歩道』単行本の校了で印刷所へ行ったエイヤード・丸山英輝さんも帰宅困難者になった。

2、まだまだここからです。ここから一戦ごとに選手らが強くなっていくと信じましょう。

3、しかし、まさかチョモランマ先生に御登場いただくとはなぁ。禁断の手を使ってしまった。幸運だったのはチョモランマ先生のケータイが番号変わってなかったことだ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!


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