【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第111回

2011/10/6
 「風に吹かれて」

 J1第27節、磐田×新潟。
 無情のゴールだった。ロスタイム、磐田・前田遼一の放ったこの日唯一のシュートがポストを叩く。はね返りに合わせたのが荒田智之だ。決まってしまった。もう時間がない。新潟は敵陣へすばやくボールを送るが、どうにもならない。タイムアップの笛。90分の奮闘が無に帰す。これで7戦、勝利がない。

 充分勝ちの目もあった試合だ。初めて3人のブラジル人を前線に配し、意欲もうかがえた。ほんの少し、偶然が作用すれば「これぞ新潟の奥の手!」という評価にもなり得た。けれど結果は結果だ。16位・甲府は敵地でガンバ大阪を破って猛追してくる。

 荒田のロスタイム弾が決まった瞬間、サポーターは地獄の釜のフタが開くのを感じた。血の気が引く。甲府の勝利を速報で確認した後は最悪の気分だ。アルビが心配で心配で仕方ない。まさかJ2に落ちるのか。まさかそんなシーズンになるのか。サッカーを見続けてきた以上、降格のことは知っている。だけど、自分のこととして考えたことがなかった。幸運だった。

 僕は読者の肩を抱いて、大丈夫だ、怖れるな新潟は落ちないと言ってやることができない。言えるのは前を向こうということだけだ。選手もそうだが、土壇場になってファン、サポーターの値打ちがわかる。みっともない姿をさらしたら末代までの恥だ。僕は新潟に惚れている。ここで底力を見せてくれ。

 新潟のホームの利。それは誰が考えても観客の発する熱だ。こうなったら満員のビッグスワンで残留争いしてやろうじゃないか。あぁ、フツーなら低迷するチームを見捨てるかもしれないところを新潟の連中は見捨てないんだなと思わせてやろう。

 今はクラブもファン、サポーターも、J1残留に全投入すべきときだ。愚痴もあるだろう、文句もあるだろう。サッカーを見ることに疲れ、傷ついてもいるだろう。だけど、見捨てるつもりがないのだったら力を貸してくれ。ここで逃げ出すつもりじゃないんだったら顔を上げよう。

 ここからは鉄火場になる。思えば残念なことだ。現在の順位は下から福岡、山形、甲府、新潟だ。予算規模の小さな地方クラブばかりだ。目の上のタンコブとして首都圏のクラブがいるけれど、只今のところは「金がないところは弱い」しか物語らない。別にサッカー観のイデオロギー闘争が繰り広げられてるわけでもないし、善悪が争われてるわけでもない。

 僕はライターであると同時に「日光アイスバックス」という小さなホッケーチームの取締役でもある。古河電工が廃部になったとき、ファンの署名活動で存続したクラブだ。僕も一介のファンとして署名した経緯がある。経営が不安定で、何度もつぶれそうになった。そしていよいよつぶれそうなとき、セルジオ越後さんを口説いて助けに来てもらった。

 だから平取締役といえど経営者なのだ。経営者としては全く適性がない。選手に給料が出せなくて貯金をはたいて、それでも出せなくて頭を下げてばかりいた。遠征費用が工面できず、ファンの募金にすがったこともある。旅行代理店へ行って土下座もした。口にしたくないくらい恥ずかしいことだ。悔しいことだ。

 僕は予算規模のない地方クラブが生き残るのがどんなに大変か身にしみている。選手ひとり給料を出すのがどんなに大変か身にしみている。福岡も山形も甲府も新潟も、程度の差こそあれ(もちろん最大キャパ2千人のアイスホッケーよりサッカーの方が恵まれている)、同じ苦労をしている。余力がないからほんの少しのチーム編成のミス、ほんの少しのマネジメントの失敗、ほんの少しの不運がダイレクトに響く。

 だから親会社なしで奮闘するアルビレックス新潟は僕の夢でもある。想像してみてほしい、『散歩道』の連載が始まって、鹿島やら何やら強豪をやっつける姿に僕がどれほどしびれたか。勇気をもらったか。今は確かに苦しいだろう。だけど、今までやってきたことを全部否定するの?

 まぁ、アルビの選手に「給料出てるんだから頑張れ」もないとこだし、サポに「つぶれないんだから安心しろ」もないとこだ。これは知らなきゃわからない。だけど、これから同質の苦労重ねてる奴らとつぶし合いやるんだよ。覚悟して、勝ち切ろう。


附記1、ナビスコ清水戦勝った! いやー、勝ったねー。嬉しいねー。3点取っちゃったよ。これを浮上のきっかけにしましょう。

2、タイトルに特に意味はありません。強いて言えば「友よ、答えは風に舞っている」かな。

3、その日光アイスバックスですが、今年は勝負をかけたチーム編成です。クラブ史初めて開幕4連勝のスタートを切った。必死ですよ、生き残るっていうのは。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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