【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第114回(前編)
2011/10/27
「魂の勝利」
J1第29節、川崎×新潟。
サバイバルマッチの再開だ。ナビスコ準々決勝120分の死闘を終えて、いったん気持ちを整理する時間が持てた。ミッドウィークの天皇杯・富山新庄クラブ戦は事実上の調整試合の役割を果たしたのじゃないか。新潟は敵地・等々力競技場へ乗り込む。秋晴れ。29℃近い9月のような陽気だ。
実は新潟がこのスタジアムで勝ったのはJ2時代にさかのぼる。鬼門だ。一方の川崎はビッグスワン未勝利だから、両チームは面白いジンクスを共有している間柄だ。が、今の新潟にそんなことを気にしている余裕はない。黒崎監督は「ジンクスは破る為にある」「今日で止める」と選手らを送り出す。
状況を整理しておこう。前日(10月22日)、土曜開催された同節の試合で甲府はC大阪に、大宮は浦和に勝利している。その結果、降格圏の16位に浦和レッズが落ちる。埼玉ダービーに敗れたペトロビッチ監督は会見で今季限りの辞任を表明、話題騒然となる。この時点で暫定14位・新潟と浦和の勝ち点差は3だ。この後、優勝争いもしくはJ1残留争いのかかった相手とのみ試合が組まれている(!)新潟としては、正直、ジンクスどころの話じゃない。
ていうか、前節の相手が優勝戦線を戦う横浜FMだったから、今日の川崎は唯一、中位と当たる試合なのだ。例年、上位に顔を出す川崎は7月に新潟に敗れて以来、8連敗と大崩れしてしまった。この試合は3ヶ月ぶりに稲本潤一がスタメン復帰、チームの心臓・中村憲剛が一列上がる布陣になる。今週火曜の代表戦(11日、タジキスタン戦)でトップ下を務め、絶好調だった中村憲剛にメディアの注目が集まる。
試合。トスに勝った本間主将がピッチサイドを入れ替えた。これは風向きなのか。それとも15時キックオフを考慮して、西日を計算に入れたのか。秋の等々力はアウェー側のゴールが西日にさらされる。メイン側からのCKがまともに夕陽に入って、攻めるのも守るのもひと苦労だ。これが吉と出るか凶と出るか。試合後半、新潟・武田洋平のゴールは夕陽を受けているだろう。
両軍気持ちのこもったいい入りだった。川崎が押し込んできて、新潟が押し返す。川崎・矢島卓郎がホントにしっかりしたFWになった。フロンターレにとっても今年の苦闘は収穫ゼロではない。後半投入で売り出しの小林悠も出てくる筈だ。
この日の新潟は出足が鋭かった。前へ出てカットする意識が徹底されている。これは川崎のリズムを狂わせる効果を生んだ。攻めに入るところでプレスやカットが来る。攻撃の芽をつむというやつだ。奪ったらタテに早い展開を作る。攻守の切り替え。「11年アルビレックス」はこのスタイルだ。
前半16分、菊地と交錯した川崎・實藤友紀が倒れざまピッチに手をついて、交代(菊地光将IN)するアクシデントがあった。あれは手をつくと危ない。僕の世代は授業で嫌々柔道をやらされていたから、ああいうとき反射的に身体を丸め、地面を手で叩く。川崎はこの交代が誤算だった。U-22代表候補・實藤のスピードを失ったという意味でも、交代カードを1枚使ったという意味でも。
前半の大事件は39分、ジュニーニョの折り返しから川崎がゴール前に詰めたシーン。GK・武田が前に出て、無人のゴールにこぼれが出る。これを稲本がフカしてくれた。これはやられたと思いました。動悸がおさまらず、いや、早くハーフタイムでいっぺん落ち着きたいくらいに思ってたら、終了寸前、ミシェウがエリア内で切り返し、これが敵のファウルを誘う。PKだ。うわうわ、最高だ。うわうわ、ミシェウがボール持ってる。ミシェウさん自分で蹴るんだ。
川崎GK・杉山に防がれ、前半0-0終了。あああぁぁ。決まりませんかぁ。僕は隣りで見てたエイヤード・丸山さんと「ミシェウワールド」について話す。丸山さんは「ミシェウさんはドカベンで言ったら殿馬ですよね」と言う。慧眼だ。殿馬は決して土井垣主将や山田太郎ではない。それともうひとつ、ミシェウさんの顔自体、水島新司は明訓の神奈川予選で描いてる気がする。ほら、何と言ったかなぁ、日照りでカラカラみたいな感じの、悪運で勝ち上がってきた。吉良高校だっけか?
‐後編に続く‐
J1第29節、川崎×新潟。
サバイバルマッチの再開だ。ナビスコ準々決勝120分の死闘を終えて、いったん気持ちを整理する時間が持てた。ミッドウィークの天皇杯・富山新庄クラブ戦は事実上の調整試合の役割を果たしたのじゃないか。新潟は敵地・等々力競技場へ乗り込む。秋晴れ。29℃近い9月のような陽気だ。
実は新潟がこのスタジアムで勝ったのはJ2時代にさかのぼる。鬼門だ。一方の川崎はビッグスワン未勝利だから、両チームは面白いジンクスを共有している間柄だ。が、今の新潟にそんなことを気にしている余裕はない。黒崎監督は「ジンクスは破る為にある」「今日で止める」と選手らを送り出す。
状況を整理しておこう。前日(10月22日)、土曜開催された同節の試合で甲府はC大阪に、大宮は浦和に勝利している。その結果、降格圏の16位に浦和レッズが落ちる。埼玉ダービーに敗れたペトロビッチ監督は会見で今季限りの辞任を表明、話題騒然となる。この時点で暫定14位・新潟と浦和の勝ち点差は3だ。この後、優勝争いもしくはJ1残留争いのかかった相手とのみ試合が組まれている(!)新潟としては、正直、ジンクスどころの話じゃない。
ていうか、前節の相手が優勝戦線を戦う横浜FMだったから、今日の川崎は唯一、中位と当たる試合なのだ。例年、上位に顔を出す川崎は7月に新潟に敗れて以来、8連敗と大崩れしてしまった。この試合は3ヶ月ぶりに稲本潤一がスタメン復帰、チームの心臓・中村憲剛が一列上がる布陣になる。今週火曜の代表戦(11日、タジキスタン戦)でトップ下を務め、絶好調だった中村憲剛にメディアの注目が集まる。
試合。トスに勝った本間主将がピッチサイドを入れ替えた。これは風向きなのか。それとも15時キックオフを考慮して、西日を計算に入れたのか。秋の等々力はアウェー側のゴールが西日にさらされる。メイン側からのCKがまともに夕陽に入って、攻めるのも守るのもひと苦労だ。これが吉と出るか凶と出るか。試合後半、新潟・武田洋平のゴールは夕陽を受けているだろう。
両軍気持ちのこもったいい入りだった。川崎が押し込んできて、新潟が押し返す。川崎・矢島卓郎がホントにしっかりしたFWになった。フロンターレにとっても今年の苦闘は収穫ゼロではない。後半投入で売り出しの小林悠も出てくる筈だ。
この日の新潟は出足が鋭かった。前へ出てカットする意識が徹底されている。これは川崎のリズムを狂わせる効果を生んだ。攻めに入るところでプレスやカットが来る。攻撃の芽をつむというやつだ。奪ったらタテに早い展開を作る。攻守の切り替え。「11年アルビレックス」はこのスタイルだ。
前半16分、菊地と交錯した川崎・實藤友紀が倒れざまピッチに手をついて、交代(菊地光将IN)するアクシデントがあった。あれは手をつくと危ない。僕の世代は授業で嫌々柔道をやらされていたから、ああいうとき反射的に身体を丸め、地面を手で叩く。川崎はこの交代が誤算だった。U-22代表候補・實藤のスピードを失ったという意味でも、交代カードを1枚使ったという意味でも。
前半の大事件は39分、ジュニーニョの折り返しから川崎がゴール前に詰めたシーン。GK・武田が前に出て、無人のゴールにこぼれが出る。これを稲本がフカしてくれた。これはやられたと思いました。動悸がおさまらず、いや、早くハーフタイムでいっぺん落ち着きたいくらいに思ってたら、終了寸前、ミシェウがエリア内で切り返し、これが敵のファウルを誘う。PKだ。うわうわ、最高だ。うわうわ、ミシェウがボール持ってる。ミシェウさん自分で蹴るんだ。
川崎GK・杉山に防がれ、前半0-0終了。あああぁぁ。決まりませんかぁ。僕は隣りで見てたエイヤード・丸山さんと「ミシェウワールド」について話す。丸山さんは「ミシェウさんはドカベンで言ったら殿馬ですよね」と言う。慧眼だ。殿馬は決して土井垣主将や山田太郎ではない。それともうひとつ、ミシェウさんの顔自体、水島新司は明訓の神奈川予選で描いてる気がする。ほら、何と言ったかなぁ、日照りでカラカラみたいな感じの、悪運で勝ち上がってきた。吉良高校だっけか?
‐後編に続く‐