【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第117回(後編)

2011/11/17
 僕は新潟に限らず色んなとこのサポが、チームが低迷したとき、つい弱気になって「いっぺん落ちて、土台作りからやり直した方がいい」等と掲示板に書き込んだりするのを知っている。実際は降格したらそのまま浮上してこないチームの方が多い。その違いは何だろうか。横井さんは「ネルシーニョの勝者のメンタリティを植えつける意識」を挙げた。

 「それが本当に凄いんです。やっぱりあれは外国人監督だから考えられることかもしれないですけど、僕ら、つい謙虚にって言ったらおかしいですけど、まずはチャレンジャーだって発想するじゃないですか。ネルシーニョは全然違うんですよ。去年、J2に落ちた年のグァムキャンプでガンバと練習試合やったんですよね。そのとき、うちの宮本マネージャーがネルシーニョにものすごい怒られたんですよ」

 それは試合会場をめぐってのことだったそうだ。宮本マネージャーは会場をガンバ側の練習場にした。両チームのマネージャーが話し合った結果だった。宮本さんの判断には「ガンバ側の会場の方が宿舎に近い」という便利さも考慮されていた。

 「それをネルシーニョは激怒したんですよ。俺たちはレイソルだぞっていうんですよ。全てのことが勝利のためにあらねばならない。お前は勝つために会場を決めたのか。練習試合ですよ。J2のチームとJ1ですよ。僕らそんな発想は出てこなかった。だけど、一事が万事、しつこいくらいにそれを言い続けるんですよ。俺たちはレイソルだぞ。勝つために全てのことをしろ。スタッフにも選手にもそれは浸透していきましたね」

 これにはまいった。なるほど勝者のメンタリティを植えつけるとはそういうことだ。J2に落ちたチームが「相手はJ1だから」と会場を譲ったら、知らぬ間に皆、格上とか格下とか考えるようになる。今度、公式戦で当たったときはそれが意識下にある。勝つために全ては準備されなくてはならない。練習試合だって少しでも有利な条件で戦い、スタッフも全員で勝とうとしなくてはならない。


附記1、試合描写皆無ですいません。だけど、横井さんの話は勉強になった。どうですか、読者は「俺たちはアルビレックスだぞ」と意識づけられますか。それは意味としては「王者・アルビレックスだぞ」ということですよね。「勝者・アルビレックスだぞ」でもいい。やっぱ、そうカンタンには日本人には思いにくいのかなぁ。

2、この試合、柏は「日立台で新潟戦未勝利」のジンクスを破った。ていうかあまりそんなことを意識してたフシもない。これは僕らも例えば浦和戦、「俺たちはアルビレックスだぞ」、「勝つためにこの試合はある」でジンクス破りした方がいいですね。

3、勝つために全てはある。考えたらこの意識の上では「負けた試合」というのが存在しないですね。「勝てなかった試合」があるだけです。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!



ユニフォームパートナー