【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第118回(前編)

2011/11/24
「ひたむきであれ」
 
 今週は過去最大の入稿ピンチである。日光アイスバックスの平日ナイター開催が天皇杯と重なってしまった。まず、アイスホッケーチームのスタッフとして運営業務を優先せねばならない。西村京太郎の時刻表トリックを使っても「同一人物が同日同時刻に日光と新潟の両方にいる」のは不可能だ。幸い天皇杯・松本山雅戦はNHK-BS中継が組まれている。録画視聴して当コラムを仕上げる方針を立てる。

 が、日光でサッカー試合の録画を見るのが案外難題だった。NHK-BSに加入しているホテルはあるだろうけど、録画機器がない。ホッケーの試合が終了しておそらく21時半だ。翌日に連戦を控えた選手、スタッフにはゆっくり休養をとってもらいたい。といって見知ったファンの自宅へ夜分に押しかけるのもアレじゃないか。となると方法はひとつしかない。最終で帰る。21時46分発のJR日光線に飛び乗り、宇都宮経由・新幹線で帰宅するのだ。で、徹夜で録画を見て原稿を書き、仮眠をとって、あらためて日光へ向かう。

 しかし、僕はサッカーライターとしては致命的な問題を抱えているなぁと常々思う。まぁ、「サッカーライター」の看板を掲げたことは生涯一度もなく、あくまで物好きの域を出ないんだけど、「秋のアイスホッケー開幕以降、チーム遠征時にしか現場へ行けない」は問題だろう。本当なら(サポーター枠にもぐり込む形で)僕も北朝鮮へ行きたかった。89年のW杯予選時、現地入りした加藤久さん、後藤健生さんらに裏話をさんざん聞かされていたのだ。

 まぁ、当コラムは企画当初から遠隔地連載としてその辺は織り込まれていた。「TV観戦可」のゆる〜い大方針だ。リーグ戦は基本的に全て映像が見られる。厄介なのはカップ戦だが、これまで不思議とどうにかやりくりが効いた。例えば今回だってNHK-BS中継が組まれてなかったら試合内容を反映させられないところだった。何故かカップ戦のときはたまたま中継が組まれるか、ホッケーチームがアウェーへ行くかしてきたのだ。

 と、今週は妙に前置きが長いのだが、ここまでのところは月曜日に先行して書いている。事前に書けるところまで書いておいて、スクランブル入稿に備えようという算段だ。対戦相手の松本山雅について触れておこう。今年は元日本代表・松田直樹選手の急逝で思わぬ形で報道が集中することになった。現在、JFL5位につけ、長野県初のJリーグ入りを目指している好チームだ。09年の天皇杯2回戦で浦和を破ったのは大評判になった。今年も2回戦で横浜FCを倒し、駒を進めて来た。まさにNHK-BS好みの「ジャイアントキラー」といえるだろう。

 事前に予想を書いておこう。僕は新潟はものすごく苦戦すると思う。そして得るものがあると思う。戦前の情報をかき集めるとサッカースタイルは同型だ。前線からハードワークして、奪ってカウンターで攻める。となるとタレントの質もあるけれど、ひたむきな方が強い。新潟県の天気予報を見ると雨になるようだ。雨はいつも偉大な演出家だ。今、思うのは、「新潟よ、ひたむきであれ」という一点に尽きる。たぶん自分たちの原点を見せられる戦いになるだろう。



 ここから水曜深夜というか木曜未明である。時計は2時半をまわった。いやー、負けたね。負けたらしいとケータイ速報や知人のメールで知らされていたが、録画を見たら想像をはるかに上まわる完敗だった。僕がイメージしていたのは苦戦までだ。まさか本当にジャイアントキラれる(?)とは思わない。しかも、「何にもさせてもらえない」級の完敗でしょう。これはちょっとダメージあるなぁ。

 試合内容は開始早々セットプレーから失点(前半5分、得点者・多々良敦斗)を喫し、それを挽回できなかったというものだ。松本山雅のプレスが落ちなかった。もう、何というか「鬼プレス」としか言いようがない。おそらく松本山雅・加藤善之監督にヒントを与えたのは同じくプレスでかきまわされた浦和戦の映像ではないか。が、8月の浦和戦は夏場ということもあり、ここまで「鬼プレス」が続かなかった。途切れないのだ。

 松本山雅の集中力は凄まじかった。今、Jリーグでここまで途切れず動き続けるチームがあるかというと、ちょっと思いつかない。出足が早い。人数をかけて寄せる。セカンドボールに勝つ。申し訳ないが、当コラムが『アルビレックス散歩道』でなければ絶賛して済ませたいところだ。逆に言うと新潟は「今、Jリーグではこのくらいの感じ」みたいな域で(特に前半)サッカーをしていたと思う。前提が違う相手にきりきり舞いだった。しかし、山雅も日程のきびしいなか、よくぞあのサッカーをやり切った。

‐後編に続く‐


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