【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第120回(前編)

2011/12/8
「待機列」

 J1第33節、甲府×新潟。
 新潟交通の東京発「旅えっさアルビ応援バスツアー」を利用する。出発時に添乗員さんが「今年は震災もあって中止が続き、これが最初で最後のツアーとなってしまいました」とマイクで挨拶されていた。そうだ、今年前半のツアーは震災中断で全て取りやめになったのだ。その後も僕は小まめに申し込みはしてたんですよ。「申し込み 6人」とかになってる6分の1は僕でした。残念なことになかなか催行人員に達さず、旅えっさは僕にとって「幻のツアー」と化していた。

 サポーターバスだ。山梨中銀スタジアムは甲府駅から離れてるから、スタジアム駐車場へ直接乗りつけてもらえるのは楽チンこの上ない。しかも、乗客が全員アルビサポだ。気がねがいらない。唯一、どうなのかなぁと思ったのは朝7時東京発の時間設定だった。案の定、9時半に現地に着いてしまって、ひと気のないプレスルームで『死よりも遠くへ』(吉岡忍・著、新潮文庫)に読みふけることになった。まぁ、新潟交通としては去年の湘南戦の轍は踏むまいというところだろう。あ、これクレームでも何でもないですよ。僕は吉岡忍さんがめっぽう面白かったから文句なし。

 しかし、エアコンの効いたプレスルームのない一般のサポがどうなってるかというと、9時半の時点でアウェー席のゲートからべらぼうに長い待機列が伸びていた。幸い11月下旬とは思えない小春日和だ。皆、敷きものや折りたたみのイスを用意したりして、待機列慣れしている。どうだろう、その列が少年サッカーのグラウンドをとり囲んで3、400メートルくらい、もう向こうの方が見えないくらい続いているのだ。クルマで来た「自走組」がいる。応援バスも新潟発、東京発あわせて10台を超えた。皆、日程をにらんでこの川中島ダービーが大勝負だと覚悟して、早めにチケットを押さえたのだと思う。あるいは今季最後のアウェーゲームに絶対、参戦したいと思った。

 吉岡忍さんの語る昭和の終わりの死の諸相に思いをめぐらせるうちに、ふと気づくと大中祐二さんが来て『サッカーマガジン』の国吉好弘さんが来て、プレスルームはすっかりにぎやかになった。皆、僕のプレスパス番号「01」を見て、9時半入りに驚いている。そういえばみんなどうなったかなぁ。あれから知り合いのサポのバス到着メールが来たりして、更に列が伸びている筈だ。そうだ、見に行ってみよう。最終節は日光へ行くから会えるのは今季これが最後になる。それからもしかすると本買ってくれた人が持ってきてるかもしれない。先日のサイン会は「その場で買った人だけ」だったそうで、申し訳ないと思っていた。発売日にすぐ買ってくれた人がワリを食っちゃった形でどうにも気になる。
 
 グラウンド脇の待機列のとこにいい具合のベンチがあって、そこへ陽なたぼっこする感じに腰かける。すげー列が延々伸びている。係員さんが「アウェー席完売です」を連呼している。本当に気のいい奴らだよ。アルビがいいとこ見せたら天にも昇る気持ち。ダメなときはしょんぼりして無口になる。要するにさ、今日だって別に甲府に引導渡すとこが見たいわけじゃなくて、サッカーシーズンが終わっちゃうのが寂しいんだよ。まっすぐな気持ちさ。

−後編に続く−


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