【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第120回(後編)

2011/12/8
 しばらくして開場になって、待機列が動きだした。僕はのんびり陽なたぼっこを続けてるような、会場入りを送り出すようなビミョーな状態になった。いやー、映像があったら見せたいくらいだ。いい絵だった。本当に輝いている。これから見る試合への期待感、列が動いた喜び。僕に気づく人はそんなに多くなかったけど、声をかけてくれたり、目礼をしてくれたり。本持ってきてくれた人もいた。みんなニコニコして、サッカーがあることの喜びに満ち溢れている。ちょっとジーンときた。ずーっとその列は続いたんだ。輝きの大行進。最後に「最後尾」のプラカードを持った係員さんが来て終了。

 だもんで3対0の完敗は胸のつぶれる思いだった。難しい試合だったと思うよ。相手は前日、降格争いの相手、浦和が勝って死にもの狂いで来た。ハーフナー・マイクの欠場も士気を高める方へ作用した。新潟は長いバス移動でコンディションもきびしかった。五輪予選組もいない。大体、サッカーはひと筋縄ではいかないものだ。思い通りにことが運ぶ方が珍しい。例えば2点めの失点などアンラッキーでしかない。

 だけど消化試合やっちゃった。これは選手がどんなにいっしょうけんめいだったとしても「前節、J1残留を決めて気の抜けた新潟は散漫な攻めに終始し、甲府のゴールを割れない」等とサッカー誌に書かれてしまう試合だ。現に国吉さんは開口一番、「新潟元気がなかったねー」だった。

 あるいは試合後、アップされた菊地直哉のブログが語るように全ては気持ちではなく、技術に還元されることかもしれない。技術が足りない。試合のペースを奪い返す技術。流れを変えるポイントの技術。これは菊地のサッカー観を示す、非常に高度なコメントだと思う。彼は失意のときもたぶん技術を信じ、追い求めることを支えにしてきたのだ。

 僕の言いたいことは実にシンプルだ。あいつらのこと。申し訳ない、「奴ら」とか「あいつら」とか今日は慣れ慣れしく言うのを許してほしい。あいつらホントに最高なんだ。あいつらがっかりしたよ。あんなに顔を輝かせて行進したんだよ。試合終わってスタンドから引けんの早い早い。頼むから最終節、いいとこ見せてやってよ。

 帰りのバスは皆、口数が少なかった。シートベルトをしたら眠気がおそってきて、談合坂まで眠った。中央道は大渋滞だ。のろのろ進むうち、五輪予選のシリア戦キックオフの時間になり、添乗員さんにリクエストして車内テレビを見せてもらう。ここにはサッカーの嫌いな人が乗ってないからそれでだいじょぶなんだ。皆、鈴木大輔に声援を送った。あいつらホントに最高なんだ。


附記1、ツアーでご一緒した皆さん、お世話になりました。柿の種チョコと佐渡海洋深層水を差し入れてくれた方、おかげで山梨県でも新潟が摂取できました。

2、しかし、ヴァンフォーレ甲府のガッツは見上げたものでした。得失点で大差がついているものの最終節まで望みをつないだ。返す返すも前節、横浜FM戦の逆転負けが痛恨です。新潟は今季2敗で対戦を終えた。強かったと素直に認めるべきでしょう。

3、本文中にも記しましたが、残念ながら最終節はテレビで録画観戦です。もしかするとビッグスワンで優勝される屈辱を味わうかもしれないし、それを押しとどめるかもしれない。何にしてもJリーグファン注目の試合になるでしょう。名古屋の夢を砕けば新聞に名前が載ります。選手は男を上げるチャンスですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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