【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第122回

2012/3/22
 「まだわかりません」

 J1第1節、川崎×新潟。
 まず開幕を祝いたい。そしてもうひとつ2012年3月10日はつまり、あの日からおよそ1年経ったということだ。それを胸に刻みたい。何か時間感覚がおかしくなっていて、時計が止まったまま何も解決していないとも感じるし、飛ぶように1年過ぎたようにも感じる。キックオフ前、センターサークルに両軍選手が並び、黙祷をささげた。サッカーは続く。サッカーは新しく始まる。フロンターレはこの日、陸前高田市にパブリックビューイングを設置する一方、被災地の子らを等々力競技場のモニターに映し続けた。

 サッカーは続く。サッカーは新しく始まる。開幕節の両軍スタメンは新顔だらけだ。これはよっぽど熱心にプレシーズンマッチへ通った人じゃないと、あれっ、誰だっけと一瞬、「?」を経験する。新潟だけで矢野貴章はともかく、小谷野顕冶、アラン・ミネイロ、キム・ジンス、大井健太郎の4人がスタメンに名を連ねる。川崎まで手がまわりませんよ。んーとちっちゃいのがレナトで、でかいCBがジェシで、おお、レナトと2トップ組むのはセレッソにいた小松塁かなるほどねぇという感じ。

 見るのが難しい試合じゃないかと思う。こっちがいいのか相手が悪いのか。あるいはその逆。まだどちらのチームも見慣れていない。意図してそうなってるのかフィットしてないのか。相手も意図してそうなのかフィットしてないのか。その組み合わせのなかで推移してるのか。たぶん見る者は想像力をいっぱいに働かせなくちゃならない。そしてもちろん、新顔の可能性を目を皿のようにして発見しようとする。敵の新顔の脅威を見逃すまいとする。そうじゃない場合はとにかく開幕の祝祭性につつまれポーッとなって過ごす。この場合は色々、考えてみるのは後日だ。

 天気よくない。よっしゃ始まっちゃうよ、2012年のキックオフ。でもって2012年のファーストシュートが又、最高の形だったんだ。2分、右サイドの小谷野からクロスが送られ、上がっていた菊池が落とし、貴章が蹴り込む。敵GK、これも新顔の西部洋平が正対してどうにか防いだが、等々力へ駆けつけた新潟サポは「今年も始まったなぁ!」とビリビリ感じた筈だ。

 入りは新潟の方がよく見えた。が、先に失点してしまう。11分、レナトのFKからだ。この左足のFKが想像以上に速かった。ニアで實藤がスラしてゴール。これは呆気にとられた。レナトか、覚えたぞ。何だよ馬力あるなぁ。

 で、ですね、その後ぐらいから試合がすごい単調に推移すんのね。てか、新潟にとって危ないシーンが目につく。こう、ポーンと送り込むチームなんだね。今年の新潟はどうも攻めっ気のチーム。で、ポーンと跳ね返されて、人いなくて危なくて、そしたら大輔と大井がポーンと跳ね返す。「見るのが難しい試合」というニュアンスではなかった。おおむね皆、ポーンというのを見た。ポーン、そこゴチャゴチャでポーンと返った。うわ、そこ手薄でやばっ。ポーン。サンキュー大井。そういう感じ。

 ポーンはつまり、シンプルに縦というか、ま、クロスを入れる場合もあって縦だけじゃないけど、とにかく泥くさいゴールをねじ込もうという方向性なんだなぁ。これでミシェウがいたら違ったかもわかんないけど、あいにく左ふくらはぎを痛めて大事をとっている。と、貴章&ブルーノの強さを前提とした発想になる。だからこれが本来かどうかはわからん。わからんが、攻めッ気。

 ポーンの感じが変わったのは、後半に入り、平井が投入されてからだろうか。試していた3トップの形をとり、厚めの攻撃が始まる。キム・ジンスが上がって攻撃参加しだしたのも変化の理由だろう。波状攻撃といえば波状攻撃、跳ね返されてるといえば跳ね返されてる時間帯が続く。

 だけど、それが「3トップの迫力」かどうかはこの試合だけじゃわからない。川崎が守りに入りすぎてるようにも見えた。新潟サポは「潟る」という自虐ネタを発明したけれど、何も終盤の失点は新潟の専売特許じゃない。去年の川崎だって同様だ。たぶんこの試合は「フロンターレの身体を張った守り」「西部をはじめ集中が途切れなかった勝利」的に総括される気がするけれど、あんだけ押し込まれたらロスタイム、貴章の超惜しい一発くらいは食らう。

 読者よ、僕にはまだわかりません。1-0の負けはわかった。大体、ポーンだったのも見た。その意味がまだわからない。だんだんわかってくるんじゃないでしょうか。とりあえず、新顔がいい選手ばっかりじゃんというのはよくわかったかなぁ。

 まぁ、貴章が決めてたらカッコよかったんだけどね。新聞の見出しもバッチリだった。だけど、負けから始まる物語だってあるよ。サッカーは続く。サッカーは新しく始まる。どんな物語かはまだ誰も知らない。


附記1、あと桑田真澄氏が始球式のとき何故、フロンターレのユニ着て、パイレーツの帽子だったかもまだわかりません。

2、山田うどん(関東ローカルのうどんチェーン)はフロンターレのスポンサーなんだなぁ。

3、実はこの日、僕はアイスバックスのプレーオフ・セミファイナル第4戦で日光にいました。翌11日、第5戦に勝って、クラブ史上初のファイナル進出です。前身の古河電工時代も含めて、ほぼ90年の歴史で初めて優勝に手がかかった。だもんでホッケーも続くなんです。すいません、マジ必死なのでしばらくスカパー観戦とさせて下さい。3月中旬までホッケーを見てるなんて未体験ゾーンです。

4、男子五輪代表のロンドン出場決定おめでとうございます。この世代は09年、U-20W杯不出場の悔しさがバネになってますね。もちろん、鈴木大輔選手の活躍が楽しみです。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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