【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第125回
2012/4/12
「根拠」
J1第4節・新潟×G大阪。
このカードが「リーグ戦3連敗どうしの対決」になるとは想像できなかった。それどころかガンバは公式戦5戦全敗を受けて、電撃的にセホーン監督、呂比須ワグナーコーチ、ウェリントン・フィジカルコーチの解任、山本浩靖・強化本部長の辞任を発表した。後任は松波正信監督。つまり、今節は松波監督の初陣であると同時にチームの命運をかけた戦いになる。ガンバほど成熟したチームがひとつ出遅れるとここまでするのだ。それだけ「ポスト西野政権」に危機感を持っているということだ。
迎え撃つ新潟も背水の陣といっていい。そろそろきっかけをつかまなければ長期低迷のパターンに入る。チームが自信を失い、方向性を見失うことがいちばん怖い。積み上げる努力が積み上げている実感を失って、どう努力すればいいのかわからなくなる。めいめいが「自分はこうしたいのに」と思い、疑心暗鬼に陥る。多くの場合、そこで選手どうしのミーティングが開かれたりするが、それでもうまくいかないと士気が落ちてくる。誰かのせいにしたり、何かのせいにする。この負のループに陥らないためにはひとつにまとまる必要がある。
試合当日は荒天だった。春先の低気圧が強風と雨をもたらす。サポーターは凍えて足の感覚がなくなるくらいだった。両チームのいちばん苦しい戦いを象徴するかのような土曜日。
苦しいときに戻る地点。根拠。それを思いながら試合を見る。ガンバのストロングポイントは何か。新潟のストロングポイントはどこか。2人の指揮官は例えば「前節の修正」という発想だってしているだろう。だけど「修正」という域を超えるものを欲している筈だ。キックオフ後、つばぜり合いの時間帯が終わるとそれが次第に姿を現す。
ガンバはリスクを少なくして、構成力で打開するサッカーへ戻ろうとしていた。新潟はブロックを作り、カウンターに転じるサッカーへ戻ろうとしていた。それは指揮官が試合前、ロッカーで強調したポイントだったに違いない。根拠となる地点だ。この形になればうちは強い。新潟の場合はおそらく「前節の修正」的な意味もそこに加わっている。前半から追いまわし、後半バテてしまった反省に立ち、じっくり網を張ってエネルギーを温存する。
先手は新潟だった。開始早々(前半5分)、アラン・ミネイロのFKゴール。雨のピッチを計算に入れ、得意の落ちるボールをGK・藤ヶ谷の前でバウンドさせた。そこから新潟の時間帯が続く。スピード勝負を仕掛け、ガンバDFは対応に追われる。又、セットプレーで決定機を何度も作った。
22分、倉田のスルーパスが通りウラへ抜けた藤春を、大井健太郎がエリア内でレイトチャージ。これがPKになって、ラフィーニャが決める。スコアは1対1のイーブン。といってどちらの得点も交通事故のようなものだ。このまま終わる筈がなかった。僕はやはり根拠の部分を見ようと思いをこらす。ガンバにボールがおさまりだし、形ができ始めている。
根拠が根拠であるためにはチームがひとつでなければならない。新規加入も何もない。統一されたイメージ。いや、本当は「統一されたイメージ」より強いものだ。本能に近い。絶対の確信。そこまで行って初めて根拠だ。混乱の只中で、恐怖のなかで、皆が立ち返る場所だ。嵐に揺さぶられる船の1本のマスト。まぁ、言葉をカンタンにするために「ガンバ本能」「アルビ本能」と呼んだっていい。
後半になって、ガンバはいい形を作る。新潟は「嵐に揺さぶられる船」だ。が、マストが折れて漂流していたのか。僕はそうではないと思う。必死で粘ろうとしていた。貴章と三門の超人的な運動量。「アルビ本能」が何かというと「頑張るチーム」だ。ブルーノ・ロペスが頑張る。キム・ジンスが頑張る。新潟のストロングポイントは粘っこい守りだった。危機一髪のクリアもある。それ以前にポジショニングで危機を回避した場面もある。
田中亜土夢が投入されてからは「頑張るチーム」がもっとハッキリした。サイドでやられていたのを粘る。読んでからみに行く。奪って逆襲に転じる。この先、チームの化学変化が起きてすんごいクリエイティブな攻撃を組み立てる日が来るのかもしれないが、根拠はここだ。ここが崩れたらおしまい。やられっぱなしに見えるって? やられてんのさ。やられて粘ってる。思い出してくれ。何故、新潟がきわどくJ1をサバイブしてきたかを。
ただ両指揮官の3枚目のカード、これは対照的に映った。ガンバはスピード豊かな佐々木を投入、勝ちに来た。新潟は小林慶行でバランスを戻し、粘ろうとした。いや、黒崎監督だって引き分け狙いというわけじゃなかったと思う。思うけれど、「バランスを補強することで戦局を立て直し、前線に勝負させる」は勝負手ではない。「頑張るチーム」は粘って勝ち点1を手にした。勝利にはまだ届かない。
附記1、この土曜日から天候がおかしくなって、昨日は爆弾低気圧が猛威をふるいました。停電は大丈夫でしたか? 電信柱が並んで倒れてる新潟のニュース映像はびっくりしたなぁ。
2、僕は長年の疑問だったんですけど、雨って一週間周期で繰り返す気がしませんか? だから先週、スワンが雨だと今週も雨になる。これね、気象予報士の友達に聞いたら理由があるそうです。春と秋は低気圧が発生して日本列島に来るまで平均3.5日かかるんだって。まぁ、聞いた話でちゃんと説明できないのがシャクだけど、低気圧の進む速度の問題ですね。だから7日は3.5日の倍数なんですよ。大問題なのは週末が雨だと、3.5日後のミッドウィークに雨が来て、7日後の次の週末が又、雨になりやすいという、サッカーにとって最悪な展開ですね。間は晴れてたりする。
3、しかし、ガンバ戦のとき、黒崎監督の傍らに立つ「ニット帽をかぶったモトハルさん」が一瞬、松本零士に見えた。
4、次節・横浜FM戦は今季初スワンです。週間予報だと金曜から雪マーク出てますね。まぁ、何マーク出てようと勝っちゃえばこっちのもんです。アイスバックスのファン感も終わって、ついにサッカーの現場へ復帰しますよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第4節・新潟×G大阪。
このカードが「リーグ戦3連敗どうしの対決」になるとは想像できなかった。それどころかガンバは公式戦5戦全敗を受けて、電撃的にセホーン監督、呂比須ワグナーコーチ、ウェリントン・フィジカルコーチの解任、山本浩靖・強化本部長の辞任を発表した。後任は松波正信監督。つまり、今節は松波監督の初陣であると同時にチームの命運をかけた戦いになる。ガンバほど成熟したチームがひとつ出遅れるとここまでするのだ。それだけ「ポスト西野政権」に危機感を持っているということだ。
迎え撃つ新潟も背水の陣といっていい。そろそろきっかけをつかまなければ長期低迷のパターンに入る。チームが自信を失い、方向性を見失うことがいちばん怖い。積み上げる努力が積み上げている実感を失って、どう努力すればいいのかわからなくなる。めいめいが「自分はこうしたいのに」と思い、疑心暗鬼に陥る。多くの場合、そこで選手どうしのミーティングが開かれたりするが、それでもうまくいかないと士気が落ちてくる。誰かのせいにしたり、何かのせいにする。この負のループに陥らないためにはひとつにまとまる必要がある。
試合当日は荒天だった。春先の低気圧が強風と雨をもたらす。サポーターは凍えて足の感覚がなくなるくらいだった。両チームのいちばん苦しい戦いを象徴するかのような土曜日。
苦しいときに戻る地点。根拠。それを思いながら試合を見る。ガンバのストロングポイントは何か。新潟のストロングポイントはどこか。2人の指揮官は例えば「前節の修正」という発想だってしているだろう。だけど「修正」という域を超えるものを欲している筈だ。キックオフ後、つばぜり合いの時間帯が終わるとそれが次第に姿を現す。
ガンバはリスクを少なくして、構成力で打開するサッカーへ戻ろうとしていた。新潟はブロックを作り、カウンターに転じるサッカーへ戻ろうとしていた。それは指揮官が試合前、ロッカーで強調したポイントだったに違いない。根拠となる地点だ。この形になればうちは強い。新潟の場合はおそらく「前節の修正」的な意味もそこに加わっている。前半から追いまわし、後半バテてしまった反省に立ち、じっくり網を張ってエネルギーを温存する。
先手は新潟だった。開始早々(前半5分)、アラン・ミネイロのFKゴール。雨のピッチを計算に入れ、得意の落ちるボールをGK・藤ヶ谷の前でバウンドさせた。そこから新潟の時間帯が続く。スピード勝負を仕掛け、ガンバDFは対応に追われる。又、セットプレーで決定機を何度も作った。
22分、倉田のスルーパスが通りウラへ抜けた藤春を、大井健太郎がエリア内でレイトチャージ。これがPKになって、ラフィーニャが決める。スコアは1対1のイーブン。といってどちらの得点も交通事故のようなものだ。このまま終わる筈がなかった。僕はやはり根拠の部分を見ようと思いをこらす。ガンバにボールがおさまりだし、形ができ始めている。
根拠が根拠であるためにはチームがひとつでなければならない。新規加入も何もない。統一されたイメージ。いや、本当は「統一されたイメージ」より強いものだ。本能に近い。絶対の確信。そこまで行って初めて根拠だ。混乱の只中で、恐怖のなかで、皆が立ち返る場所だ。嵐に揺さぶられる船の1本のマスト。まぁ、言葉をカンタンにするために「ガンバ本能」「アルビ本能」と呼んだっていい。
後半になって、ガンバはいい形を作る。新潟は「嵐に揺さぶられる船」だ。が、マストが折れて漂流していたのか。僕はそうではないと思う。必死で粘ろうとしていた。貴章と三門の超人的な運動量。「アルビ本能」が何かというと「頑張るチーム」だ。ブルーノ・ロペスが頑張る。キム・ジンスが頑張る。新潟のストロングポイントは粘っこい守りだった。危機一髪のクリアもある。それ以前にポジショニングで危機を回避した場面もある。
田中亜土夢が投入されてからは「頑張るチーム」がもっとハッキリした。サイドでやられていたのを粘る。読んでからみに行く。奪って逆襲に転じる。この先、チームの化学変化が起きてすんごいクリエイティブな攻撃を組み立てる日が来るのかもしれないが、根拠はここだ。ここが崩れたらおしまい。やられっぱなしに見えるって? やられてんのさ。やられて粘ってる。思い出してくれ。何故、新潟がきわどくJ1をサバイブしてきたかを。
ただ両指揮官の3枚目のカード、これは対照的に映った。ガンバはスピード豊かな佐々木を投入、勝ちに来た。新潟は小林慶行でバランスを戻し、粘ろうとした。いや、黒崎監督だって引き分け狙いというわけじゃなかったと思う。思うけれど、「バランスを補強することで戦局を立て直し、前線に勝負させる」は勝負手ではない。「頑張るチーム」は粘って勝ち点1を手にした。勝利にはまだ届かない。
附記1、この土曜日から天候がおかしくなって、昨日は爆弾低気圧が猛威をふるいました。停電は大丈夫でしたか? 電信柱が並んで倒れてる新潟のニュース映像はびっくりしたなぁ。
2、僕は長年の疑問だったんですけど、雨って一週間周期で繰り返す気がしませんか? だから先週、スワンが雨だと今週も雨になる。これね、気象予報士の友達に聞いたら理由があるそうです。春と秋は低気圧が発生して日本列島に来るまで平均3.5日かかるんだって。まぁ、聞いた話でちゃんと説明できないのがシャクだけど、低気圧の進む速度の問題ですね。だから7日は3.5日の倍数なんですよ。大問題なのは週末が雨だと、3.5日後のミッドウィークに雨が来て、7日後の次の週末が又、雨になりやすいという、サッカーにとって最悪な展開ですね。間は晴れてたりする。
3、しかし、ガンバ戦のとき、黒崎監督の傍らに立つ「ニット帽をかぶったモトハルさん」が一瞬、松本零士に見えた。
4、次節・横浜FM戦は今季初スワンです。週間予報だと金曜から雪マーク出てますね。まぁ、何マーク出てようと勝っちゃえばこっちのもんです。アイスバックスのファン感も終わって、ついにサッカーの現場へ復帰しますよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
