【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第126回

2012/4/19
「黄信号」

 J1第5節・新潟×横浜FM。
 荒天。気温3℃。小雪がつむじを作る。ダウンコートで完全武装して行ったが、過去、僕が経験したサッカー観戦で2番目の寒さだ。ダントツは04年1月、デッレアルピで見たユベントス×レッジーナ。ナイトゲームで気温はマイナス2℃。文字通り「アルプスおろし」が吹きつけて、体感気温はもっと下がっていたろう。今日、相手チームで出場する中村俊輔はレッジーナの一員だった。

 4月最初の試合だというのに、ビッグスワンは前節に続いて真冬の気候だ。NHK新潟の生中継が組まれたこともあって観客動員は低調。ホーム2試合連続で2万人台を大きく割り込む。これは黄信号点滅である。これまでどんな悪天候でもチームを後押ししてきたファン、サポーターがスタジアムから消えはじめた。

 今節も「未勝利戦」になった。樋口靖洋監督の下、新たなスタートを切った名門・横浜FMも又、結果が出ていない。試合前、知り合いの記者が「今節負けたら樋口さん解任の噂」を聞かせてくれた。本当にシビアなところだ。しかし、考えてみると新潟は開幕して5節、名古屋戦を除いて全て「未勝利戦」を戦っている。見ていて「こりゃバリバリだ、敵わないや」ってチームとはひとつも当たっていない。調子の出てないとこと当たって勝てないのだ。

 僕は今季初スワンだった。バカみたいで恐縮するが、駅前のビジネスホテルに前泊して嬉しすぎて眠れなかった。桜満開の東京を後に、越後交通の高速バスで寒い新潟へ来るなんてたぶんどうかしてるのだ。チームがクリエイティブなサッカーで絶好調ってわけでもない。雪予報だから観客も少なく、盛り上がんないと思う。でもさぁ、嬉しいんだよサッカー見れるのが。みんな元気だったか。みんな元気ないのか。ホントに雪降ってきたなぁ。チアのおねーさん大丈夫ですか?

 試合が始まって感心したのは横浜FMの慎重な戦いぶりだった。新潟はいつものように最初プレスに行って、それじゃもたないから落ち着かせる。横浜FMは引いてきた。FWは小野が下がって、大黒ワントップみたいになってる。リスクを最小限にする戦法だ。いや、だけど相手は点取れてない新潟だよ。もう、大黒が単騎ウラへ抜けるのだけ気をつければいい感じになっている。まぁ、言葉を変えると臆病な戦い方だ。名門マリノスがここまでするのか。事態はそれほど切迫してるのか。

 で、横浜FMは後半プッシュアップして組み立ててきたけど、大して迫力なかった。シュート数自体が少ない。怖いのは中村俊輔のセットプレーだけ。だけど、新潟が負けず劣らず迫力ない。これは何だろうと考えた。軸が定まんない。パッと浮かんだのは「キャンプ中の練習試合?」という連想。TV観戦じゃないからオフ・ザ・ボールの動きがわかる。これはぜんぜんチームができてない。

 選手が苦しそうに見えた。僕が想像した戦局はこんな感じだ。まぁ、大戦中の南方戦線ですね。補給線が伸びきって、兵隊さんが混乱している。けれど、訓練された兵隊だからとりあえず急場はしのげるみたいなんだなぁ。とりあえず目の前のことに全神経を傾けている。誰かが責任を持って局面を打開しなきゃいけないのはわかってるんだけど、皆、持ち場で手いっぱい。

 僕には横浜FMの慎重すぎ、臆病にさえ見えるアプローチのほうが理に適ってるように見えた。ブロックを一段ずつ積み上げようとしている。といって土壇場にもつれ込めばそんなもん何の役にも立たない。僕はどうか0-0で最終局面まで行きますようにと念じた。そうなったら一発勝負だ。チームの課題なんて終わってから考えればいい。闘争心がこの試合を決する。誰か行け。勝負かけろ。

 が、そういうことにはならずタイムアップ。終わってみれば「千日手」みたいな試合だった。僕は特に最終盤、頭に血がのぼってたから、身体が冷えきっているのに後で気づいた。ちっきしょう、「未勝利どうしのお寒い試合」って揶揄されるのか。

 新潟に明るい話題があるとすれば東口、ミシェウが戻ってきたことだ。2人ともケガ明けだから、寒い日の試合で無理するなよと心配したが、持ち味は出せていた。選手が揃えば、もうこれまでのようにカッコでくくってチームを見つめる必要がなくなる。

 読者よ、僕の考えを言おう。今年は大変だ。覚悟してかかろう。あぁ、スタジアムを出るときにチームスタッフが暗い顔をしてて、こりゃいけないと思ったよ。ソッコー「頑張りましょう!」と声をかけた。僕がこの冬、経験したこと。どんなに苦しくたって別に死にゃしないんだから元気出さないと。日光アイスバックスはドクターまで声を出す。リンク整備の係員まで悔し泣きする。サポもスタッフもみんなチームだ。元気ないチームはダメじゃん。


附記1、最初にお知らせすべきなのは、来週から新潟日報で僕の連載コラムが始まることです。隔週火曜日掲載で、タイトルは『新潟レッツゴー!』。横浜FM戦前夜、編集委員室長の鈴木聖二さんにお会いしたとき、「日報書かせてください」とお願いしたんです。そしたら週明け、運動部長の目黒淳さんからメールが届いた。お互い即断即決。だからアレです、新潟日報は単にスポンサーとかいう話じゃなく、本当にアルビの味方なんだね。2万人割れに危機感をつのらせて何かできないか、ぐつぐつ沸騰してる人がいますよ。

2、新潟日報コラムで僕がやりたいのはサポだけじゃなくて、一般読者のところへ物語を届けることです。以前ね、長岡のサポーターから「4万人動員復活プロジェクト」をやろうと思うんだが、会長をやってくれないかってメールもらったんですよ。それは丁重にお断りした。僕はあくまでライターで、サポの動きをフォローして書くことはできるけど、自分が旗を振るのは違うと思う、唯一、自分に例外を課したのはアイスバックスなんだけど、本来の動きに制約ができて後悔だってしてるって。僕がいちばんお役に立てるのって新聞コラムみたいなことだと思うんですよ。目黒部長には「今週からでも行けます」と電話で申し上げたんです。

3、話は違うけど、新潟駅前の18時に鳴る音楽せつないね。あれはチャイムっていうの? オルゴールじゃないしなぁ。海は荒海 むこうは佐渡よ かもめ飛べ飛べ もう日は暮れた。18時5分発の高速バス待ってて泣きそうになった。共同運行便は帰りも越後交通バスでした。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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