【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第164回

2013/4/4
 「最悪を想定してかかる」

 ナビスコ杯第1節(Bグループ)、新潟×大分。
 春分の日に行われたナビスコ初戦を振り返る。ちなみに僕は社会人になって祝日とほぼ無関係な生活を送っていて、この日もフツーに働いていた。だもんでTV録画観戦だ。当連載を始めた頃と比べるとナビスコ戦が全試合、TVで見られるようになって本当に助かっている。もちろん、TVではわからないことも沢山あるんだけど、やってもらえるだけ有難い。天皇杯もNHKアーカイブスとかで全試合見られるようにしてくれないかな。

 ナビスコ大分戦は注目のカードだった。まず去年、「奇跡の残留劇」を演じた新潟にとっては残留争いの仮想ライバルであり得る。いや、シーズン始まったばかりでそんな景気の悪い話すんな、とお叱りを受けそうだけど、現に弱いから「奇跡の残留劇」だったわけで変な幻想は持たないほうがいい。最悪を想定してかかるのが建設的ではないか。「シーズン始まったばかり」なのは大分も同じで、別に昇格組だからといって中位にまぎれ込む気はマンマンだろう。といって事実として、両軍ともに今季未勝利なのだ。当然のこと、仮想ライバルに勝って弾みをつけたい。のみならず仮想ライバルの力のほどが知りたい。

 あ、この話は「はんにゃむ~ほんにゃむ~、新潟は今季も残留争いを戦うであろう~」と予言してるんじゃありませんよ。僕はもっとポジティブに考えている。だけど、僕がここで「いやぁ新潟、今季はぶっちぎりの優勝ですよ!」なんて言っててどうなる。シーズン序盤は全体のアタリを取るっていうんかなぁ、敵がどのくらいの力で自分らがどのくらいか知るのは大事でしょう。

 それからこの試合はナビスコ戦ということでメンバーの組み替えがあった。ここが注目ポイントだ。2トップの一枚に岡本、ボランチに本間勲、CBに濱田、右SBに菊地、GKに竹重と楽しみな顔ぶれが揃った。交代出場は成岡負傷OUT→三門INは計算外だったかもしれないが(計算外だったが、三門の右サイドハーフは問題なかった)、川又、川口にはアピールのしどころでもある。

 で、実戦。やってみてよくわかったのは「形になる」ということ。田中達也抜きのチームでも充分、自分たちの形を示していた。スタイルは共有されている。奪える。運べる。組み立てられる。問題はフィニッシュだ。フィニッシュのところがまだまだプアーだ。僕は岡本は悪くなかったと思うし、川又も狙いがあってよかったと思う。が、もっとやって欲しい。この日の大分のように下がって構えるチームを崩すのはカンタンじゃない。

 スコアは前半29分、成岡負傷のスキに宮沢にロングボールを入れられ、木島にウラへ抜けられた失点と、同37分、亜土夢CKからニアの濱田ヘッドという1対1。ウラへ抜けられる失点はリーグ開幕戦でも食らっている。あと今季、新潟の全得点は目下、CBによるもの。つまり、「奪ってショートカウンター」でも「ロングフィードでブルーノ一閃!」でもなく、又「ショートパスでビルドアップ」でもない点が入っているんだなぁ。濱田はぜんぜんイケルね。あ、本間、菊地は当然として。

 さて、ドロー決着で「勝って弾みをつけたい」は両軍叶わなかったわけだが、じゃ、「敵がどのくらいの力で自分らがどのくらいか」についてはどうか? これが現時点で言いますと大差ないってとこですね。僕は週末、平塚にナビスコ第2節、湘南×大宮を見に行ったけど、湘南も大差なかった。それぞれ課題を抱えていて結果が出ない。といって柳下さんはもちろん、田坂さんチョーさんそれぞれ監督さんがブレてない。僕はそれでも新潟に一日の長があると思うけど、大分の闘争心、湘南の積極性は大いに買いたいなぁ。昇格組なかなかいいですよ。

 新潟は恒例(?)の「開幕ダッシュ失敗」で難しいとこへさしかかってきた。「内容はいいのに勝てない」が続くとチームが自信を失ってしまう。思えば開幕のセレッソ戦を圧倒したまま3点くらいとってたら、その後がぜんぜん違ったんじゃないか。リーグ戦は次が浦和で、仙台、名古屋、横浜FM、鹿島…、と油断のならない相手が続く。下手をしたらトンネルに入る可能性だってある。6月の中断期間までに勝ち点をどこまで積み上げられるか。案外、ドローの勝ち点1が大きいものだ。追いつくドローゲームが2つ続いたが、こういうしぶとさは前向きに捉えたい。

 まぁ、難局は難局だが、柳下さんのチームだ、いつかは必ず火を噴く。サポーターも今更こんな事態揺らぎはしないだろう。ひとつハマりだすとトントン行くと思う。チームもサポもしぶとく続けるしかないね。

 話が終わっちゃったんで別の話題。サポにとっては「決定力不足」や「秋冬制」といった長く解決のつかない、いい加減にしろと言いたいような問題があるね。そこにもうひとつ心配事を加えるだけかもわかんないけど、考えてもらいたいんだ。「J3」って言ってるでしょ。つまり、Jリーグ再編にサッカー界は向かっている。

 先月、西部謙司さんに会ったとき、その話になったんだけど、西部さんも僕と同じ予想を立てていた。これは「プレミア化」の流れじゃないか。J1の上に資金力を持ったチーム主体でプレミアリーグを作る。チーム数は現在のJ1より少なくするだろう。試合数も少なくしてステータスを高め、地上波放映を仕掛けるに違いない。新潟はもうひとつのサバイバルを余儀なくされるかもしれない。まだJリーグ側の誰も公式にはそんなコメントしてないけれど、どうもそう見えてならない。

 今週売りの『週刊サッカーマガジン』(4月9日号)の連載「ゴールのあとの祭り」で西部さんがそれに言及している。これは難題だよ。これに比べたら今季初勝利なんて間違いなくハードルが低い。まぁ、勝つしかないね。勝って、生き残る。10年めのJ1リーグはたぶんこれまでより意味が重い気がしてるんだ。


附記1、ヨルダンはホームだと強かったですね~。圧勝したときと別のチームだった。又、失点にゴートクがからんでたのも残念無念。まぁ、6月の埼スタでW杯出場決めましょう!

2、浦和戦は楽しみですね。田中達也がゴールを決める気がします。

3、浦和戦の日は絶対、海老家へ行きますよ。こないだ広島戦の翌日行こうと思ったら日曜定休でやんの。あれはがっくり来た。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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