【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第166回
2013/4/18
「初勝利」
J1第5節、仙台×新潟。
「春の青春18きっぷ」のメインはこの日に設定していた。仙台日帰りだ。これは机上のプランの段階から「余りの1回史上最高?」と惚れ惚れした。あ、青春18きっぷは5回分ワンセットになっている。4回は往復で使えて僕の場合は「ホームゲーム2試合分」とイメージしやすい。問題は余りの1回をどうするかなのだ。ここに頭をひねる。まぁ、3試合めホームゲーム片道分でもいいんだけどね。
で、この日は朝5時10分に上野を出発して、ひたすら東北本線で北上し12時16分仙台着、試合観戦の後、17時01分仙台発で同じコースを戻り、23時38分上野着って寸法だ。これが2300円におさまる。どうですか往復14時間強。「乗り鉄」級に一日電車乗りっぱなし。もう、試合のことよか電車に乗ってた記憶が残るだろう。
そしたら「爆弾低気圧」を心配する以前に計画をあきらめざるを得なくなった。病院の予約を入れた。実は禁煙外来に通っていて、2週に一度、浅草寺病院を受診しなければならない。浅草寺病院はその名の通り、浅草寺が経営する病院。つまり、僕は観音様のご利益で禁煙に成功して1ヶ月になる。ヘビースモーカーで通ってたから周囲もびっくりだ。問題は浅草寺病院の禁煙外来が、土曜の午前中のみの診察なんだね。僕は治療期間の12週、「Jリーグと通院生活の両立」という難しいテーマを抱えることとなった。
なので泣く泣く自宅待機だ。台風並みの低気圧の通過でNHKニュースは「不要不急の外出を控えて下さい」と言っている。天候は西から崩れるようだから仙台はどうにかもつかもしれないなぁ。仙台の様子はどうだろうと思って、何故か知り合いサポにメールするより先にコミュニティFMが浮かんだ。僕のiフォンは「TuneIn Radio」という無料アプリをダウンロードして、世界じゅうのネットラジオを聴けるようになっている。主にアメリカのJAZZ専門局を愛聴しているが、確か「FMいずみ」という仙台市泉区のFM局が聴けた筈だ。
で、色々やってるうち「ラジオ3」という仙台市のFM局がベガルタ戦の生中継をしていることがわかった。これは面白そうだ。「TuneIn Radio」を通して聴けちゃうよ(たぶんフツーにPCでアクセスしても聴けると思います)。こういう未知のJリーグへのアプローチを見つけるとワクワクする。
だから、オンタイムでは「ラジオ3」実況に全神経を研ぎ澄ました。で、しかるが後にスカパー録画を見た。興味深い経験だった。戦況はハッキリとはわからないんだけど、雰囲気だけはダイレクトに伝わって来る。モバアルのテキストライブのほうが何が起きたかは伝わってくる。その代わり、テキストライブより「場」がある。あれは実況アナと解説者の関係性がつくるものなんだろうな。
試合が始まり、「ラジオ3」実況中継に何が出来(しゅったい)したかというと、シュートを打たない嘆きというか愚痴であった。解説の宮城県サッカー協会氏(お名前が聴きとれない)は「ポゼッションをしてもシュートを打たなかったら何にもならない」だ。じぇじぇ! そんなうまいことが! いやもう、「ラジオ3」が嘆く嘆く。どうも、新潟は非常にうまく行ってるみたいだぞ。
ま、起きていたことは「前半シュート数、新潟14本、仙台0本」だ。滅多にないくらいの極端な話だ。どうも鬼プレスに行ってるというより、奪いどころがハマッてる風だ。前半16分、田中達也のパスからDFのウラへ抜け出したブルーノ・ロペスが右サイドからクロスを入れる。頭で合わせたのは成岡翔! 移籍初ゴールは貴重な「チーム今季初、先制得点」だ。
その流れで前半のうちに追加点をモノにしたかった。惜しかったのは同33分のブルーノの豪快なやつと、34分の達也の反転してのシュート。結果的に貴重な先制点は貴重なまま貴重すぎることになり、つまりそれを世間では「虎の子の1点」と呼ぶのだが、試合終盤のドラマを演出することになる。
しかし、仙台は攻め手が遅過ぎた。何と初シュートが後半12分のウィルソンだ。「ラジオ3」解説氏は何度も「ポゼッションするのが目的ではない」を繰り返す。あるいは「去年のよかったときのベガルタは相手に持たせて鮮やかなカウンターを決めた。今はそれが逆になっている」なんて言う。ふーん、うまくいってないっぽいなぁ。ブレ始めているのか? 仙台は後半になってやり慣れた4ー4ー2に戻してきた。
後半14分、申し訳ないがこの試合のキーパーソンになる本間勲が成岡に代わってIN。演劇でいえば主役が下手(しもて)へ下がり、上手(かみて)から個性派の名優が登場した感じか。本間はそこから30分ほどの間にイエローカードを2枚もらって退場してしまう。これは(特に2枚めに関しては)判定が厳しかったとも言える。取られても仕方ないが、取らない審判もいるんじゃないか。ていうか、「ラジオ3」実況席も、後にスカパー映像を見た僕も亜土夢のほうが退場に近かったかもしれないと思ったね。
で、後半45分の本間退場劇から地獄の「ロスタイム5分」だ。仙台の総攻撃に耐える時間の長かったこと。その時間帯の「ラジオ3」の勢いづいてたこと。読者よ、勝つって大変だね。心臓によくないね。いやぁ、何とかという勝利ではあった。「薄氷を踏む」思い。それでも今季リーグ戦初勝利だ。よかったよかった。
附記1、ナビスコ・鹿島戦は1対2の敗戦でしたね。ちょっと意気消沈する前半だったけど、後半は川又堅碁が一矢報いてくれた。しかし、寒の戻りでビッグスワン超寒そうでした。←TV観戦。
2、「ラジオ3」実況聴いてて面白かったのは、キム・ジンスに関して鮮烈な記憶が残ってるところでした。やっぱり、やられた選手って敵は覚えてますよね。なるほどなぁと思った。
3、「ラジオ3」は比較的大きなステーションで、ベガルタ中継を地域の「FMいずみ」等、コミュニティ局にネットしてる構造ですね。ちなみにコミュニティ局自体が奮闘してる例で有名なのは、コンサドーレ生中継の「三角山放送局」かな。これは新潟でいったら上越の「FMーJ」規模です。どこの試合でもひとり手弁当の人が行って、たぶんケータイかなんかの回線使って実況入れてるんだと思う。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第5節、仙台×新潟。
「春の青春18きっぷ」のメインはこの日に設定していた。仙台日帰りだ。これは机上のプランの段階から「余りの1回史上最高?」と惚れ惚れした。あ、青春18きっぷは5回分ワンセットになっている。4回は往復で使えて僕の場合は「ホームゲーム2試合分」とイメージしやすい。問題は余りの1回をどうするかなのだ。ここに頭をひねる。まぁ、3試合めホームゲーム片道分でもいいんだけどね。
で、この日は朝5時10分に上野を出発して、ひたすら東北本線で北上し12時16分仙台着、試合観戦の後、17時01分仙台発で同じコースを戻り、23時38分上野着って寸法だ。これが2300円におさまる。どうですか往復14時間強。「乗り鉄」級に一日電車乗りっぱなし。もう、試合のことよか電車に乗ってた記憶が残るだろう。
そしたら「爆弾低気圧」を心配する以前に計画をあきらめざるを得なくなった。病院の予約を入れた。実は禁煙外来に通っていて、2週に一度、浅草寺病院を受診しなければならない。浅草寺病院はその名の通り、浅草寺が経営する病院。つまり、僕は観音様のご利益で禁煙に成功して1ヶ月になる。ヘビースモーカーで通ってたから周囲もびっくりだ。問題は浅草寺病院の禁煙外来が、土曜の午前中のみの診察なんだね。僕は治療期間の12週、「Jリーグと通院生活の両立」という難しいテーマを抱えることとなった。
なので泣く泣く自宅待機だ。台風並みの低気圧の通過でNHKニュースは「不要不急の外出を控えて下さい」と言っている。天候は西から崩れるようだから仙台はどうにかもつかもしれないなぁ。仙台の様子はどうだろうと思って、何故か知り合いサポにメールするより先にコミュニティFMが浮かんだ。僕のiフォンは「TuneIn Radio」という無料アプリをダウンロードして、世界じゅうのネットラジオを聴けるようになっている。主にアメリカのJAZZ専門局を愛聴しているが、確か「FMいずみ」という仙台市泉区のFM局が聴けた筈だ。
で、色々やってるうち「ラジオ3」という仙台市のFM局がベガルタ戦の生中継をしていることがわかった。これは面白そうだ。「TuneIn Radio」を通して聴けちゃうよ(たぶんフツーにPCでアクセスしても聴けると思います)。こういう未知のJリーグへのアプローチを見つけるとワクワクする。
だから、オンタイムでは「ラジオ3」実況に全神経を研ぎ澄ました。で、しかるが後にスカパー録画を見た。興味深い経験だった。戦況はハッキリとはわからないんだけど、雰囲気だけはダイレクトに伝わって来る。モバアルのテキストライブのほうが何が起きたかは伝わってくる。その代わり、テキストライブより「場」がある。あれは実況アナと解説者の関係性がつくるものなんだろうな。
試合が始まり、「ラジオ3」実況中継に何が出来(しゅったい)したかというと、シュートを打たない嘆きというか愚痴であった。解説の宮城県サッカー協会氏(お名前が聴きとれない)は「ポゼッションをしてもシュートを打たなかったら何にもならない」だ。じぇじぇ! そんなうまいことが! いやもう、「ラジオ3」が嘆く嘆く。どうも、新潟は非常にうまく行ってるみたいだぞ。
ま、起きていたことは「前半シュート数、新潟14本、仙台0本」だ。滅多にないくらいの極端な話だ。どうも鬼プレスに行ってるというより、奪いどころがハマッてる風だ。前半16分、田中達也のパスからDFのウラへ抜け出したブルーノ・ロペスが右サイドからクロスを入れる。頭で合わせたのは成岡翔! 移籍初ゴールは貴重な「チーム今季初、先制得点」だ。
その流れで前半のうちに追加点をモノにしたかった。惜しかったのは同33分のブルーノの豪快なやつと、34分の達也の反転してのシュート。結果的に貴重な先制点は貴重なまま貴重すぎることになり、つまりそれを世間では「虎の子の1点」と呼ぶのだが、試合終盤のドラマを演出することになる。
しかし、仙台は攻め手が遅過ぎた。何と初シュートが後半12分のウィルソンだ。「ラジオ3」解説氏は何度も「ポゼッションするのが目的ではない」を繰り返す。あるいは「去年のよかったときのベガルタは相手に持たせて鮮やかなカウンターを決めた。今はそれが逆になっている」なんて言う。ふーん、うまくいってないっぽいなぁ。ブレ始めているのか? 仙台は後半になってやり慣れた4ー4ー2に戻してきた。
後半14分、申し訳ないがこの試合のキーパーソンになる本間勲が成岡に代わってIN。演劇でいえば主役が下手(しもて)へ下がり、上手(かみて)から個性派の名優が登場した感じか。本間はそこから30分ほどの間にイエローカードを2枚もらって退場してしまう。これは(特に2枚めに関しては)判定が厳しかったとも言える。取られても仕方ないが、取らない審判もいるんじゃないか。ていうか、「ラジオ3」実況席も、後にスカパー映像を見た僕も亜土夢のほうが退場に近かったかもしれないと思ったね。
で、後半45分の本間退場劇から地獄の「ロスタイム5分」だ。仙台の総攻撃に耐える時間の長かったこと。その時間帯の「ラジオ3」の勢いづいてたこと。読者よ、勝つって大変だね。心臓によくないね。いやぁ、何とかという勝利ではあった。「薄氷を踏む」思い。それでも今季リーグ戦初勝利だ。よかったよかった。
附記1、ナビスコ・鹿島戦は1対2の敗戦でしたね。ちょっと意気消沈する前半だったけど、後半は川又堅碁が一矢報いてくれた。しかし、寒の戻りでビッグスワン超寒そうでした。←TV観戦。
2、「ラジオ3」実況聴いてて面白かったのは、キム・ジンスに関して鮮烈な記憶が残ってるところでした。やっぱり、やられた選手って敵は覚えてますよね。なるほどなぁと思った。
3、「ラジオ3」は比較的大きなステーションで、ベガルタ中継を地域の「FMいずみ」等、コミュニティ局にネットしてる構造ですね。ちなみにコミュニティ局自体が奮闘してる例で有名なのは、コンサドーレ生中継の「三角山放送局」かな。これは新潟でいったら上越の「FMーJ」規模です。どこの試合でもひとり手弁当の人が行って、たぶんケータイかなんかの回線使って実況入れてるんだと思う。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
