【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第167回

2013/4/25
「地力とマケドニア人と田中さん」

 J1第6節、名古屋×新潟。
 このカード初めての豊田スタジアム開催である。これは日程が発表されてからサポーターの間で話題だった。何故か新潟の試合は瑞穂ばかりで組まれてきたのだ。その理由については02年W杯がらみの都市伝説めいた憶測すら飛び交っていた。まぁ、それも今日で払拭されるだろう。現地へ出かけた知り合いサポには「すごくサッカーが見やすい」「席の下にヒーターが入っていた」と大好評だった。

 開幕から6節、カップ戦も挟まって日程が詰まり、両軍とも疲れが出てくるところだろう。これは地力が出る試合になりそうだぞと思う。1対1の「個」のぶつかり合い。そして戦術的な積み上げの差。という言い方をすると、潤沢な資金力でタレントを揃え、かつストイコビッチ体制6年め名古屋に敵うわけないところだけど、僕は新潟がどのくらいやり合えるのか興味津々だった。つまり、どのくらい地力がついてきたか見たいと思った。

 名古屋は地力がある。最後尾に闘莉王、ボランチにダニルソンがいるだけでもう骨組みは揺るぎない。前も後ろも高さがある。新潟の今年の武器、崩しの形や高さがどの程度、通じるだろうか。あとカンケイないが、名鑑を見て名古屋の新戦力「ヤキモフスキー」の名前に魅かれる。僕は以前から言ってるが、語感を重んじるタイプだ。「ヤキモフスキー」、旨そうだ。高円寺の焼肉屋でどうか。ヤング焼肉「ヤキモフスキー」。何とマケドニア人である。塩野七生さんの『ローマ人の物語』を連想するなぁ。今日出てくるだろうか?

 それからこれも地力の話となーんもカンケイないが、両軍スタメンのフィールドプレーヤー20人中、実に5人が田中姓である。つまり、4分の1が田中という田中密度。僕は「玉田も田中になればいいのに」とめちゃくちゃなことを思う。で、その5人の田中さんが全員、キープレーヤーだ。はんにゃむ~ほんにゃむ~、今日は田中さんのゴールが見られるぞよ~、と予言してみた。願わくば田中達也でありますように。

 試合。開始2分、その田中達也が最初のシュートを放つ。依然として好調をキープしている。そういえば先日、隅田川沿いをウォーキング中、向こうから元『NAVI』編集部だったサトータケシ氏がジョギングしてきて、「おお!」「あ!」と立ち止まってそのまま10分くらい田中達也の話をして別れたのだ。主に自動車評論を手がけるライター、サトーさんは熱心な浦和サポでもあって、達也には格別の思い入れを持っている。「あんなに動けるとは思ってませんでした。60分限定っていうけど、あれだけやれれば充分ですね」とのこと。

 ま、予定としては田中達也の移籍初ゴールで先制だったんだけど、ちょっとずつ押されて窮屈になった前半13分、エリア内でレオ・シルバがファウルをとられ、PKを与えてしまう。これを玉田が決めた。こういう試合序盤のザワザワしたとこで先手をとるか後手にまわるかは大きな要素だ。案の定、そこから試合が落ち着いていく。

 ゴールを決めた田中さんは名古屋の1トップ、田中輝希だった。玉田が3人ひきつけて小川にパスを送り、GK・黒河が飛び出したところを更に田中輝希にパスを送られた。ちょっと新潟の時間帯になりかけていたので、ガッカリ感倍増。名古屋は局面を落ち着けてこれを狙っていたかな。

 だけどね、前めで奪ってすぐ攻撃に結びつける形は何度もつくっていたよ。新潟のやりたいサッカーは見えた。結果に結びつかないのはほんの少しのところなんだ。「ミス」とも言えないくらいの集積。少しパスがずれる。少しトラップが乱れる。少し出しどころを探す。少しタイミングが合わない。そういう少しの部分で攻撃が遅れていき、リズムをつかみ損ねる。これを日本語では「地力」と言いますけどね、それでもひとつひとつを見ればほんの少しのことでしかない。

 あと亜土夢もそうだけど、田中達也は小兵だからシュートのパンチ力自体はないんだよね。ボクシング漫画『はじめの一歩』でいったら豪快な幕之内一歩タイプじゃなく、タイミングで倒す宮田一郎タイプ。今は「もうちょいなんだけどなぁ」とヤキモキしてる感じでしょ。そろそろハマりそうな感覚は(特に成岡が関与するシーンで)出てきた。

 といって完敗は完敗だったですね。試合終盤は元気がなかった。尻つぼみの試合展開が目立ってきた。このスタイルはスタミナきついのか。こんな気候のいい時期に粘れないようだと夏場なんか大丈夫かと思う。

 尻つぼみの試合展開は(実際には頑張っていても)印象悪いですよね。そういえばケンゴ、岡本入れて、クナン上げてパワープレーで総攻撃ってわかりやすい展開もあんまり見ないなぁ。名古屋に高さが通じるかどうか見たかった。

 ま、名古屋側からいえば「そのままあっさり負かす」ことが地力なんだろうね。浦和戦に似た印象。相手が強かった。ま、そういう風にサイの目が出ることもあるよ。去年みたいにホームで5-0と大勝することもある。次節はホームで絶好調・横浜FM戦か。地力のある相手が続くね。


附記1、矢野貴章選手が名古屋のユニホーム着てて、ヘンな感じでしたね。「間違った服を着て出てきちゃったんじゃないか」感があった。

2、敵ながらダニルソンの強さには惚れ惚れしました。レオ・シルバとマッチアップして奪い取るってどういう迫力だ。あと「ヤキモフスキー」は終盤出てきたけど、見た目は別に旨そうじゃなかった。←そりゃそうだ。

3、この週は東京ディズニーリゾート30周年の「ザ・ハピネス・イヤー」プレビューナイトにご招待いただきました。アトラクションがぜんぜん並ばずに見れて快適でした。だけど、30周年で魅力が色あせないって大変な企業努力ですよね。20周年のJリーグも見習う必要ありますね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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