【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第168回

2013/5/2
 「連勝チームを止める」

 J1第7節、新潟×横浜FM。
 これはいい試合だったなぁ。開幕6連勝のレコードを作った横浜FMを迎え、これしかないという勝ち方をやり切る。横浜FMにとっては非常にやりにくい、ペースのつかめない試合だった。ということは新潟の試合だった。が、読者も知るように「自分らの意図がハマる」「敵の持ち味を消す」と「試合に勝つ」の間には大きな壁がある。戦術的なミッションを完遂したとして、まだ勝てるかどうかはわからない。

 だけど、まずやり切ったことを大いに称えようじゃないか。「13年アルビレックス」はひとつの段階に達した。プレッシングサッカーと呼んでも、ショートカウンター戦術と呼んでもいいが、とにかく相手にスキを与えず、なるべく前めで奪い、チャンスを作りだすサッカーは一定の戦闘レベルを持った。「試合間隔の詰まった、肌寒いくらいのコンディション」という条件下で90分持ちこたえられる。

 新潟のとったのは守備的な戦法だ。とにかくボール供給源の中村俊輔を囲み、前線&中盤のプレスを徹底する。が、サッカーは野球と違って、攻撃と守備がくっついている。がんがんプレスにいくのは確かに「守備的」だが、奪った瞬間、「攻撃的」になる。あるいはがんがんいくこと自体が攻めの姿勢だ。敵にゆとりを与えず、意図をつぶし、形を作らせない。横浜FM級の相手にこれを90分やり抜くには体力もメンタルタフネスも、そして組織力も要る。

 サラリーマン社会っぽい言い回しで「ほぼほぼ」というのがあって、何かこう、営業目標の達成とかをビミョーにごまかしてる感じで面白いんだけど、「ほぼほぼ出来てきた」と表現したい。ま、そりゃ終盤はゆるくなりますよ。ミスが出ることだってあります。だから「ほぼほぼ」。ほぼほぼ、ほぼほぼ、ほぼほぼほぼぉーっ。

 あ、そうですね、ついでにこれは言っときましょう。この試合はラッキーでした。相手の2、3回あった「あ、これはやられた」ってシュートが外れたりポストを叩いたりしてくれた。「戦術的なミッションを完遂する」と「試合に勝利する」の間に立つ壁を構成しているひとつが、運という要素です。そして不運がそうであるように、幸運も試合のうちなんだなぁ。

 で、「ほぼほぼ」とは対照的に、まだまだ出来てないなぁと思った部分が「フィニッシュ」です。もう、僕はまぎらわしいから「攻撃」と呼ばない。持ち上がった局面でも、奪って勝負でも、フィニッシュが勢いまかせっていうか急いでるんだなぁ。何ていうんですか、バケツの水を運ぶ障害物競争があるとしましょう。ゴールテープの10m手前まで頑張って障害物をかわしてきた。そこまではすごくいい。が、ゴールテープが見えた途端、あわてるんだなぁ。こう、最後の障害物に足をとられて、転びそうになってるから水もこぼれちゃって、もう倒れながらゴールテープのほうへバケツを放り投げたりする感じ? だいぶ違うか?

 フィニッシュのパターンは増えてきて、あとは直前、ちょっとの落ち着きが要るなぁ。ひと間作るとか。最高速度のとこで合わそうとしても合わないよ。それは超高難度なダイレクトプレーだもん。エリアでちょっと落ち着かせて、決める感じ。ま、言うのはカンタンなんですけどね。そういう呼吸が出て来ないかなぁと思います。

 という意味では決勝点は最高のフィニッシュだったでしょう。川又堅碁のパスがスペースに出る。相手DFは2人。J最高峰に要所を締めるのが巧いタイプだけど、形は戻りながらになっている。パスを受けたのは岡本英也。ひとつシュートフェイントを入れて、右足を振り抜く。と、これが「ワールドクラス」と古い表現使いたくなるようなスーパーゴールだった。あれはフェイントも含めて欧州リーグの「ストライカー」ですよ。

 岡本はナビスコ・セレッソ戦に続いて結果出したなぁ。ま、あのシュートフェイントは個人技だったわけだけど、最後に落ち着いてひと間作った。僕はポジティブに捉えます。まず、ひとつ出来た。ひとつ出来たどころか、横浜FMの連勝記録を止めた。これは次につながる。ゴール裏も断幕を出していたよ、「為せば成る」。

 と、今週は試合のデティールに触れず、大づかみにポイントを整理した。アレですかね、ご不満ですかね。せっかく破竹の連勝チームを止めたのにあんまりウヒャウヒャしてなくって。個人的には相当ウヒャウヒャしたんだけど、自宅に戻って録画をもう一度見たらすごく面白かったんですよ。いや、勝った試合という意味ではなくて、「どっちが勝ってもおかしくない試合」が面白かった。

 あ、ウヒャウヒャといえばタイムアップ寸前、もう終わったと思って皆、バンザイしたり、ハイタッチしてたら試合がまだあったでしょ。ウヒャウヒャのフライング状態。あれは審判がハッキリしなかったのか、場の空気がそう思い込ませたのか。意外と怖いですよね、1点差ゲームだし。

 ま、今年も「強いとこに強い」、新潟の芸風は健在ですね。これは存在感を示す素晴しい特徴だから伸ばしていきましょう。ホントは(不敗記録を作った)このくらいのタイミングで大宮と当たりたかったかな。


附記1、「次につながる」と書いた先からナビスコ・鳥栖戦やられちゃったですね。ミスが失点につながる残念なパターンでした。まぁ、だけど鹿島戦は前向きに行きましょう。一歩一歩ですよ。

2、ブルーノ・ロペスはせっかくご家族が来日されたのに残念でした。負傷交代するまでは非常にいい出来でしたね。

3、この日は知り合いサポがクルマに乗っけてくれて、楽チンでした。思ったより早く着いて、おかげで小林慶行氏のトークショーまで見れた。慶行さん、おつかれ様でした。問題は帰り道、降雪の可能性があったことだけど、知り合いはわざわざスタッドレスに履き替えて来てくれてた。翌日、J2松本山雅の積雪中止にはびっくりしたね!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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