【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第169回

2013/5/9
 「GW始まる」

 J1第8節、新潟×鹿島。
 GWシリーズの第1弾はホームの鹿島戦だ。ことリーグ戦に関して言うと得意中の得意、08年春以来、ぜんぜん負けてない。といってほんの2週前にはナビスコ杯で当たって1-2で負けているのだ。あの試合はダヴィにやられた。相手はいいイメージを持って臨んでくると思うが、こちらも想定はできている。どちらも舞台がビッグスワンで、CLのようなホーム&アウェーではないけれど、このくらい試合間隔が短いと2つの試合は一種の「つづきもの」のような興趣を持つ。

 新潟はスタメンが新鮮だった。ブルーノ・ロペスが左足首痛、田中達也が疲労ということで、2トップに岡本英也、川又堅碁の名前が並ぶ。そして右サンドバックにはルーキー、川口尚紀が起用された。僕は浅草寺病院を受診した後、都営地下鉄で新宿フィオーリというコースだったが、川口君のリーグ戦デビューには悔しい思いをする。23578人の観客よ、君には「えのきどさん、生で見てないんですよね?」と言う資格があります。

 新宿フィオーリはたまにこの連載に登場するサッカーバーで、この日は6対4(ロクヨン)で鹿島サポのほうが多かった。途中で1台だけ名古屋×広島戦に切り替わるが、試合前半は店内5台のTVがすべてビッグスワンを映してる豪勢さ。こう、川又が映ると5台が全部川又よ。あれは何だろうな、TeNY中継車のスイッチャー気分? いや、絵が全部同じじゃスイッチしようがないですけども。

 しかし、試合が始まり5台のTVモニターがいきなり見せたのは前半6分、鹿島・柴崎岳のロングシュートが新潟ゴールに吸い込まれるシーンだった。一瞬の出来事だ。奪われて前が開いた。柴崎はよく狙ってたなぁ。GK・黒河の位置を見てブレ球のシュートを放つ。黒河は弾いたが、防ぎ切れなかった。

 典型的な「序盤のつまずき」だ。開始6分、いっせーのせでスタートして、ほぼ丸々1試合を1点ビハインドで戦うことになった。こういうとき、ポジティブシンキングとしては「あぁ、早い時間でよかった」と切り替える方法がある。あるいは僕がよくやる発想術だけど「勝つつもりだったんだから、どうせ1点はとるんだ」とビハインド状況の心理的負担を軽くする手がある。問題はリーグ戦で2点めがとれてないことだけど、それは今、言うな。何にしてもここからのゲーム運びだ。これ以上の失点は命取りになる。

 新潟はよく持ち直した。互角にやり合ったと評価していいと思う。特に前半、ジュニーニョとマッチアップした川口君が素晴しかった。いきなりこんなにできるんだなぁ。あとキム・ジンスとダヴィのバトルも見応えがあった。前半は0-1で終了。

 で、後半は一転、両軍2点ずつとり合う展開になるわけだが、おそらく読者の関心はざっくり2つにしぼられるのじゃないか。

1、CKからとFKからで2失点。セットプレーの守備はどうなのよ?

2、スタメンの岡本&川又、後半開始からの成岡&川又(負傷の岡本に代わって藤田IN)、後半34分からのキム・クナン&川又(成岡OUT→濱田IN)、バリエーションを見せた2トップの評価は?

 まず1だね。これは今シーズンの課題に挙げていいことだと思う。柳下監督の試合後コメントのように、同じ相手にたった2週間でまたやられちゃった点も問題だけど、そもそもセットプレーからの失点が目につくのだ。NHK朝の連続ドラマ『あまちゃん』式に言えば「セットプレーの守備なんとかすっぺ会議(略してSSNSP)」を開かなければいけない。

 それから②だけど、僕は全部面白かったんだよ。まぁ、結果に注目すれば反撃のゴールを挙げた成岡(後半22分、クロスに対して少し戻りながらの美技)だろうけど、それぞれ持ち味があってね。岡本はこの日、ちょっと「持ってない」感じだったけど、積極性は見せた。川又と動きがかぶるところは研究の余地あり。成岡はFWに入れるとFWの動きするね。「人が感じれる」から川又と別の動きができる。クナンはやっぱり相手がびびるね。クナンを上げるパワープレーはもっと見たいと思った。

 で、最後に川又堅碁だけど「いいケンゴが出始めている」と思った。彼はしぶとさでしょ。執念っていうのか。もっと「人が感じれる」部分はないといけない。落ち着いてピッチを広く見ないといけない。が、しぶとく何とかしようともがく「いいケンゴ」がいた。僕は「いいケンゴ」はこれからもっと出るとこだと思うんだよね。フォア・ザ・チームのケンゴがね。

 まぁ、「序盤のつまずき」がなかったら引き分けでもおかしくない試合だった。あのビューティフルゴールは効いたなぁ。だけどさ、いい試合だったよ。定着してたレギュラー級が3枚欠けてもちゃんとやり合える。てか、「代役」ってイメージでなく可能性のほうを感じる。ロスタイム、大井健太郎のゴールで1点差に詰め寄ったときは、「カシマる」の鹿島もちょっと嫌な感じだったと思うよ。


附記1、新宿フィオーリの鹿島サポ(女性客)が「やったー、久しぶりに新潟にリーグ戦で勝てた!」と言ってくれてました。たぶん試合後、こっちに気をつかう心理も働いてたと思う。山村和也のファンらしくて、3点め(後半33分)は嬉しそうでした。

2、「カシマる」の鹿島がちょっと嫌な感じ、は店内の雰囲気から察してです。ああいうところは呉越同舟のサッカーバーの面白さだね。敵サポの生態っていうのか、こういうシーンではどんなことを心配して、どんなことを言ってしまってるか、みたいのがよくわかる。

3、浅草寺病院の禁煙外来では、マディーン啓子先生から「大変優秀です」と誉められております。アイフォンの禁煙アプリによると本稿執筆の5月1日現在、「50日間」の継続中で、これは「一日にメビウスライト一箱半」として計算すると「1500本」(!)を肺に入れることなく、「3万円強」の節約になってるらしいです。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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