【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第173回

2013/6/6
 「シーズン序盤終了」

 J1第13節、川崎×新潟。
 うーん、連敗で中断期間入りかぁ。等々力競技場の仮設メインスタンドで天を仰いだ。日程もきつかったと思うけど、中断前の伸び足がなかったなぁ。リーグ戦なら10節・甲府戦からの4試合、ナビスコ杯は予選突破の大詰め、ここが大事なところだと思っていた。出だしでもたついたチームがペースを戻せるかどうか。戻して中断に入れば皆、ポジティブになれる。

 それは川崎も同じことだ。出遅れたチームがようやく5月になってエンジンがかかって来た。何と今月負けなしの復調ぶりだ。それはチーム戦術の浸透という要素のほかに、選手の頑張りもある。絶好調・大久保嘉人はお父さんのご不幸から最短でチームに復帰したそうだ。まぁ、こういうのは何が正しい選択ということもなく、人それぞれだと思うけれど、大久保はエンジンのかかって来たチームを巡航速度に乗せたかったのかも知れない。

 期せずして復調チームどうしの対決になった。シーズン序盤の決算をピッチに見よう。大いに楽しみだ。それに中断前のカードとしては天の配剤というのか、サッカーの神様のユーモアみたいなもんを感じるではないか。ホントは今、中断したくないのはどっちの「復調チーム」だ? それを中断前に白黒つけようか。

 という風なワクワク感で等々力へ乗り込んだんだけどなぁ。完敗でした。が、「完敗でした」で済ませていい試合ではない。思えば風間フロンターレとぶつかるのは去年のシーズン終盤、ビッグスワンで奈落の底に突き落とされて以来だ。あのときは内容においては新潟が優勢で、結果だけがともなわなかった印象だ。あれから半年、(12年シーズン途中に指揮をとった柳下、風間両監督の)チーム作りがどう進んだか、定点観測に使いたい試合だ。

 前半は新潟の良さが目立ったんじゃないだろうか。僕は当日、記者席で「ジャーナリストの後藤健生さんと並んで見ようと思ってたら、元川悦子さんが逆側に来て、もう、左右どっちに話をふっても万全」という観戦態勢だった。で、ハーフタイムに入って後藤さんの開口一番が「新潟いいねー」だった。前評判では「新潟のハイプレスが川崎のポゼッションサッカーにどこまで通じるか」みたいな見方が多かったと思う。が、むしろ前半は新潟がビルドアップして攻めていた。

 それから後藤さんが言ったのは「川口(尚紀)っていうサイドの若いの、なかなかいいね。レナトと当たって、スピードでは敵わないからうまく身体を入れて対応してた。センスあるね」だった。ハーフタイムの時点では間違いなくこういう評価だ。まさかその川口が後半、レナトにちんちんにされるとは思わない。僕もノンキに勝てそうだなぁと考えていた。

 ま、話の流れで川口vsレナトのマッチアップに言及しようか。いやぁ、後半は残酷なくらいちぎられまくった。レナトすげかった。あれは高卒ルーキーの川口でなくても止めるのは至難の業だと思うけれど、一方、川口に「試合の体力」がないこともスタメン出場するようになってわかった。いつも後半、すっかりおとなしくなるのだ。

 もちろん「試合の体力」がない有望ルーキーは試合に出して、経験を積んでもらうのが一番だ。まぁ、レナト級と当たること自体、未体験ゾーンだろう。そりゃくたびれるさ。そしたら元川さんが「でも、いいことだと思う。川口君は日本代表になる可能性あるし、試合に出して成長させてほしい」と言ってくれた。だもんで目先の川口はちんちんにやられているが、いつか見とれよという感じだ。

 ところで「試合の体力」だけど、後半になって陣形が伸びて、敵にスペース与えてたのはどうなんだろう。「試合の体力」がないのはルーキーだけじゃないのか。これが連戦の疲れだったら、この先、夏場やなんかに心配が残る。純然と戦術的な問題だったら距離感を改善すべきだ。チームの設計思想こそ違え、柳下、風間両監督は距離感のことを言い続けてきた。今節の時点でタスクをやり切れたのは川崎のほうだった。

 勝敗を分けたもうひとつにチームの骨格のようなものがあるんじゃないかと思った。川崎には大久保嘉人&中村憲剛というJ屈指の中心選手がいる。この日の大久保を見ればわかりやすいが、もう早い話、あずければキープしてくれる、持てば勝負してくれる、ウラへ出せば抜けて点決めてくれる、もう、チーム戦術以前にオールマイティカードなのだ。まぁ、こんなに好調の大久保も久しぶりに見たけれど、チームメイトにしたら頼りがい満点だろう。

 新潟は骨格がようやく出来つつあるところだ。ま、スポーツニュース的に要約すれば「大久保すげー」(大久保が2得点)って試合なんだけど、それが「川又すげー」にならなかったところは向こうに一日の長がある。だけど川又すごかったんだよ。いったん同点に追いついた鈴木武蔵のリーグ戦初ゴール(!)は、アシストを務めた川又の強さが生んだものだ。シーズン序盤終えて最大の収穫はこれだろう。まだもっと本格化してもらわないと困るが、新潟には武器ができた。

 得点力不足という長年の課題に「自前の日本人ストライカー」で解を導けるかも知れない。これは誰もが夢見た理想だ。チームが進むべき方向ははっきりしているが、シーズン序盤を不安定なまま終えることになった。同じくスタートにつまづいた川崎が5月を無敗で終え、ナビスコ杯も勝ち残ったのとはだいぶ違う。


附記1、僕はJ2時代から見てるせいでこのカードがしっくり感あるんですよね。首都圏開催だと等々力でこのカード見るのがダントツに好きだな。

2、この日の記者席は久々に知り合いが多くて楽しかったです。元川悦子さんは「コンフェデまで日がないのに何にも準備してない。もう、バタバタで行くしかない」とのことでした。僕は彼女の観戦スタイルを初めて間近で体感したんですけど、PCでスカパー・オン・デマンドの生中継をモニターしていて、込み入ったとこはすぐリプレイで確認するのに感心した。その手はありますよね。プロ野球だと記者席、みんなそうしてるもんな。あと、鈴木武蔵が交代で入ったとき、「やった! 見たかったんです」と歓声をあげてくれた。

3、来週からしばらくフリーテーマですね。何書こうかな。僕は試合がない週の散歩道、けっこう書くの楽しみなんですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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