【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第178回

2013/7/11
 「サカマガ人脈」

 コンフェデレーションズカップがブラジル優勝に決し、いよいよ週末にJ1再開を控えた7月初旬だ。元『サッカーマガジン』編集部の石倉利英さんに会った。そういえば(Jリーグが中断してる期間)しばらくプロ野球取材が続いて、水道橋駅前で元サカマガの柳澤壮人さんにバッタリ出くわし、大中さん(大中祐二さん、ご存知「日本一のアルビ番記者」ですよ)の話になったりした直後のことだから、予兆はあったのかもしれない。

 現在は故郷の島根へ戻ってフリー記者をしている石倉利英さんが突如、上京した。のみならず、いきなり「今、都内にいるから今日、『レポTV』の見学に行きたいのですが?」とレンラクを寄こす。ちなみに前述の柳澤さん、大中さん、そして石倉さんは同時期、『サッカーマガジン』で机を並べた間柄だ。編集長で言うと伊東武彦、平澤大輔両氏の時代。ちなみに「大中さん@新潟、石倉さん@島根」は、元『ワールドサッカーマガジン』編集長の「島田徹さん@福岡」とあわせて、「何故、サカマガは日本海側に退社してフリーになった者を配備するのか?」と僕に冗談にされている。腕利きがフリーになって地方クラブを担当してるのだ。

 以前、当コラムで「大中さんがアルビに貼り付いてくれてるすごさ」について話題にしたことがありますね。楽勝で副編(集長)張れる人材です。サッカー界に人脈持っているし、あと『相撲』編集部にいたこともあるから編集者&記者として総合力がある。よく引っ張ってきた、というか大中さんは決断してくれたと思いますね。他の島田さん石倉さんが郷里へのUターンであることを考えると、四国出身の大中さんが雪国・新潟に来てくれた有難みが増しますよ。

 石倉利英さんは元日本代表担当でした。雑誌の花形ですよね。当然のこと、会社は将来、リーダーの役目を果たしてくれるのを期待する。が、石倉さんは故郷の親御さんの介護をしようと決意するんだね。たまたまガイナーレ鳥取が旗揚げするタイミングで、どうやら松江市の実家から取材に通えそうだ。ていうか、中国山脈を越してサンフレッチェ広島まで担当することにした。クルマの走行距離はとてつもないことになったけど、取材クラブは大歓迎してくれる。何しろ、元代表担当が記事を書いてくれる。特に鳥取はラッキーじゃないでしょうか。

 僕は記者はホントに重要だと思いますね。例えばアルビレックス新潟のコミュニティを考えても、大中さんの言語感覚から出た「ミシェウさん!」「1又、Ⅱ又、川又!」的なフレーズ抜きのここ数シーズンって考えられないでしょう? 物語の核をつくってる。サッカーのエッセンスですよね。記者がいなくてもサッカー自体は存在するけれど、イメージの結び方、定着の仕方が違ってしまう。

 で、やっぱり記者も生身なので、タイミングがある。僕は石倉さんや大中さんが無理のきく年齢で地方の現場に飛び込んだのは値打ちがあると思うな。ほら、よく「お前ら、最初に担任を持ったクラスだからな」とか教師が言ったりするでしょ。原稿が書けて取材力もあって、しかもちゃんとムキになったり、身体張れる若さがあるのがいいよ。

 西荻窪駅改札で何年かぶりに再会した石倉さんはジム通いの成果もあってシュッとしていた。『レポTV』はライターの北尾トロさんと自主的にやってるユースト番組だが、同時にポッドキャスト配信もしている。石倉さんは松江市の自宅からガイナーレ鳥取の練習場&スタジアムへ片道2時間かけて通っているのだが、ある日、車中、ポッドキャストの番組を聴けば楽しいではないかと思いついたらしい。

 で、TBSラジオのポッドキャスト配信番組に、かつてサッカーマガジン時代、連載コラムを担当していたえのきどいちろうの『水曜ウォンテッド!』があるのを発見する。これを移動の友として聴くうち、番組が終了してしまい、今度はオルタナティブの『レポTV』に移ってきた。妙なものでここ半年くらいは東京にいた頃より、えのきどの近況に詳しくなっている。

 もちろんその日は番組に出てもらった。思えば石倉さんに番組出演してもらうの、スカパーの『ワールドカップジャーナル』以来だなぁ。確かキャンプ地を考える回のゲストだった。あの頃はまさか自分が名門『サッカーマガジン』で連載を持つとも思ってなかったし、この大男(石倉さんは松江東のDFとして高校サッカー選手権に出場した猛者だ)が担当編集者になるとも思ってなかった。

 話を聞いたら大活躍の様子だった。ガイナーレ鳥取に関してはサカマガ(『J2マガジン』が発足する由)だけでなく、『エルゴラッソ』『J’sゴール』にも寄稿している。地元FM局の番組やイベントに出演したりもしている。それから去年、広島のJ1優勝にはサカマガの主力記者として健筆をふるった。有料道路ができて、松江からビッグアーチも、吉田サッカー公園も片道2時間程度とのこと。「えのきどさん、広島来たらついでに島根へ寄ってくださいよ。僕、何だかんだで広島のホームゲーム全部行ってますから(笑)」。おお、9月のアウェー・広島戦、これ行ったらもれなく石倉車で松江へご招待かぁ。

 一方でこんな話もしていた。「案外、自分の持ってる人脈とか経験とか役に立たないものなんだな、と思いました」。例えば石倉さんはサッカー解説者・水沼貴史さんとトークイベントを実施したことがある。石倉さんが頼めば水沼さんだって積極的に力を貸してくれるだろう。鳥取のサッカーイベントとしてはけっこうメジャー感のあるものになった。だけど、あんまり続かないんだよね。石倉さんなら誰でも引っ張って来れるのに。予算の関係もあるだろうし、たぶん鳥取のイベント主催者が石倉さんの人脈とかをわかってない。

 でも、それよりも何よりも地方J2クラブの現在というものが、ホントに地味なことをコツコツ積み上げていくしかないんだね。それは新潟も同じだけど、新潟とは比較にならないレベルでもある。鳥取の観客動員は2千人とか3千人っていう規模なんだ。そういう現場に石倉さんがいる。これはなかなか面白いことだと思うんだなぁ。
 

附記1、折りしもガイナーレ鳥取は白バス騒動で大変ですね。これは僕も日光アイスバックスで無料バス出したりしたから、リアリティとしたらすんごいわかる。この件についてのクラブ側の発信も個人商店っぽくて泣かせる。けど、ダメなことはやっちゃダメなんですよ。

2、水道橋駅前でバッタリ会った柳澤さんは今、出版部にいて、どうも企画が欲しそうでしたよ。「大中さんといっしょに新潟の仕事やってるんですよね?」って何度も言ってた。大中さんと本作ろうかなぁ。

3、ずっと告知を忘れてたんですけど、僕ね、新潟市の映画館「シネ・ウインド」発行の『月刊ウインド』って媒体で映画コラムの連載始めました。ボランティア執筆なんで原稿料はなしです(笑)。

4、しかし、いよいよリーグ戦再開ですね。柏戦はもちろん参戦です。天気がどうなるかなぁ。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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