【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第184回
2013/8/22
「猛暑のドロー」
J1第20節、甲府×新潟。
確実に語り草になる川中島ダービー。残念ながらそのスペクタクルにおいてではない。猛暑においてだ。日本列島はこの週末、太平洋高気圧と大陸性高気圧の2つが重なり、東南アジア級の猛暑に見舞われた。TBS天気情報でおなじみの森田正光さんはこれを千年に一度の猛暑、「千年猛暑」と名づけたほどだ。
そして、8月10日、帰省ラッシュで交通機関が大混雑した日、全国927地点ある観測ポイントのうち、3割超の295地点で35℃以上の「猛暑日」を記録することになったのだが、驚くなかれ日本一暑かったのは40.7℃を記録した2地点、高知県四万十市、山梨県甲府市(明治8年以来の観測史上、4番めの暑さ)なのだった。アルビレックス新潟はそこでアウェーゲームを戦ったのだ(!)。
ちなみに高知県四万十市は12日になって、観測史上最高となる41℃をマークする。四万十市も甲府同様、盆地であるようだ。まぁ、四万十市民にとっては「4番めの40.7℃」と「史上最高の41℃」はだいぶ違って、まだまだ10日の暑さは序の口だったみたいなことかもしれない。が、大差ないと言えば大差ないだろう。ひとことで言うと死ぬほど暑い。
僕は40℃超の気候を一度だけ経験したことがあって、L.A.からレンタカーでラスベガスへ向かう途中、砂漠地帯のフリーウェイだなぁ。冷房効いてたし快適なドライブだったけど、これがもしクルマが故障したら生命の危険があるなぁと感じた。あのときも日差しが痛いようだったけど、今回の甲府も負けない。実感としては「暑い」以上に「痛い」「息苦しい」という感じだ。
選手らはそのなかでサッカーをするのだ。大丈夫かと思う。フツーの状況ならこの試合はレオ・シルバ、キム・ジンスの欠場が最大の懸案事項だろう。が、今節はコンディションから考えねばならない。控えめに言ってもこの試合が「Jリーグ史上、最も暑い日に行われた試合」になるのは間違いないだろう。18時(キックオフ30分前)の時点で気温34.1℃、湿度52%。新潟の選手はただでさえバス移動で筋肉や関節がこわばりがちだと思う。その上、この殺人的な猛暑だ。
記者席に座ってるだけでクラクラしていた。陽が落ちても息苦しさは変わらない。今日は内容は問うまい。内容を云々しちゃいけない日だってある。とりあえず先取点だ。このコンディションならお互いミスがあるだろう。先手を取っておけば心理的に優位に立てる。万が一、凡ミス→失点になったって同点じゃないか。
前半は淡々と進んだ。川又堅碁がDFのウラへ抜けるシーンがあり、新潟優勢と言っていい。甲府はパトリックの頑張りに全てがかかっている印象だ。この試合から合流した補強選手のジウシーニョ(かつて磐田にいた)はまだフィットしてないというか、いきなりの試合がこのコンディションというか。ま、当方も先方も単発でしたね。僕は少々、気が遠くなりながらその単発気味を見ていた。0対0でハーフタイム。
ハーフタイムには花火が上がり、それも気が遠くなりながら見た。あ、そうだ、これはわかる人しかわかるまいが、前半から甲府ゴール裏のチャント、「♪甲府ララララー、甲府ララララー、甲府ララララー、(ちょっとタメる&手拍子チャチャチャ)甲府ララララー」、これに意識がつかまった。気が遠くなりながら、単調なチャントの不思議な魔力に魅入られる。単調な繰り返しは引き込まれますなぁ。特に気が遠くなりそうな夜には。
後半はホンの一瞬ともいえる短い時間帯だけ試合が動いた。まず25分、左サイドから崩して、田中亜土夢→川又堅碁のホットライン。ケンゴのヘッドは打点も高く豪快そのものだった。先手が取れたことを喜んでいたら、直後の同28分、水野晃樹のロングスローから柏好文のヘッドで追いつかれる。試合を見ていたときはパトリックにつられたせいで、後ろから飛び込んできた柏が捕まえられなかったと見た。後でスローを見ると、ジウシーニョがスラしたことも関与している。ま、この時点ではキム・クナンも交代していたし、後ろがちょっと不安定だったという言い方も可能だろう。
で、まぁ実際問題、両軍ともにその短い時間帯、試合を動かすのがやっとだった。その後、大したことは起こらない。ゲンミツに言えば後半36分、絶好の位置でFKを得たりしたんだが、三門が決めきれない。まぁ、あれが決まってたらスーパーだったけどなぁ。だからホントに何もなかったわけじゃないんだけど、申し訳ないが内容は薄かったと思う。しょうがないよ。にんげんだもの。
1対1の痛みわけは両チームの奮戦に対して妥当な報酬じゃないか。僕はそれでも新潟が勝てた試合だと思う。思うけれどそこまでは要求しない。試合後、整列した両チームに拍手をおくった。ナイスファイト! スタンドの両軍サポもナイスファイト!
附記1、そして山梨中銀スタジアム初見参だったアルビくん&スワンちゃん、そして甲府のヴァンくん&フォーレちゃんもナイスファイト! 彼らマスコット界の皆さんにとっても超過酷な環境でした。それなのにフォーレちゃんなんか、試合後の新潟サポの体調をツイッターで気づかってくれてましたね。
2、しかし、その後、高知県四万十市に41℃出されたのは悔しいですね。ま、「俺なんか日本一暑かった日の甲府へわざわざ行って試合見てきたぜ」と自慢したいだけなんですが。最近になってお天気キャスターの森田さんは四万十市の41℃に疑義を呈してますね。この件に関しては僕は心情的に甲府推しだなぁ。甲府ララララー。
3、次節、カシマスタジアムは多少涼しいんじゃないですかねぇ。あそこは朝晩涼しい印象がある。てか真夏でも上層階は風が吹きつけて寒かったり、あと霧が発生したりね。そしてこのところめっちゃ相性いいんですよね。期待しましょう
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第20節、甲府×新潟。
確実に語り草になる川中島ダービー。残念ながらそのスペクタクルにおいてではない。猛暑においてだ。日本列島はこの週末、太平洋高気圧と大陸性高気圧の2つが重なり、東南アジア級の猛暑に見舞われた。TBS天気情報でおなじみの森田正光さんはこれを千年に一度の猛暑、「千年猛暑」と名づけたほどだ。
そして、8月10日、帰省ラッシュで交通機関が大混雑した日、全国927地点ある観測ポイントのうち、3割超の295地点で35℃以上の「猛暑日」を記録することになったのだが、驚くなかれ日本一暑かったのは40.7℃を記録した2地点、高知県四万十市、山梨県甲府市(明治8年以来の観測史上、4番めの暑さ)なのだった。アルビレックス新潟はそこでアウェーゲームを戦ったのだ(!)。
ちなみに高知県四万十市は12日になって、観測史上最高となる41℃をマークする。四万十市も甲府同様、盆地であるようだ。まぁ、四万十市民にとっては「4番めの40.7℃」と「史上最高の41℃」はだいぶ違って、まだまだ10日の暑さは序の口だったみたいなことかもしれない。が、大差ないと言えば大差ないだろう。ひとことで言うと死ぬほど暑い。
僕は40℃超の気候を一度だけ経験したことがあって、L.A.からレンタカーでラスベガスへ向かう途中、砂漠地帯のフリーウェイだなぁ。冷房効いてたし快適なドライブだったけど、これがもしクルマが故障したら生命の危険があるなぁと感じた。あのときも日差しが痛いようだったけど、今回の甲府も負けない。実感としては「暑い」以上に「痛い」「息苦しい」という感じだ。
選手らはそのなかでサッカーをするのだ。大丈夫かと思う。フツーの状況ならこの試合はレオ・シルバ、キム・ジンスの欠場が最大の懸案事項だろう。が、今節はコンディションから考えねばならない。控えめに言ってもこの試合が「Jリーグ史上、最も暑い日に行われた試合」になるのは間違いないだろう。18時(キックオフ30分前)の時点で気温34.1℃、湿度52%。新潟の選手はただでさえバス移動で筋肉や関節がこわばりがちだと思う。その上、この殺人的な猛暑だ。
記者席に座ってるだけでクラクラしていた。陽が落ちても息苦しさは変わらない。今日は内容は問うまい。内容を云々しちゃいけない日だってある。とりあえず先取点だ。このコンディションならお互いミスがあるだろう。先手を取っておけば心理的に優位に立てる。万が一、凡ミス→失点になったって同点じゃないか。
前半は淡々と進んだ。川又堅碁がDFのウラへ抜けるシーンがあり、新潟優勢と言っていい。甲府はパトリックの頑張りに全てがかかっている印象だ。この試合から合流した補強選手のジウシーニョ(かつて磐田にいた)はまだフィットしてないというか、いきなりの試合がこのコンディションというか。ま、当方も先方も単発でしたね。僕は少々、気が遠くなりながらその単発気味を見ていた。0対0でハーフタイム。
ハーフタイムには花火が上がり、それも気が遠くなりながら見た。あ、そうだ、これはわかる人しかわかるまいが、前半から甲府ゴール裏のチャント、「♪甲府ララララー、甲府ララララー、甲府ララララー、(ちょっとタメる&手拍子チャチャチャ)甲府ララララー」、これに意識がつかまった。気が遠くなりながら、単調なチャントの不思議な魔力に魅入られる。単調な繰り返しは引き込まれますなぁ。特に気が遠くなりそうな夜には。
後半はホンの一瞬ともいえる短い時間帯だけ試合が動いた。まず25分、左サイドから崩して、田中亜土夢→川又堅碁のホットライン。ケンゴのヘッドは打点も高く豪快そのものだった。先手が取れたことを喜んでいたら、直後の同28分、水野晃樹のロングスローから柏好文のヘッドで追いつかれる。試合を見ていたときはパトリックにつられたせいで、後ろから飛び込んできた柏が捕まえられなかったと見た。後でスローを見ると、ジウシーニョがスラしたことも関与している。ま、この時点ではキム・クナンも交代していたし、後ろがちょっと不安定だったという言い方も可能だろう。
で、まぁ実際問題、両軍ともにその短い時間帯、試合を動かすのがやっとだった。その後、大したことは起こらない。ゲンミツに言えば後半36分、絶好の位置でFKを得たりしたんだが、三門が決めきれない。まぁ、あれが決まってたらスーパーだったけどなぁ。だからホントに何もなかったわけじゃないんだけど、申し訳ないが内容は薄かったと思う。しょうがないよ。にんげんだもの。
1対1の痛みわけは両チームの奮戦に対して妥当な報酬じゃないか。僕はそれでも新潟が勝てた試合だと思う。思うけれどそこまでは要求しない。試合後、整列した両チームに拍手をおくった。ナイスファイト! スタンドの両軍サポもナイスファイト!
附記1、そして山梨中銀スタジアム初見参だったアルビくん&スワンちゃん、そして甲府のヴァンくん&フォーレちゃんもナイスファイト! 彼らマスコット界の皆さんにとっても超過酷な環境でした。それなのにフォーレちゃんなんか、試合後の新潟サポの体調をツイッターで気づかってくれてましたね。
2、しかし、その後、高知県四万十市に41℃出されたのは悔しいですね。ま、「俺なんか日本一暑かった日の甲府へわざわざ行って試合見てきたぜ」と自慢したいだけなんですが。最近になってお天気キャスターの森田さんは四万十市の41℃に疑義を呈してますね。この件に関しては僕は心情的に甲府推しだなぁ。甲府ララララー。
3、次節、カシマスタジアムは多少涼しいんじゃないですかねぇ。あそこは朝晩涼しい印象がある。てか真夏でも上層階は風が吹きつけて寒かったり、あと霧が発生したりね。そしてこのところめっちゃ相性いいんですよね。期待しましょう
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
