【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第186回

2013/9/5
「そういう2点だったじゃん」

 J1第22節、新潟×川崎。
 本稿執筆現在は8月25日(日)の朝だ。日テレの24時間テレビでは森三中・大島美幸さんがずっと雨に打たれて歩いている。昨夜は逆転勝利の興奮冷めやらぬビッグスワンを後に、知人サポのクルマで深夜帰宅した。新潟は涼しくて快適だったなぁ。今日は東京もついに最高気温が30℃を切るらしい。読者はたぶん新潟日報スポーツ面を読み込んでおられるだろう。勝利はいい。当日、スタジアムで弾け、試合後は祝勝会、もしくはTVのスポーツニュースのチェックで盛り上がる。翌朝は新聞だ。で、月曜日の朝は会社や学校で「おめでとう」と声をかけてもらったり(もらえなかったり)。

 帰りの車中では知人サポと「柏戦のときと今日とではどっちが気分いいか?」という馬鹿的な議論が越後川口SAまで続けられた。越後川口で3百円くらいのでっかい肉まんを食べた後は、川崎の先制点・大久保嘉人のスーパーゴール(前半23分)が決まったとき、「あまりにもスーパーで、ダメだこりゃと思った」という話になった。大久保嘉人は本当に絶好調だ。今季17ゴールは早々とキャリアハイ。

 前半はフラストレーションがたまった。風間フロンターレは積極的にプレスに来て、真っ向やり合おうという構えだったが、何かよくわかんないけどこっちが仕掛けるとずるずる下がるのだった。だから噂に聞くポゼッション志向のサッカーではなく、「相手に持たせる戦法」になっていた。新潟が再三、敵陣に攻め込んでいく。が、下がって守る川崎のどこかに引っかかって最後までは攻め切れない。ま、何度も真ん中の人ごみのとこで引っかかって芸がないというか、芸以前のところであわててしまっているというか。

 川崎の先制点は大久保の豪快なミドルシュート。ちょっといかりや長介級に「ダメだこりゃ」感あった(←若い読者は何のことかわからんですな、ごめんなさい)。攻めていても相手にすごい奴がいたら一発で決められてしまう。で、兄弟、悪いニュースだ! どうやら敵には中村憲剛と大久保嘉人がいる。

 だけど新潟はチームとして成長してる姿を見せた。後半に入ってテンポも良くなるし、攻撃がグッと意欲的になる。あれは監督から何か戦術的な指示あっての変化なのかな。それとも自分たちでギアを変えるところまで来たのか。試合後、柳下監督は「最初からああいう試合ができれば…」と振り返ったが、僕はひと試合のなかで変化がつけられる(修正できる)のは大したもんだと考える。

 スタジアムの雰囲気が変わったのはレオ・シルバのスローイングが、こうナナメにピッチに入る感じになって、相手が大あわてしたくらいからか。この時間帯は俗に言う「確変期」そのもので、急に試合が動く。ひとつには新潟の攻めがテンポアップ&ノリノリになる。そして川崎に焦りが生じる。あともうひとつは場内のムードだ。この日、3万人近い動員となったビッグスワンはチームを後押しする「本拠地マジック」を発揮する。その3つが合わさったものが試合をひっくり返した。

 後半27分、川又堅碁の同点弾、同29分、岡本英也(交代出場)の逆転弾。昨夜、ビッグスワンにいた者は全員感じた。去年、「奇跡の残留劇」を成し遂げたアルビレックス新潟が戻ってきた。田中達也の加入も、東口順昭の復活も、川又堅碁の本格化も素晴しいニュースだ。それどころか舞行龍ジェームズ、ホージェル・ガウーショが新たに加わってさっそく頑張ってる。だけど兄弟、このチームは皆で戦ってるんだぜ。皆で戦うときいちばん強いんだぜ。

 そういう2点だったじゃん。ひと言に要約するなら一体感だ。選手らだけじゃなく、スタジアム全体が一体となって戦う。あれはしびれたねぇ。アルビレックス新潟のストロングポイント。天下無双にして唯一無二。たぶんね、あの同点ゴールから逆転までの時間帯、チャントを歌いながら手拍子しながら、「これがアルビだ!」って皆、思った。そして、「俺は今、生きてる」「俺はここにいる」って思った。違うかなぁ? だからしびれたんだ。そういう2点だったじゃん。

 といってその流れで3点めは奪えなかった。敵には中村憲剛や大久保嘉人がいるっていうのに僅少差の2対1だ。で、まだ10分以上ある。これはイケイケ&ノリノリでは解決できない難しいミッションだぞ。どう試合を締めくくる? ざっと見たところ厄介なところをマークしてきた三門雄大がいっぱいいっぱい気味だ。それから大井健太郎の足がつりそう。残り1枚の交代カードは三門に代えて本間勲か、大井に代えてキム・クナンか。どっちが失点のリスクを下げられる? どっちが勝つ可能性を上げられる?

 いやいやいや、そうしたら交代は藤田征也→内田潤だった。おお、これも落ち着くなぁ。残り10分ほどとロスタイムの4分(前半はキーパーが倒れたのにロスタイム1分だったでしょ。後半の4分はじぇじぇじぇ~!でした)、頼りがいあったのはもうひとり、GK・東口だな。チームを鼓舞するように、又は落ち着かせるように、メリハリあるプレーしてたよ。単に反応のいいセービングで頼れるだけじゃないんだ。時間を使うところはたっぷり時間を使い、球出しやロングフィードはリズムや流れを見ながら。「試合をつくる」意識っていうのかな、素晴しかったな。

 新潟はホーム3連勝! やっと「ホームで強い」本来の芸風が戻ってきた。それから逆転勝ちはチームに勢いがつくね。この勢いで8月の残り2戦を突っ走りたい。これで25日現在、勝ち点は30。驚いたことに「J1不敗レコード・21試合樹立」の大宮(勝ち点36)の背中が見えてきた。知人サポのクルマは首都高6号線に入る。それにしても帰路のテンション高かったなぁ。

 
附記1、8月28日は文化放送ライオンズナイターのゲスト出演で札幌ドームなんです。ミステリの鉄則、「容疑者は同日同時刻に札幌ドームとビッグスワンの二ヶ所にいられない」(アリバイ成立?)により、23節・磐田戦は欠席、後日の録画観戦となります。

2、ていうかモバアル読者はもう、磐田戦終わって結果もご存知なんですよね。どうでしたか、ホーム4連勝は叶いましたか? 田中亜土夢の累積欠場は影響ありましたか? 以上ここまで25日(日)のえのきどがお送りしました。



3、担当変わりまして28日22時過ぎ、札幌ドーム・プレスルームのえのきどです。ケータイ速報を見ました。磐田に逆転勝ち! すんごいスコアです! 大宮との差は更に詰まったことになりますね。今年はぜんぜん「苦手の夏場」じゃないです~。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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