【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第188回

2013/9/19
「教訓」

 天皇杯2回戦、新潟×新潟経営大。
 先週の予告通り、青春18キップでビッグスワンにたどり着いた早起き野郎の俺様だ。4時半起きだ。『釣りバカ日誌』か。13時キックオフの新潟経大戦が1対1で延長になったとき、「おいおい、しっかりしてくれよ」のほかに、「お、あと30分サッカーやってくれるの? ラッキー!」という心理が働かなかったと言えば嘘になる。俺はサッカーが好きなんだよ、もっとサッカー見せてくれ。5時浅草発の地下鉄銀座線と5時13分上野発の高崎線に乗ったよ。始発電車だよ。

 だけど、延長前半2分、新潟経大・中村太一に逆転ゴールを許した瞬間、そんなノンキな思いは消し飛んだ。やばい、3年連続でアップセット(番狂わせ)を食らってしまう。思えば11年の松本山雅戦、12年の福島ユナイテッド戦も舞台は本拠地ビッグスワンだった。そんなJFLや地域リーグ(当時)にやられるなんて屈辱、土地の名前を冠して「ドーハの悲劇」とか「サンドニの惨劇」くらいの言い方してもおかしくないのだが、あいにく本拠地なので「新潟の悲劇」「ビッグスワンの屈辱」じゃ何のことかわからない。とにかくアップセットはもうこりごりだ。

 で、ピッチ上の選手らもそんな感じだった。目が覚めた。いや、正直言って後半45分は早起き野郎には眠かった。後半36分、新潟経大・太田翔の同点弾もモーローとしてる時間帯に決められた。リズムが眠たかったんだ。前半は攻めに攻めて面白かったからしゃっきりしてたよ。後半は新潟経大がスピードやテンポに慣れて、こっちの攻めはつぶされてばっかり。あれはね、眠くなります。もしかしたら「13時キックオフの魔力」で選手らの身体も目覚めてなかった可能性がある。

 で、とにかく目覚めたんだね。延長戦そこから3点取った。得点者は田中亜土夢、本間勲、キム・ジンス。あわてて「倍返し」だ! てか最初、レオ・シルバのFKで先制(前半22分)して、2点返されたんだから、まず新潟経大が「倍返し」して、それを更に「倍返し」したことになる。こういうのは何て言う? 「倍返し」返し? 

 試合後、柳下正明監督は「違ったことを考えている選手が何人かいた。そうするとこういうことが起こり得る」とカンカンだ。これはさっき書いた「13時キックオフの魔力」説(選手らの身体リズムがオンになってなかったのじゃないか)より痛烈な意見だ。目覚めてなかったのは身体ではなく、意識のほうだという意見。早い話、ぶったるんどるぞと。トリンドルちゃんはかわいいけど、タルンドルちゃんは少しもかわいくないと。ま、これ何年かして「トリンドル玲奈」というタレントさんが引退でもしたら何のことかさっぱりわかんなくなる駄ジャレだが、そういうことなんだよ。

 目覚めてなかったのが心と身体どっちなのか、あるいは両方なのか僕は知らない。プロと大学チームの実力差は、要するに「やばい」と思ってギアを変えて、そこから3点取れるくらい開いている。新潟経大とはよく練習試合が組まれるから、勝手知ったる相手ということで緊張感にも欠けていたかな。まぁ、何にしても試合後半、僕が眠くなったのには(早起きというだけじゃなく)サッカー的に解析できる。

 横着サッカーしてたんだ。パスをもらう動きが少ない。サッカーではよく「ムーブ」っていうでしょ。サッカー観戦も初心者のうちはオン・ザ・ボールっていうのかな、ボールの動きを追うのにいそがしいでしょ。もうちょい慣れてくるとボールを持ってない選手の動きが目に入ってくる。これが見えてくるとサッカーは一気に面白くなる。いちばんシンプルなのは「パスを出した選手」が次にどういう動きをするか。ボールを離した後だね。離した後、更に受けに行くとかオトリの動きをするとか、常に選手が動いてるのが面白いサッカー(の典型)だ。

 新潟経大戦は実力差があるもんだから、足元でもらっても何とかなるって思っちゃったんじゃないかな。足元足元で、動きが少ない。これはつまんないから眠くなります。新潟経大は引いた布陣で、イタリアっぽく出足でつぶそうというサッカー。足元足元→つぶされ→足元足元→つぶされ。スペースがないからミスも多かった。僕は後半は(眠気ざましに)新潟経大のクリアを見てたもんなぁ。「よっしゃ」とか言いながら。

 新潟はリーグ戦で好調じゃないすか。サポーターの間でも「今年は残留争いをしなくてよさそう」みたいな声が出ている。でもね、好調なチームがひとつ間違うとこうなっちゃうんだなぁ。大学生に負けそうになる。言っとくけど当日の新潟市は涼しくて、省エネサッカーする必要なんてなーんもない。試合間隔も浦和戦から中6日だね。

 延長戦になって新潟経大はきつそうだったな。足がつる選手が続出、運動量も落ちた。普段そんなサッカーしてないんだね。だから新潟は「徹夜マージャンに持ち込んで、体力勝負する」、阿佐田哲也のギャンブル小説の登場人物みたいでもあった。

 貴重な教訓。新潟は横着できるチームじゃない。横着してるとせっかくの好調が逃げていく。こういうのは積み上げるときはひとつずつだけど、崩れるときはあっさりだ。教訓を授けてくれた新潟経大に感謝したい。


附記1、試合後、単なるエール交換という意味じゃなく、ゴール裏が新潟経大コールを繰り返してました。まぁ、称賛に値する試合でしたね。いい光景だなと思ったのは新潟経大応援席が東口順昭のチャントを返してきたところですね。当日の出番はなかった(GKは黒河出場)けど、自慢の先輩ですよね。

2、2020年、東京オリンピック開催が決まりましたね。僕は翌朝も4時半起きして、駅前のホテルで歯磨きしながら特番見た。で、5時17分新潟発の信越線車中でNHKラジオ第一聴いてて知ったんだな。アイフォンのアプリでラジオ聴けるでしょ。これ、サッカーファンにどんな恩恵があるかわからないけど、とりあえず男女ともに国際試合がいっぱい行われますね。席数が多いからいちばんチケットが入手しやすい競技じゃないですか。

3、翌朝はこれも予告通り、磐越西線ルートで福島県立美術館でした。東日本大震災復興支援特別展『若冲が来てくれました/プライスコレクション 江戸絵画の美と生命』。江戸時代の絵師、伊藤若冲は「今、最も客を呼べる日本画家」ですね。空前のブームになっている。僕が行った日曜日も雨のなか、入場券購入の列が150人くらい美術館の外に並んで(当然、皆、傘を差してです)、大変でした。絵は良かったなぁ。やっぱり間近で見ると発見がありますね。

4、今週になって「J1リーグの大会形式を2015年から前後期の2ステージ制とする」旨のニュースが飛び込んできました。J1J2合同実行委員会で話がまとまり、このまま行くと来週17日のJリーグ理事会で承認されれば本決まりだそうです。ま、「チャンピオンシップ」「スーパーステージ」等のプレーオフ実施で増益をはかりたいというのが狙いのようですね。プロ野球の「日本シリーズ」「クライマックスシリーズ」に相当する大舞台をつくろうという発想ですね。僕は増益やメディア露出も本当に大事だと思います。もっとJリーグの存在感が大きくなればいいと願っている。だけどなぁ、問題点があって「2ステージ制」は排されたんですよね。僕は納得いかないな。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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