【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第193回

2013/10/24
 「弾丸ツアー」

 天皇杯3回戦、新潟×大分。
 3連休の中日をなめていた。中日はつまり真ん中の日なんだから、行きも帰りも混むわけねーだろ、とタカをくくって高速バス往復を予約する。今シーズンは初めて利用するが、僕は新潟交通、越後交通、西武バス3社共同運行便の愛用者だ。それも昼行便のファン。何しろ昼行便は夜行と違って当方が起きてる時間帯に移動するのだ。寝れるか寝れないかを気にする必要がない。

 この日のように13時キックオフの試合は狙い目で、「7時池袋東口発→12時12分新潟駅前着」の下り1便を往路に利用し「18時5分新潟駅発→23時17分池袋着」の上り28便を帰路に使うと、弾丸日帰りツアーが組める。で、快適性、安全性、正確性いずれも文句ないのだ。僕は最初に乗ったとき、「これは線路のない電車だなぁ」と思った。コースも停留所も定まっている。ちなみに大きな事故を起こして問題になった「ツアーバス」方式とは法的根拠に基づく信頼性がぜんぜん違う。

 しかし、西武バス運行の往路第1便は関越道の事故渋滞にハマって埼玉県を抜け出せずにいた。しまった。これが「線路のない電車」と電車の相違点だ。道路に渋滞あり、線路に渋滞なし。書くと何か深いことを言ってるようだが、当たり前の話だ。で、また渋滞が長い。皆さん、休みの日はこんなに遠出するんだ。景気が回復してきたのか。「1時間遅れで新潟到着の見込み」と車内アナウンスが入る。

 いやぁ、寂しかったなぁ。万代口の高速バス停留所からてくてく通路を渡って駅南にたどり着いたら、初めて知ったけどキックオフ時刻過ぎるともうシャトルバスっていないんだね。ぽつんとひとりシャトル乗り場に立ちつくす。気をとり直して、何か鉄道イベントをやってる広場を突っ切り、タクシーに乗り場で「小型」に乗る。「小型」よ走れ。「小型」よ「小型」風を切れ。

 ビッグスワン正面入り口に(警備員さんに不審がられながら)着けて、全力でメインスタンドへ駆け上がったら前半終了間際、0対0だった。スコアに動きがないのはライター的には助かる。例えばこの日、スタメンの酒井宣福が超絶ゴールを3本決めて場内大いに盛り上がった後だったりしたら(スコア自体は嬉しくても)、見てないのが悔やまれるでしょう。

 ハーフタイムにエイヤード・丸山英輝さんを見つけて「前半どうだった?」と尋ねたら、「何もなかったです」とのこと。大分が崩れないというか新潟が崩せない展開だったようだ。大分は先週、J2降格を決めたばかりでモチベーションの作り方が難しいかなと思いきや、「ぜんぜんマジメにやってました」とのこと。それも「ここまでのリーグ戦、うちの個の力では4バックでは守り切れないと判断して、引いて5バックになることもイメージしての3バックだったんですけど、降格した以上、3バックを続けるより4バックに挑戦したほうが大分の未来につながると考えました」(試合後の大分・田坂和昭監督コメント)と、従来と違うシステムを採用してのことだ。

 で、後半から腰を落ち着けて見たんだけど、これが決まんないんだねぇ。決定機がなかったわけじゃない。おそらくビッグスワンに詰めかけたファン、サポーターの多くがほんの少し不安だったと思う。フツーに考えれば「ホーム連勝中のチーム」と「降格決定のチーム」だ。勢いの差は歴然としている。が、新潟の芸風は「強きをくじき、弱きを助ける」だ。監督さんが変わっても選手が変わってもこればっかりは一貫している。上位チームから金星を挙げる一方、下位チームにからきし弱い。今日も「降格決定のチーム」を勇気づけ、花を持たすような展開になるんじゃないか。

 それからもうひとつ、大分との相性が途轍もなく悪いのだ。ちなみにリーグ戦、大分の今季戦績は1勝20敗7分(28節終了時点)だが、その1勝はビッグスワンで新潟から挙げている。対戦成績を言うと、新潟は何と丸8年間勝ってない(0勝7敗6分)。『プレビュー』誌の斎藤慎一郎さんに聞いたところ、「もう大分に勝ったのを生で見たことある番記者が僕とあとひとりしかいなくなりました(笑)」だそうですよ。

 後半も両軍得点に至らず(新潟にチャンスは多かったが、大分にも決定機があった)、延長戦にもつれ込む。ファン、サポーターは必死に不安を打ち消し、チームを鼓舞する。元日、国立のピッチに立つチームの晴れ姿が見たい。大一番を前に武者震いする大晦日を過ごしたい。だけど、不安は現実になるんだ。延長前半の2分、大分・森島康仁についていたキム・クナンが足を痛めて倒れる。森島は易々と突破、フリーでボールを入れる。得点者は後藤優介(交代出場)。大分トリニータの誇りのために大事なゴールだった。クナンはリーグ戦(の大分戦)でも負傷していて、ハードラックとしか言いようがない。

 失点の3分後、レオ・シルバがレッドカードで退場して、万事休すだった。0対1の延長負け。それから僕は駅南のブロンコでハンバーグ食べて、高速バスで帰りましたけども、さすがにしょんぼりですよ。おまけに帰路も渋滞で30分遅れですよ。一日24時間の半分をバスの座席で過ごしましたよ。3列シートで助かりましたよ。あぁ、この監督、このチームなら行けるかと思ったんだけどなぁ。建て替え前の最後の「国立」に間に合わなかったなぁ。

 アレだね、大分サポで今年、新潟へ2回来た人は「勝ち組」って言われてるだろうね。僕は来月のアウェー大分戦、断然参戦しますよ。斎藤慎一郎さんに「大分に勝ったの見た」って言ってあげなきゃ、彼だって人数少なくて孤独でしょう。いや、斎藤さんのためというより自分の納得のために。こうなったら絶対、大分戦勝利をこの目で見るしかない。


附記1、というくらい「ホームで2敗」は屈辱的ですよ。しかも今回はメンタル面で天と地ほどの条件差がある。こうなったら引っ込みがつかない。アウェー大分戦は断じて消化試合じゃないですよ。ま、秋の九州観光もいいじゃないですか。トリニータさん、来月よろしくな!

2、この試合は宣福スタメンのほか、坪内スタメン、亜土夢が右サイドハーフとチェックポイントがありました。それぞれ魅力もあり課題もまたあったんだけど、例えば代表戦の香川真司ですよね、所属クラブのマンUで試合に出られていない。そうするとあんな素晴しい選手でもイマイチでしょ。久々のスタメンみたいのは難しいんだと思いますよ。

3、その代表の欧州遠征(セルビア戦、ベラルーシ戦)ですが、散漫な印象ですね。まぁ、南ア大会前もパッとしなかったからまだこんなもんかもわかんないけど、今の選手層で本大会サッパリだったらサッカー界、かなりダメージありますね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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