【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第206回

2014/4/10
 「互角以上」

 J1第5節、C大阪×新潟。
 今季初のキンチョウスタジアム開催とのこと。大阪・長居公園は桜もほころび、春らんまんの風情だ。今、Jリーグで最も勢いのあるクラブはセレッソ大阪だと思う。柿谷曜一朗、山口蛍、扇原貴宏、南野拓実とイキのいいプレーヤーが揃って、通称「セレ女」と呼ばれる女性ファンを増やしている。そこへフォルラン獲得が加わった。これはインパクト無限大だ。ディエゴ・フォルランですよ。

 このクラスのスーパースター獲得はJでは久々のことだ。リーガ・エスパニョーラ得点王に2度、W杯得点王にも直近の南ア大会で輝いたフォルランですよ。セレッソ入りのニュースが出た瞬間、僕はサッカーライターの知り合いにLINEメッセージ送りました。これはセレッソ側だけじゃなく、相手チームも相手サポも「上がる」事態です。僕は大阪に前泊しましたよ。後泊もした。青春18きっぷの残り2回分を大阪往復に当てた。金・日を移動日に使った2泊3日の大型遠征です。

 JR鶴ケ丘駅からピンクの人の列に混じって歩いて、あぁ、こりゃ確かに勢いあるなぁと実感しました。客層が若い。女性客が多い。長居公園周辺もセレッソのピンク色(は昔より蛍光色っぽいトーンに変わった気がしますけど)をお店の看板やなんかに使ってる。「サッカーはセレッソ大阪 くすりはニシキ薬局」って派手なディスプレーを眺めて、新潟にもこんなオレンジ色の薬局ができたらいいなぁと写メに撮る。

 スタジアムに到着して「当日券 完売しました」の立て看板に驚いた。スタジアムまわりは目に痛いくらいピンクに染まっている。祝祭感出ちゃってるなぁ。皆、一様にそわそわ&わさわさしている。ニュアンスを言うと代表戦の客層に似ている。テンションが高いのだ。

 セレッソは開幕戦こそ広島に敗れたけど、その後、3連勝と波に乗っている。まだランコ・ポポヴィッチ新監督に変わってのチームは仕上がってない気がするけど、仕上がってないなりに結果を出している。開幕時とはフォルラン、柿谷のポジションが逆になった。ちなみに1トップに入ったフォルランは前節・鹿島戦でJ初ゴールを記録している。

 だから舞台も相手も文句ないのだ。この試合はリーグ戦序盤の華だと思う。僕は新潟がどのくらいやれるのか注目した。言っとくけど新潟だってヒケはとらない。こちらはまだ勢いが出てないけど、そのなかで結果を残している。セレッソの勢いをがっちり受けとめ、やり合えたら自信がつくだろう。いったん勢いがついたら誰にも止められないのは昨シーズン後半、証明済みだ。

 試合。これがね、まさに真っ向からやり合った。結果を言うとスコアレスドローだ。0-0というスコアはどちらにも歓喜のシーンが訪れないわけで、フツーはもやもや感が残る。が、この日は興奮したままタイムアップの笛を聞いた。サッカーの醍醐味にあふれた大満足の90分だ。

 90分と書いて気づいたけど、この試合は高度な集中が90分続くんだよね。それは両軍ともにね。「いいサッカーを90分続ける」って実は難しいじゃない。大概はどっかの時間帯に抜けができる。散漫な時間帯が生じる。「いいサッカーを90分続ける」は好チームの条件だよね。まぁ、カンタンなことじゃないから「70分続ける」でも「80分続ける」でも、まぁ少しでも長くやり切ろうとする。

 この試合の象徴的なシーンはね、後半になってセレッソDF・カチャルが靴脱げるんだよね。朝、雨が降ったかなんかで足をすべらせる選手が出ていた。で、脱げたところへうちの鈴木武蔵(2戦連続スタメン)が突っ込んでいく。カチャルは片手にスパイクを持ったまま、ソックスでタックルに行った。あれは凄ぇなと感動したよ。それくらい一瞬も気を抜けない、スリリングな攻防の連続だったな。

 じゃ、最大のクライマックスはどんなシーンだったかというと、あれは前半31分過ぎだね、フォルランとレオ・シルバのマッチアップがあった。ワールドクラスの両雄が1対1で対峙する。フォルランはフェイントで抜きにかかるんだ。レオは引っかからない。あっさり奪って反撃に転じる。フォルランもまさかJリーグであんなにカンタンにボールを失う目に遭うとは思わなかったんじゃないか。レオの凄みにスタジアムがどよめいた。

 価値あるドロー。中身の濃い名勝負だった。と同時に新潟にとってポジティブな意味を持つ勝ち点1だ。勢いのある相手ともフツーにやり合える。互角以上の手応えがあった。このカードの決着はビッグスワンに持ち越しになるが、100パー面白い試合になる。もちろん4万人で迎え撃とう。

 それからこれは書いておきたいと思うけど、強く印象に残ったのはキンチョウスタジアムの観客の明るさだね。ちょっとしたシーンでも歓声が上がる。皆、めっちゃ楽しそうにサッカーを見ている。もしかするとテンション、集中度の高い好ゲームを演出したのはあの観客じゃなかったかな。あれは誰かに連れられて初めてサッカー見た人が、また来たいなぁと思う雰囲気だね。


附記1、ナビスコ名古屋戦は逆に波の大きな試合でしたね。前半と後半で別のチームになった。短い時間帯に3失点はいけません。ただ高卒ルーキー・小泉慶のプロ初ゴールで救われました。これはこれで価値あるドロー(スコアは3対3)ですよね。

2、鈴木慎吾選手が現役引退だそうですね。最後はシンガポールではあったにせよ、アルビレックスのユニホームを着てくれたのがジーンと来ます。今後は京都サンガのホームタウンアカデミーコーチとして「シンゴ2世」の育成に当たるようです。本当におつかれ様でした。

3、たった今、モバアルメールが来て「川又堅碁選手 日本代表候補トレーニングキャンプメンバーに選出」とのことです。うわぁ、これ「シンゴGOGO!」から「ケンゴGOGO!」へとバトンが渡されたって流れやん。ケンゴもね、とにかくこのキャンプに呼ばれなかったら勝負のしようがなかったからね。やっとスタートラインに立てたよ。がんばれケンゴ、わっしょいわっしょい!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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