【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第218回

2014/7/3
 「プロホガソン日記 その2」

6月16日 早朝便でバイーア州の州都・サルバドールへ。どの便も満席で、これしか取れなかったとはいえ、6時半発&7時半着って早過ぎだよね。午前いっぱいサルバドール市内観光。歴史的には最初にブラジルの首都になった街。黒人系の住民が大半で、この港町がアフリカと直接つながっていたことを思わせる。かつての「奴隷市場」跡は現在は観光地だ。僕が知ってる街のどこに似ているかというとニューオリンズだなぁ。音楽や芸術が盛んなところもそっくりだ。

 ドイツvsポルトガル。会場の雰囲気が最高だった。W杯感満点。スタイルの違う2つのサッカーネーションが激突する。チャントのノリもドイツは質実剛健、ポルトガルは猥雑にして陽気。これはどっちが好みかみたいな話になってくる。まぁ、この試合最高のスターはC・ロナウドだろう。出場を危ぶむ報道もあったが、きっちり出てきてくれた。

 そうしたら輝いたのはC・ロナウドじゃなく、ミュラーだった。いやぁ、W杯でハットトリックを見たよ。ミュラーはこの調子で初の「2大会連続得点王」狙っちゃう? ポルトガルはペペが頭突きをして一発レッド、そこから意気消沈だった。C・ロナウドも完全に気持ちが萎えてたなぁ。しかし、これでグループリーグ初戦、スペイン&ポルトガルのイベリア半島勢はともに大敗を喫したことになる。

6月17日 早朝便でレシフェへ戻る。午前中、スカパーチーム全員でまた地元クラブ、サンタクルスFCのオフシャルショップへ出かける。完全にマイブーム状態だ。サンタクルス側も大喜びで記念写真撮って、公式HPにアップしてくれるという。日本人がわざわざセリエCの、庶民派のチームを選んだっていうのが嬉しいらしい。僕はTシャツを購入。

 シャツといえば(なかなかW杯っぽい雰囲気にならないと言われてた今大会だが)、ブラジル国内でカナリアイエローの代表シャツを着てる人がぐんと増えてきた。で、今日はブラジルvsメキシコの日だ。一体、クリーニング店がどうなっているかスタッフが調べに行ってくれた。開幕戦の後、クリーニングに出したユニホームシャツを第2戦の今日、引き取りに行くのじゃないか。と、案の定、クリーニング店内はカナリアイエロー一色で、店のおばちゃんがどれが誰のシャツがわからなくなってパニックになってた由。もう、ハンガーにかかってるシャツを自己申告で持っていくことになってたそうだ。もちろんほとんどバッタもんユニホームなんだが、たまに本物のナイキ製があったりして、そういうのは先になくなる。

 ブラジルvsメキシコはPVで見た。集まったブラジル人が爆発できず、くすぶってる感じが面白かった。このPVには(ツアーで来ていた)知人の新潟サポと一緒に出かけたんだけど、「ブラジルがこれだけのタレントを揃えても、打開できないときは打開できないんですね…」と、我が身に引き寄せた感想。ホントにねぇ。何となく親近感を感じるスコアレスドロー。

6月18日 午前便でナタールへ。ナタールはリオグランデ・ノルテ州の州都。空港に日本大使館の臨時出張所が設けられ、便宜をはかってくれてた。報道によるとレシフェで行われた第1戦・コートジボアール戦には1万人の日本人サポーターが駆けつけたそうだ。4万人収容の会場で1万人動員である。ものすごいと思う。当地で行われる第2戦・ギリシア戦もほぼ同じ規模の動員が予想されている。で、ナタールというところがかなり地味な地方都市なのだ。きれいな海と砂丘で知られる程度の小都市。そこに日本人が1万人やって来るなんて空前の出来事である。

 シャトルバスに乗るべく空港から一歩外に出てあまりの暑さにクラクラする。熱帯気候だ。北へ移動してその分、赤道が近づいたわけだ。これは日中は動いたら死ぬ。砂丘をバギーで走るのが人気らしいんだけど、絶対嫌だよ。いったんホテルに落ち着いて、近所へランチに出かけたら、店でライターの元川悦子さんとバッタリ遭遇。コートジボアール戦に関して「1点を守り切る試合なんていっぺんもやったことないのに、何でやろうと思っちゃったかねぇ…」という話になる。

 午後は地元クラブ、ABC(アーベーセー)FCのオフィシャルショップを取材する。いや、レシフェのサンタクルスFCもそうだけど、もうね、ナタールのABCなんてぜんぜん聞いたことないですよ。Aはアルゼンチン人、Bはブラジル人、Cはチリ人の意味だそうです。その力を結集したクラブなのかな。敵役、アルゼンチンにあらかじめ定位置というか居場所を与えている、ブラジルのクラブとしては珍しい考え方。

 白黒のなかなかシックなクラブカラーで、気に入ったからシャツを購入した。そうしたら写真を撮って公式フェイスブックに上げていいかと言われ、皆で記念写真を撮る。実は僕らは既にレシフェのサンタクルスFCでも公式サイト&フェイスブックにアップされて、1000件以上の「いいね!」をもらっている。ABCの店員さんは「僕はギリシャ人の知り合いいないから、明日は日本を応援するよ!」と言ってくれた。

6月19日 ホテルの冷房にやられて、ちょっと風邪気味。ギリシャ戦のキックオフは19時なので、ぎりぎりまで部屋で横になる。16時頃、レシフェから300キロかけてたどり着いたマイクロバス組が合流、いよいよ試合会場のエスタディオ・ダス・ドゥナス(砂丘スタジアム)へ向かう。天気予報は雨だったが(そして、日本出発前は当地の大雨被害の報道に仰天したものだが)、幸いレシフェのようなどしゃ降りにはならなかった。たまに強く降っても通り雨だ。

 日本代表は先発から香川の名前が消えた。ザックはアタッカーの選手がどうしても信じきれてない印象。会場はものすごい「日本ホーム」だった。日本人サポーターに加えて、地元ブラジル人がレプリカシャツ(バッタもん)だとか、手製の日の丸Tシャツとか日の丸ハチマキ等で圧倒的に日本に味方している、聖闘士星矢のコスプレで来たブラジル人青年もいる。

 試合は前半のうちにギリシャに退場者が出るという、おあつらえ向きの展開。数的優位を生かして、日本代表は敵をチンチンにやっつける。と言いたいところだが、そう簡単にはいかない。ギリシャはきれいな「4-4-1」の布陣。これがね、難攻不落の要塞になった。もともと堅守で知られたチームが、そこを徹底して来るとかなりきびしい。といって、ちゃんとカウンター速攻で川島のゴールを脅かしもした。

 僕はマリーニョさんと並んで見てたんだけど、「強引にでも打たなきゃ何にも起きないよ。何で打たないの。きれいに崩そうとし過ぎてるよ。崩して何になるの?」とおかんむり。スコアレスドロー。ドイツ大会を思い出すなぁ。試合後、マイクロバスでレシフェへ戻る。深夜3時前、ホテル帰着。

6月20日 朝5時、文化放送『セットアップ!』のコメント録り。もう寝てもしょうがないので、そのまま朝のウォーキングに出かける。9時ホテルロビー集合、アレーナ・ペルナンブーコへ。イタリアvsコスタリカ戦。行ってみたらコスタリカ人サポーターのすぐ後ろの席で、つまり、いちばん騒いでる場所でコスタリカの大金星を見る機会に恵まれる。正直、コスタリカ人がうらやましかったよ。大会前は「死のグループは3強1弱の様相。コスタリカは事実上のサンドバッグ」と評されていたんだ。サンドバッグがもう、ボクサー2人やっつけちゃったよ!

 会場の外で電話出演した後、今日は出番がないそうなのでおみやげを買って帰る。ついにブラジル滞在も今夜で最後だ。長いようで短かった。もっと色んな街が見たい。夜、スタッフと地元料理の店でお別れの食事会。今回の旅は人に恵まれたなぁ。


附記1、ジンスとの別れを伝えた栗原さんの広報ダイアリー泣けたなぁ。俺はホテルでマジ泣いた。700人集まったんだってね。そのひとりひとりにきちんと向き合って挨拶したジンス。ドイツへ行っても応援してるぞ!

2、あと広報の青木諒さんが退社されたそうですね。すんごいお世話になりました。お疲れ様です。またどこかで会えたら嬉しいです。

3、無事帰国しました。イ・ミョンジェ選手加入のモバアルメールも自宅で受け取りましたよ。僕はこれからほぼ毎日、8時間級の生番組です。倉敷保雄さんに代わって『プロホガソン』(ポルトガル語で延長戦の意味)のMC担当なんですよ。こう毎日、正月特番やってるような感じですかねぇ。次回の「プロホガソン日記」はスカパー東京メディアセンター編になりますよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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