【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第227回
2014/9/4
「工事中」
J1第21節、新潟×徳島。
ミッドウィークに天皇杯・長崎戦を戦って、中2日の強行日程。夏の疲れが出る時期、「8日間に3試合」はきついだろう。報道によると清水エスパルスは何と11人離脱の非常事態らしい。といって新潟は「8日間に3試合」を全部、ホームで戦えている。圧倒的に恵まれているのだ。今日の相手、徳島ヴォルティスは天皇杯・G大阪戦をアウェーで戦った後、新潟へ乗り込んできた格好。出場記録を見ると小林伸二監督は天皇杯でターンオーバー制を実施している。夏補強の村松大輔、エステバン、そしてアドリアーノを加えた主力をこの一戦にぶつけてきた。
僕は長崎戦の後、新潟に残って、散歩道単行本用のレオ・シルバ選手インタビューを収録したり、FMポートに出演したりしたんだけど、残念なことに金曜に帰京した(もう、あと一日粘れば徳島戦当日だったのに!)。土曜日は日光へ移動して、アイスバックスのプレシーズンマッチの仕事をする。アジアリーグ・アイスホッケーは9月中旬開幕だ。今季はロシア・サハリンのチームが参戦して、日・中・韓・露のインターナショナルリーグになった。
だもんで徳島戦はスカパー録画観戦だ。結果はケータイ速報でも見たし、知人サポがLINEで知らせてもくれた。事態を受け止める時間は充分あって、録画観戦時はショックがだいぶ緩和されていたと思うのだ。それでも凹んだ。いや~、きっつい試合だなぁ。
いいところがほとんどない。仮にもオフィシャルの連載コラムでそんな言い方をするのは気が引けるけれど、徳島の完勝だ。一体全体、どっちが最下位チームで、どっちがACLを目指しているのか。徳島の意図はハッキリしていた。新潟の横パスは放っておく。縦パスを狙う。セカンドボールを狙う。奪ったらカウンターだ。アドリアーノが加わってボールを預けられるようになった。
で、その徳島の意図通りにあらまし90分が過ぎ去ったと言っていい。得点経過は前半5分と同38分に徳島・高崎寛之、つまり先制点と決勝点だ。新潟は前半24分、成岡翔のゴールでいったんは追いついている。が、このゴールの際の交錯プレーで成岡が負傷交代してしまう。このアクシデントに関しては「ツキがなかった」と表現できる。けれど、それじゃアクシデントがなかったら新潟が勝っていたかといえば、僕はそうは思えない。
シンプルに言ってとにかく元気がないのだ。動きが少ない。パスサッカーは受け手の動きが大事でしょ。動いてスペースに顔を出す。動いて敵を引き付ける。動きがなくて足元足元だと敵もインターセプトしやすい。疲れなんだろうなぁ。動けない。セカンド拾えない。苦しまぎれのパスが精度悪い。せっかく夏休み最後の思い出作りに、ちびっこサポがスタジアムへ来てるのになぁ。「(天皇杯・長崎戦と)この2試合で悪いところを全部出し切ったと切り替えて、次に向けてやっていきたいと思います」(柳下正明監督・会見コメント)っていう、いちばん悪いところを見せちゃったなぁ。
ヤンツーさんの言う「この2試合」は「下部カテゴリー」と「最下位」に負けた試合だ。もちろん「下部カテゴリー」も「最下位」もあくまで額面でしかないことで、それは代表戦の「FIFAランキング何位」みたいな話と一緒で、真剣勝負にはほとんど何の意味も持たない。
が、不安は広がるだろう。「この2試合」はアンラッキーな敗戦ではなくて、サッカーの中身的に完全にしてやられた印象だ。延長戦まで交代カードを2枚残していた長崎・高木琢也監督の読み、夏の終わりに戦えるチームを用意した徳島・小林伸二監督のモチベーション掌握術、ともにそりゃもう大変なものだ。大変なものだとは重々承知している。けれど、愛するチームの完敗を見たら凹み、不安にかられるのが人情ってものだなぁ。
徳島戦は夏補強の重要さについても考えさせられるものがあった。これもまたシンプルに言うけれど、「夏補強がフィットしたほうが勝った試合」と総括するのだって可能だろう。まぁ、この話は「夏補強の成否」ではないのだ。成否を判断するのは現時点では早過ぎるでしょう。しかし、徳島はアドリアーノ引いてくる強化予算があったんだなぁ。
新潟は「工事中」だ。ヘルメットをかぶった人がおじぎしている。ご不便をおかけしております。しばらくの間、ご協力をお願いいたします。夏補強の選手もだんだんフィットするのじゃないか。ホントを言えばW杯の中断期間に完了させておくべきだったが、色々あって、工期がずれ込んでしまった。だからフィット云々は「工事が間に合った徳島」と「工事中の新潟」と言い換えてもいい。
となると僕らは工事早く終わんないかなぁ、ですね。あと完成したビルディングが案外しょぼいと困っちゃうので、いいのができないかなぁ、ですね。次節・G大阪戦はレオ・シルバ、大井健太郎が出場停止です。苦戦は目に見えてるけど、これも工事の一環と考えましょう。顔を上げていきましょう。
附記1、たぶん今、いちばんしんどいところですね。つまり、応援のしどころです。僕も万博へ駆けつけますよ。
2、レオ・シルバ選手は故郷のマラニョン州サンルイスの話をしてくれました。偶然ですけど、僕のマンションの管理人さん、ムラカミさんがサンルイスに住んでいた方で、海の美しさとか色んな話を聞かされてたんですよ。
3、まぁ、だけどレオはちょっとこの機会に休ませてあげたいですね。ずっと出ずっぱりでしょう。真面目な選手だから絶対抜かないですもんね。「疲れてないですか?」と尋ねても「人間だから疲れないとは言わないけれど、食生活にも注意して、体調管理してますから大丈夫です」ってプロの鑑みたいなコメントでしたよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

J1第21節、新潟×徳島。
ミッドウィークに天皇杯・長崎戦を戦って、中2日の強行日程。夏の疲れが出る時期、「8日間に3試合」はきついだろう。報道によると清水エスパルスは何と11人離脱の非常事態らしい。といって新潟は「8日間に3試合」を全部、ホームで戦えている。圧倒的に恵まれているのだ。今日の相手、徳島ヴォルティスは天皇杯・G大阪戦をアウェーで戦った後、新潟へ乗り込んできた格好。出場記録を見ると小林伸二監督は天皇杯でターンオーバー制を実施している。夏補強の村松大輔、エステバン、そしてアドリアーノを加えた主力をこの一戦にぶつけてきた。
僕は長崎戦の後、新潟に残って、散歩道単行本用のレオ・シルバ選手インタビューを収録したり、FMポートに出演したりしたんだけど、残念なことに金曜に帰京した(もう、あと一日粘れば徳島戦当日だったのに!)。土曜日は日光へ移動して、アイスバックスのプレシーズンマッチの仕事をする。アジアリーグ・アイスホッケーは9月中旬開幕だ。今季はロシア・サハリンのチームが参戦して、日・中・韓・露のインターナショナルリーグになった。
だもんで徳島戦はスカパー録画観戦だ。結果はケータイ速報でも見たし、知人サポがLINEで知らせてもくれた。事態を受け止める時間は充分あって、録画観戦時はショックがだいぶ緩和されていたと思うのだ。それでも凹んだ。いや~、きっつい試合だなぁ。
いいところがほとんどない。仮にもオフィシャルの連載コラムでそんな言い方をするのは気が引けるけれど、徳島の完勝だ。一体全体、どっちが最下位チームで、どっちがACLを目指しているのか。徳島の意図はハッキリしていた。新潟の横パスは放っておく。縦パスを狙う。セカンドボールを狙う。奪ったらカウンターだ。アドリアーノが加わってボールを預けられるようになった。
で、その徳島の意図通りにあらまし90分が過ぎ去ったと言っていい。得点経過は前半5分と同38分に徳島・高崎寛之、つまり先制点と決勝点だ。新潟は前半24分、成岡翔のゴールでいったんは追いついている。が、このゴールの際の交錯プレーで成岡が負傷交代してしまう。このアクシデントに関しては「ツキがなかった」と表現できる。けれど、それじゃアクシデントがなかったら新潟が勝っていたかといえば、僕はそうは思えない。
シンプルに言ってとにかく元気がないのだ。動きが少ない。パスサッカーは受け手の動きが大事でしょ。動いてスペースに顔を出す。動いて敵を引き付ける。動きがなくて足元足元だと敵もインターセプトしやすい。疲れなんだろうなぁ。動けない。セカンド拾えない。苦しまぎれのパスが精度悪い。せっかく夏休み最後の思い出作りに、ちびっこサポがスタジアムへ来てるのになぁ。「(天皇杯・長崎戦と)この2試合で悪いところを全部出し切ったと切り替えて、次に向けてやっていきたいと思います」(柳下正明監督・会見コメント)っていう、いちばん悪いところを見せちゃったなぁ。
ヤンツーさんの言う「この2試合」は「下部カテゴリー」と「最下位」に負けた試合だ。もちろん「下部カテゴリー」も「最下位」もあくまで額面でしかないことで、それは代表戦の「FIFAランキング何位」みたいな話と一緒で、真剣勝負にはほとんど何の意味も持たない。
が、不安は広がるだろう。「この2試合」はアンラッキーな敗戦ではなくて、サッカーの中身的に完全にしてやられた印象だ。延長戦まで交代カードを2枚残していた長崎・高木琢也監督の読み、夏の終わりに戦えるチームを用意した徳島・小林伸二監督のモチベーション掌握術、ともにそりゃもう大変なものだ。大変なものだとは重々承知している。けれど、愛するチームの完敗を見たら凹み、不安にかられるのが人情ってものだなぁ。
徳島戦は夏補強の重要さについても考えさせられるものがあった。これもまたシンプルに言うけれど、「夏補強がフィットしたほうが勝った試合」と総括するのだって可能だろう。まぁ、この話は「夏補強の成否」ではないのだ。成否を判断するのは現時点では早過ぎるでしょう。しかし、徳島はアドリアーノ引いてくる強化予算があったんだなぁ。
新潟は「工事中」だ。ヘルメットをかぶった人がおじぎしている。ご不便をおかけしております。しばらくの間、ご協力をお願いいたします。夏補強の選手もだんだんフィットするのじゃないか。ホントを言えばW杯の中断期間に完了させておくべきだったが、色々あって、工期がずれ込んでしまった。だからフィット云々は「工事が間に合った徳島」と「工事中の新潟」と言い換えてもいい。
となると僕らは工事早く終わんないかなぁ、ですね。あと完成したビルディングが案外しょぼいと困っちゃうので、いいのができないかなぁ、ですね。次節・G大阪戦はレオ・シルバ、大井健太郎が出場停止です。苦戦は目に見えてるけど、これも工事の一環と考えましょう。顔を上げていきましょう。
附記1、たぶん今、いちばんしんどいところですね。つまり、応援のしどころです。僕も万博へ駆けつけますよ。
2、レオ・シルバ選手は故郷のマラニョン州サンルイスの話をしてくれました。偶然ですけど、僕のマンションの管理人さん、ムラカミさんがサンルイスに住んでいた方で、海の美しさとか色んな話を聞かされてたんですよ。
3、まぁ、だけどレオはちょっとこの機会に休ませてあげたいですね。ずっと出ずっぱりでしょう。真面目な選手だから絶対抜かないですもんね。「疲れてないですか?」と尋ねても「人間だから疲れないとは言わないけれど、食生活にも注意して、体調管理してますから大丈夫です」ってプロの鑑みたいなコメントでしたよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
