【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第228回

2014/9/11
 「ボコ田ボコ夫さん」

 J1第22節、G大阪×新潟。
 8月最後のリーグ公式戦だ。今年の8月は本当に色々あったなぁ。先週のコラムを入稿した直後に飛び込んできたのは松原健のアギーレジャパン召集のニュースだった。鈴木武蔵のアジア大会出場(U-21代表入り)だったら皆、イメージしていたが、マツケンの飛び級A代表入りは本人すら予想していなかった。何か久々に手放しで喜べる話題だ。クラブハウスもめっちゃ盛り上がる。願わくばこれがチームの暗雲を吹き飛ばしてくれる吉兆でありますように。ファン、サポーターは一心にそう念じた。

 が、万博では5対0の大敗を喫する。甘くなかった。好調ガンバ相手にレオ・シルバ、大井健太郎を欠く陣容はちょっと苦しい。ちなみにセンターバックは舞行龍とソン・ジュフン、ボランチは小林裕紀と小泉慶がスタメンを務めた。健闘はしていたが、相手を放し過ぎた。SBの大野和成のところが自由に使われ、その対応に追われるうち、相手をフリーにしてしまう(大野は後半下げられ、山本康裕がSBの位置に入った)。

 ただこれは明記しておきたいけど、前半、失点するまでの時間帯は「お、意外とやれてるなぁ」という印象だった。リズムがよかったんだと思う。前半のうちに3失点するのだが、こっちは決定機をハズして、ガンバは決定機を決めたという違いだ。ま、好調ガンバをあれだけフリーにしたらやられます。もっとプレスかけて、事前につぶしておかなきゃダメだったね。

 5対0は地力の差と言ってしまえばそれまでなんだけど、同じ地力持ったチームが一昨年はJ2落ちして、新潟はグレートエスケープしたわけでしょう。チームは生きものだと思いますね。新潟は本格的に点取れない病にかかった。選手の気持ちが追いつめられている。岡本英也がいちばん得意な角度のシュートを外しましたよ。鈴木武蔵が(マツケンから)ドンピシャのタイミングでもらって決めきれなかったですよ。

 流感みたいなもんなんですよ。ゴール前であわてる。これは伝染しちゃうんだなぁ。決めなきゃ決めなきゃ、勝たなきゃ勝たなきゃ…、と思うほどに自縄自縛に陥る。こういうときに「エース」とか「10番」って大事なんですよ。例えばガンバなら遠藤保仁。苦しいときに何とかしてくれる存在。僕は田中亜土夢を買ってるからあえて言うけれど、「10番」の仕事は足りてないよ。本間勲のいない新潟で自分がどんな存在か。今、亜土夢は超ウルトラ頑張りどころですよ。

 それから関心を持って見つめたのは指宿洋史の初スタメンだった。前半は岡本、後半アタマからは武蔵と2トップを組んだ。どのくらいフィットするんだろうと思った。ひとつにはJリーグのスピード、テンポ感に、もうひとつは新潟のやってるサッカーに。

 柳下正明監督がここまでジョーカーとして、試合終盤にだけ使ってきたのには意味があるはずだ。フルタイム働くコンディションが整わないのか。あるいはプレー速度が遅い(相手のパフォーマンスが落ちてきた終盤なら使える)のか。そうしたらぜんぜんオッケーだ。文句ないす。あれだけちゃんとポストプレーやってくれるFWは大島秀夫以来じゃないかな。

 ということで言うと、ボールはおさまるんだから言い訳のひとつは消えたんだよ。点は取れないといけない。点が取れないのはやり方がうまくいってないんだ。川又堅碁&岡本や、川又&武蔵の2トップと違って、指宿はやることがハッキリしていて、相棒と役割が重ならない。

 チーム状態がどん底であることは受け止めなくちゃならない。なりふり構ってる場合じゃないだろう。目標を「J1残留」にロックオンするべきだ。大雑把な目安として勝ち点40と考えると、何としてもあと4つ勝ちを拾う必要がある。

 武蔵のアジア大会出場は戦力ダウンではあるけれど、チームとして織り込み済みだ。むしろ何かきっかけをつかんで帰ってくればいい。それはもちろんアギーレジャパン入りするマツケンにも言えることだ。ワカゾーの魅力はびよーんと跳躍することだ。きっかけひとつでびよーんと伸びるんだね。

 チーム目標を達成するのに中心選手の頑張り、ベテランの仕事も必須だけど、ワカゾーのびよーんも欠かせないよ。びよーんは強いて言葉にすると「勢い」だ。それがないチームは徐々に沈んでいくね。ここから巻き返すのは馬力いるよ。凹んでたってしょうがないじゃん。


附記1、ま、この先のサバイバル戦を覚悟しましたよって話ですね。もう何かね、「去年の強かったチーム」とか「川又堅碁」とか、くよくよ考えるのはやめようと思いました。前後裁断。過去のことも先のことも断ち切って、今に全投入する。今、ここには今しかないんですよね。

2、しかし、8月の終わりに「倉田秋」出してきて、しかも活躍するってどうなのかな。ガンバのおかげで小さい秋見つけちゃったもんな。あと大阪は今年8月、何と猛暑日ゼロの異常気象だったらしいですね。18時半キックオフで涼しかったですね。

3、この試合は「母が脳梗塞で倒れたとハーフタイムに知らされ、終了後、監督会見もパスして新幹線で引き返した」という、個人的にも強烈なものでした。前後裁断は新幹線の車中で考えたことです。まだどうなるかわからない先のことを思い悩んでもあんまり意味ないなって。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo


ユニフォームパートナー