【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第230回

2014/9/25
 「しっちゃかめっちゃか」

 J1第23節、新潟×仙台。
 劇的な試合だったなぁ。かつて当コラムのなかで「雨は名演出家である」という話を書いたことがある。その典型というか、名演出家にもほどがある(やりすぎですよ)というか、そんな試合だった。

 僕はサッカーを取材するようになって、昔とは比較にならないくらい天気予報をチェックするようになった。20代くらいの頃は天候なんか関係なかった。傘を持ち歩く習慣もなかった。濡れたら濡れただし、雨宿りするのも悪くない。出たとこ勝負の行き当たりばったりでいいんじゃないか。あんまり用意周到だと人生ちっとも面白くない。

 ところがサッカーは用意を強いるのだった。野球と違って雨天中止が(ほぼ)ないし、札幌ドームとノエビアスタジアム神戸(神戸ウイングスタジアム)以外は全面屋根で覆われた「ドーム球場」ってものがあり得ない。サッカーファンは天候を常に考慮する。何を着ていくか? 雨ガッパは必要か? 持ち物を少なくする工夫は? バッグ自体を濡らさない大容量ビニール袋は持ってく? 

 もちろん試合そのものについても検討する。前後半のどちらが風上なのか? 風でロングボールは流れるのか止まるのか? 雨はピッチの走りを早くしているか? 視界はきくか? 足をすべらせる選手はいるか? 水たまりでボールが止まらないか? つまり天候はゲームを構成する大事な要素なんだね。僕が「ドーム球場」全盛の野球を少々物足りなく思うのは、ゲームを構成する偶然性(風向き、風の巻き方、雨の強弱、湿度、コールドゲームの読みetc)の興趣が削がれ、単純化してしまったせいだ。

 で、仙台戦だけど、これがね、キックオフの時点ではくもりだったんだね。前半は持ちこたえていた。サッカー自体はどうか。慎重な入りだ。両チームともに連敗中で、この試合に懸けている。新潟は「早く前へ運ぶ」イメージをこの2週間、トレーニングしてきた。仙台は戦況に即してフォーメーション変更を実施した。どちらもタスクを忠実に実行し、大変意欲的だった。唯一の変数は成岡翔のケガによる交代(前半7分、田中達也IN)だったろうか。

 それがハーフタイム中に降りだした雨でしっちゃかめっちゃかになる(あ、「ひっちゃかめっちゃか」だと思ってたら何と広辞苑にありませんね。東京方言らしいです)。あれだけ降ったら戦術も何もありません。滝ですね、修験道の滝行。僕はビッグスワンであれだけ短時間に大量の雨が降ったのはちょっと記憶にありません。ゲリラ豪雨ってやつですね。後で聞いたら新潟市内でも降らなかったところがあったそうです。

 ビッグスワンのピッチは世界的に見ても最高ランクですよね。それが水たまりができて、ボールが止まってたもんなぁ。ゲームの「変数」をいえば変数だらけ。スローインのボールがすべって変なとこに飛んだりね、クリアボールが止まって相手へのプレゼントパスになったり。選手は必死に頑張ってるんだけど、ユーモラスでもあるんだなぁ。「プレー」の本来の意味までフットボールが先祖返りしている。ボール遊びの水遊びなんだ。しっちゃかめっちゃか遊び。

 心がけるべきは「シンプルに前へ運ぶ」と「大きくクリア」だったんじゃないか。変数だらけのなかで、人間が少しでも得点の可能性を増やし失点のそれを下げるとしたらシンプルにプレーするしかない。あと、もうひとつはセットプレーだ。攻撃を組み立てられるコンディションにないなら、セットプレーの一発勝負に懸けよう。この日のヒーロー、レオ・シルバもそれを考えていた。

 FKを蹴る機会は二度あった。後半13分と同32分。一度めは惜しくも敵GK・関憲一郎に弾かれている。しかし、感覚はつかめた。二度めは会心の決勝ゴールとなって、雨でぐっしょり濡れたゴールネットに突き刺さる。

 試合終了後、急に雨脚が弱まったから本当に演出家が「後半45分間のドラマチックな効果」を狙って、機材車両やポンプを仕込んだみたいだった。ちなみに映画史上最大規模の雨演出と評判になったのが今年公開された『ノア 約束の舟』(14年米、ダーレン・アロノフスキー監督、ラッセル・クロウ主演)の洪水シーンだ。「一回の放水でサッカー場がいっぱいになる量の雨を降らせる」(アロノフスキー監督)マシンを用いたという。が、僕は迫力(とリアルさ)の点で仙台戦に軍配を上げたい。もちろんこんなことも広島豪雨のような被害がなかったから言ってられるのだが。

 新潟は下位の仙台を直接叩き、J1残留争いの上で、貴重な「6ポイントマッチ」をものにした。え、残留争いを口にするのは気が早いって? いやいや、僕は他人より「心配機能」が高いから、早め早めの心配をするんです。すーはーすーはー、息をするくらい自然に心配する。

 もう、だから広島・浦和・名古屋の3試合で勝ち点40に到達してくれていいですよ。そうしたら、そこからあらためて上位を目標にする。とにかくあと3つ、早く勝ってください。心配で心配で。


附記1、アジア大会、鈴木武蔵選手が大いに売り出してますね。特にTBSが放送したクウェート戦の露出がすごかった(2ゴールと結果も出した)。NHK-BS1でやったイラク戦は思うような仕事ができませんでした。試合自体も完敗だった。次はネパール戦ですね。こうなったらハットトリックを期待しましょう。

2、ビッグスワンはスタンドが屋根付きだけど、あの雨じゃさすがにびしょびしょでしたね。風邪ひいてないですか。仙台側もたぶん雨ガッパを忘れたかして、ずぶ濡れになってるサポーターがいました。大丈夫だったかなぁ。

3、スカパー中継でちょっと面白かったのは、勝利の決まった後、TeNY・内田拓志アナが「中位争いに踏みとどまる貴重な白星です」と表現したことです。これは虚をつかれた。なるほど、中位は中位争いで踏ん張ってるわけなんだなぁ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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