【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第232回
2014/10/9
「これがあるからやめられない」
J1第26節・名古屋×新潟。
今季最大のドラマ。11位と12位、チームの浮沈をかけた直接対決に、シーズン途中移籍した「前半戦のエースストライカー」がからんでいる図式だ。新潟は意地でも「赤い川又堅碁」を抑えにかかるだろう。この試合は絶対負けられない。これに負けたらチームがガタガタになってもおかしくない。
とはいえ戦前の評判は芳しくなかった。名古屋が絶好調なのだ。川又と永井謙佑の2トップに、やはりシーズン途中移籍のレアンドロ・ドミンゲスが勝負パスを配給する(ものすごい補強!)。目下、リーグ戦3連勝の名古屋に対し、得点力不足でここ5試合1勝4敗の新潟。中日スポーツは試合前日、「言葉の代わりにゴールを決める」の見出しで、川又移籍のいきさつを記事にした。「古巣へゴールをぶちこむ川又」の絵が出来上がっていた。それは新潟サポーターにとってはまさに悪夢だ。
柳下正明監督は名古屋のカウンター攻撃を警戒した。とにかく敵2トップに時間とスペースを与えない。レアンドロ・ドミンゲスにはレオ・シルバを当てた。このマッチアップは見応え満点だった。
この日、採用したのは4バック。で、特に前半は皆、積極的にプレスに行った。奪ったらロングボールを使う。この日はついに指宿洋史とラファエル・シルバの2トップが実現した。ロングボールは指宿におさめるか、ラファエルにウラへ抜けさせるか。これをしつこくやってるうちに相手はリズムがおかしくなった。どちらが好調のチームかわからなくなる。
が、問題はゴールだ。相手にサッカーをさせないだけじゃ勝てない。これまでも「形は作れてる」「内容は悪くない」「気持ちは見えた」等のフレーズが繰り返されてきたじゃないか。栗原広報もモバアルに書くことがなくなりかけている。栗原さんにノリノリの広報ダイアリーを書かせるんだ。前半は「松原健のアーリークロス→指宿ヘッド」と「ラファエルがつぶれて、こぼれ球を田中亜土夢が蹴り込む」が惜しかった。
たぶん多くの読者が賛成してくれると思うんだけど、初スタメンのラファエルは最高だったね。前節は周囲に気をつかってる感じで、こりゃフィットするまでしばらくかかるかなと思っていた。それがこの日は一転、伸び伸びやっていた。持ち味はスピードだ。ウラへ抜ける。えぐって折り返す。敵DFをかく乱する。指宿とは相性ピッタリのコンビだなぁ。鈴木武蔵と似たタイプだけど、例えば1トップ2シャドーのように(ラファエル、武蔵を同時に)使ったらどうなるだろうと思う。
後半になっても新潟は落ちない。とにかく出足がよかった。プレスの出足、セカンドを拾う出足、奪いに行く出足、クリアする出足。常に出足が名古屋を上回っている。これは闘志だな。コンディションというより気持ちの部分。今季最大の見せ場で、チームはベストパフォーマンスを繰り広げている。何だこれ。凄ぇじゃん。これがあるからやめられないよ。
後半14分、とうとう指宿に待望のゴールが生まれる。松原のクロスを闘莉王が頭でクリア、そのこぼれにタイミング良く駆け込んで右足で決める。エリア中央でDFを2人引きつけた亜土夢も効いてた。歓喜の指宿は広告板を飛び越え、まっしぐらに新潟ゴール裏へ向かう。そこへレオが行って、満面の笑みで抱き合う。これがあるから以下同文なんだよ。
名古屋は松田力がバーに当てる等、得点チャンスはあった。まぁ、幸運が味方すればドローには持ち込めたかもしれない。が、勝つのはカンタンじゃなかったろう。新潟DF陣の気迫が凄かった。翌日、中日スポーツは「古巣・新潟戦 闘志空回り」の見出しを掲げたが、川又堅碁は空回りしてただろうか。僕には単純に抑え込まれたように見える。
新潟はその歴史に不屈の物語をまた一章加えた。瑞穂競技場のスタンドでは誰もが、これが新潟なんだと胸を張る。これが新潟なんだ。苦しいところでへこたれない。誰かが抜けても力を合わせてそれを補う。会見ではヤンツーさんが「チームとしてやろうとすることを、選手たちは90分を通してやってくれたと思います」と誇らしげに語る。
「心配機能」が他人より高い僕としては、まだ安心はしません。注目度の高い試合は選手だって自然と頑張りますよね。いい試合が続かないとホンモノとは言えない。それに勝ったにせよ、やっぱり1得点です。ウノゼロ(1対0)ばかりじゃきついですよ。
といって今季ベストゲームの値打ちはいささかも損なわれるものじゃないでしょう。12年、最終節の札幌戦で見たもの、あるいは13年、6万人の横浜FM戦で見たもの、それと同じスーパーなことが人が変っても全く同じように起きる。これがあるから新潟なんだとしか言えませんね。
附記1、この試合はスカパー中継の集音マイクがヤンツーさんの声を拾って、すんごい面白かったですね。ピンマイクつけてるのかってくらいに聞こえました。僕はヤンツーウォッチャーとして「日本野鳥の会」ならぬ「日本ヤンツーの会」を立ち上げたくらいの男ですから、この貴重映像は保存ですね。
2、すいません、ウソをつきました。その会ありません。
3、アジア大会は韓国に敗れて残念でした。もっと武蔵に経験を積ませたかった。が、一段たくましくなってチームに帰って来ると思えば、嬉しいことです。単純にね、22階の宿舎のエレベーターが故障なんて完全アウェー、体験しなきゃわからないです。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

J1第26節・名古屋×新潟。
今季最大のドラマ。11位と12位、チームの浮沈をかけた直接対決に、シーズン途中移籍した「前半戦のエースストライカー」がからんでいる図式だ。新潟は意地でも「赤い川又堅碁」を抑えにかかるだろう。この試合は絶対負けられない。これに負けたらチームがガタガタになってもおかしくない。
とはいえ戦前の評判は芳しくなかった。名古屋が絶好調なのだ。川又と永井謙佑の2トップに、やはりシーズン途中移籍のレアンドロ・ドミンゲスが勝負パスを配給する(ものすごい補強!)。目下、リーグ戦3連勝の名古屋に対し、得点力不足でここ5試合1勝4敗の新潟。中日スポーツは試合前日、「言葉の代わりにゴールを決める」の見出しで、川又移籍のいきさつを記事にした。「古巣へゴールをぶちこむ川又」の絵が出来上がっていた。それは新潟サポーターにとってはまさに悪夢だ。
柳下正明監督は名古屋のカウンター攻撃を警戒した。とにかく敵2トップに時間とスペースを与えない。レアンドロ・ドミンゲスにはレオ・シルバを当てた。このマッチアップは見応え満点だった。
この日、採用したのは4バック。で、特に前半は皆、積極的にプレスに行った。奪ったらロングボールを使う。この日はついに指宿洋史とラファエル・シルバの2トップが実現した。ロングボールは指宿におさめるか、ラファエルにウラへ抜けさせるか。これをしつこくやってるうちに相手はリズムがおかしくなった。どちらが好調のチームかわからなくなる。
が、問題はゴールだ。相手にサッカーをさせないだけじゃ勝てない。これまでも「形は作れてる」「内容は悪くない」「気持ちは見えた」等のフレーズが繰り返されてきたじゃないか。栗原広報もモバアルに書くことがなくなりかけている。栗原さんにノリノリの広報ダイアリーを書かせるんだ。前半は「松原健のアーリークロス→指宿ヘッド」と「ラファエルがつぶれて、こぼれ球を田中亜土夢が蹴り込む」が惜しかった。
たぶん多くの読者が賛成してくれると思うんだけど、初スタメンのラファエルは最高だったね。前節は周囲に気をつかってる感じで、こりゃフィットするまでしばらくかかるかなと思っていた。それがこの日は一転、伸び伸びやっていた。持ち味はスピードだ。ウラへ抜ける。えぐって折り返す。敵DFをかく乱する。指宿とは相性ピッタリのコンビだなぁ。鈴木武蔵と似たタイプだけど、例えば1トップ2シャドーのように(ラファエル、武蔵を同時に)使ったらどうなるだろうと思う。
後半になっても新潟は落ちない。とにかく出足がよかった。プレスの出足、セカンドを拾う出足、奪いに行く出足、クリアする出足。常に出足が名古屋を上回っている。これは闘志だな。コンディションというより気持ちの部分。今季最大の見せ場で、チームはベストパフォーマンスを繰り広げている。何だこれ。凄ぇじゃん。これがあるからやめられないよ。
後半14分、とうとう指宿に待望のゴールが生まれる。松原のクロスを闘莉王が頭でクリア、そのこぼれにタイミング良く駆け込んで右足で決める。エリア中央でDFを2人引きつけた亜土夢も効いてた。歓喜の指宿は広告板を飛び越え、まっしぐらに新潟ゴール裏へ向かう。そこへレオが行って、満面の笑みで抱き合う。これがあるから以下同文なんだよ。
名古屋は松田力がバーに当てる等、得点チャンスはあった。まぁ、幸運が味方すればドローには持ち込めたかもしれない。が、勝つのはカンタンじゃなかったろう。新潟DF陣の気迫が凄かった。翌日、中日スポーツは「古巣・新潟戦 闘志空回り」の見出しを掲げたが、川又堅碁は空回りしてただろうか。僕には単純に抑え込まれたように見える。
新潟はその歴史に不屈の物語をまた一章加えた。瑞穂競技場のスタンドでは誰もが、これが新潟なんだと胸を張る。これが新潟なんだ。苦しいところでへこたれない。誰かが抜けても力を合わせてそれを補う。会見ではヤンツーさんが「チームとしてやろうとすることを、選手たちは90分を通してやってくれたと思います」と誇らしげに語る。
「心配機能」が他人より高い僕としては、まだ安心はしません。注目度の高い試合は選手だって自然と頑張りますよね。いい試合が続かないとホンモノとは言えない。それに勝ったにせよ、やっぱり1得点です。ウノゼロ(1対0)ばかりじゃきついですよ。
といって今季ベストゲームの値打ちはいささかも損なわれるものじゃないでしょう。12年、最終節の札幌戦で見たもの、あるいは13年、6万人の横浜FM戦で見たもの、それと同じスーパーなことが人が変っても全く同じように起きる。これがあるから新潟なんだとしか言えませんね。
附記1、この試合はスカパー中継の集音マイクがヤンツーさんの声を拾って、すんごい面白かったですね。ピンマイクつけてるのかってくらいに聞こえました。僕はヤンツーウォッチャーとして「日本野鳥の会」ならぬ「日本ヤンツーの会」を立ち上げたくらいの男ですから、この貴重映像は保存ですね。
2、すいません、ウソをつきました。その会ありません。
3、アジア大会は韓国に敗れて残念でした。もっと武蔵に経験を積ませたかった。が、一段たくましくなってチームに帰って来ると思えば、嬉しいことです。単純にね、22階の宿舎のエレベーターが故障なんて完全アウェー、体験しなきゃわからないです。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
