【第5回】新潟は相手を守備でコントロールする
2018/8/14

J1を感じさせられたルヴァンFC東京戦
先週はYBCルヴァンカップのFC東京戦、J2リーグ横浜FC戦とハードなスケジュールが続きました。FC東京戦は敗戦以上に、内容的にも相手に上回られましたね。ルヴァン仙台戦がある程度やれて、過信ではないですが、「やれるんじゃないか」と感じた部分もあったかもしれません。でも、見事に気持ちを砕かれたというか。
出場した選手たちは、上手くいかなかったことを素直に受け止めつつ、改めてJ1のレベルの高さを感じたと思います。守備の選手はディエゴ・オリヴェイラのように力強く、ボールキープもできる選手に対面してそのレベルを感じられた。前の選手も、シュートを撃たされるような、駆け引きで一段上の相手に、どう戦っていくかを考えさせられたんじゃないでしょうか。
中村俊輔選手と齋藤学選手
僕にもそういった抜きん出た個を感じた選手がいます。それは中村俊輔選手(現磐田)と齋藤学選手(現川崎)。中村選手は常にDFを見ていて、守備側のちょっとした動きの逆を突いてくるんです。『変に自分が動き過ぎると、逆を突かれる』と、観察されているような、今まで覚えたことのない感覚に初めて陥りました。齋藤学選手はドリブルのスピードや仕掛けが群を抜いていた。『これが日本のトップオブトップなんだ』と、強烈に感じさせられました。
誰でも子どもの頃からサッカーについて考え、確立をしてきます。でも、そうやって上回られるというか、逆を突かれると、「うわ、本当か」と。正直、『これが通用しないのか』『こんなことをされちゃうんだ』と怖くなるし、試合中はパニックになって、弱気な部分が出てきてしまいます(笑)。
でも、試合後に振り返ると、間違いなく次への経験になるんですよね。『もし中村俊輔選手だったら』と、思考的に留まれるというか、もう一つの思考ができる。高いレベルの選手とプレーできるのは貴重だし、新しい自分のサッカー観を作るために重要なことだと思います。いま、ルヴァンに出場しているのは比較的若い選手たちが多いですが、そのレベルを感じられるのは、長い目で見ると大きな意味があるんじゃないでしょうか。
新潟の守備が素晴らしかった横浜FC戦
続いて横浜FC戦です。今季の横浜の印象は、まず中盤3枚がボールに絡みながら攻撃を組み立て、両サイドも運動量が豊富で推進力があり、高いポテンシャルを感じます。前回も取り上げたイバはボールキープもできて足元が柔らかく、かつシュートセンスもあるので、「怖い相手だな」と思っていました。
しかし、試合では新潟が圧倒しました。特筆したいのは守備、それもプレスについて。これまで決して引くわけではなかったですが、ある程度のところまで来させていた。少し守備の重心が後ろ気味にあったのではと思いますが、今回は前からの意識、奪いに行く意識が高かったと思います。1stディフェンダーが決まって、後ろでインターセプトを仕掛ける選手は分かりやすかったと思いますし、奪えるチャンスを非常に多く作れました。
前線からの守備
一言で“前線からの守備”と言っても、ただボールを追い回すわけではありません。新潟のFWは中央へのパスコースを消しながら、CBにプレッシャーをかけていました。すると相手はサイドにボールを展開する形になります。外、外に追い出す守備を、まず1stディフェンダーがやってくれていました。
外に行ってくれると、後ろで声を出して動かすDFとしては、守備をすごく限定しやすいんです。貴章さんとカワくんがチームとしての守備をしやすくしてくれたことで、マサルくんやズミさんが2ndディフェンダーとしてボールを奪いに行けました。
観ていた方々は、「せっかくイバがいるなら、ロングボールを入れれば」と思われたかもしれません。もちろん割り切ってその選択もあったと思いますが、新潟の選手が簡単に蹴らせない位置までプレッシャーをかけていたことがひとつの要因だと思います。それに、ジュフンとカンペーさんが、チャレンジ&カバーを繰り返しながらイバに対応していたので、「そこに蹴ったところで」という心理も働いたんじゃないでしょうか。時に厳しく対応しましたが、警告も出ませんでしたし(笑)、相手はすごくやりづらかったと思います。
新潟に流れを引き寄せたイソくん
さらにこの試合、新潟に流れを引き寄せる大きな働きをしたひとりがイソくんだと思います。比較的高い位置を取っていたイソくんは、横浜のボランチがボールを受けるために下がるのを見ると、そのまま相手が嫌がる位置まで奪いに行っていましたイソくんのプレッシャーによって、さらにスイッチが入ってボール奪取の回数が増えたと思います。
イソくんがスイッチを入れ、奪いに行く回数が増えたため、全体的な守備の重心が前でスタートできました。そのため、イバにロングボールを入れられても、ゴール前や中央ではなく、サイドや高い位置でした。「イバに入ってどうする」じゃなく、入る前に守備ができた。イバもコントロールできていたんじゃないかと思います。
イソくんはボールを持っても素晴らしい選手ですが、守備では我慢強く行くところと、「ここだ」と足を出せる判断がとても明確です。「チャレンジかステイか」の判断ができて、かつインターセプトに思い切り行けるのは、先が読めていないとできないんですよね。ボランチとしてのレベルがとても高いと思います。
攻撃は距離感が良く、縦パスも効果的だった
攻撃は以前、縦パス時のサポートを話しましたが、今回は距離感も良かったですし、前半からすごく縦パスが入っていました。横浜は中を絞らざるを得ない状況を作らされ、安田さんやゴメスが上がる時間を作りながら、サイドを上手く突けたのではないかと思います。
先制点はカワくん。『早く結果が出てほしいな』とちょっと心配していたのでホッとしました(笑)。やっぱりカワくんは中にいて、一瞬の動きで相手の前に入り込む能力がすごく高い。良さがすごく出た場面でした。それと、クロスに対してマサルくんが中から外に逃げる動きをしたことで、相手のDFを動かし、折り返すことで相手をボールウォッチャーにもできていました。
新潟の守備やプレッシャーが生み出した2点目
攻撃的な守備というか、新潟は前線の2人とイソくんを中心に、「守備はいつ、どこにプレッシャーをかけるか」が明確でした。横浜はボールに多く触ってリズムを作りたかったと思いますが、それができず、距離感も良くない。いい状態でパスが出せなかったことで、自分たちでリズムを崩した印象があります。それが2点目にもつながりました。
横浜はどうしてもつなごうと思っているから、あのファーストタッチだと思うんです。それまでの対応や、相手に対する心理的なプレッシャーが2点目につながっていました。もちろん相手のミスはミスなんですが、新潟が守備で相手をコントロールした象徴的な得点だったと思います。貴章さんは3試合連続ゴール、「今年は矢野貴章の年」です(笑)。この得点も、GKに戻さざるを得ない状況を作ったイソくんのプレッシャーが素晴らしかったですね。
ピックアップしたい40分の攻撃
僕がもうひとつピックアップしたかったのは40分。得点にはなりませんでしたが、ズミさんがシュートした場面で、素晴らしい展開でした。まず右サイドに流れたカワくんにカンペーさんがフィードを送り、ヨンアピンを引きずり出します。横浜はCB1枚が不在になって、SBがCBのようなポジションを取りました。
試合の中ではあり得ることですが、DFはできればそういうポジションの入れ替えはしたくないんですよね。正しいポジションを常に取っておきたい。ましてクロスの対応はCBとSBでは全然違います。さらにズミさんがいいポジションに入った要因には、マサルくんが相手のボランチを引き連れてニアに走ったことがありました。それによって空いたスペースをズミさんが見逃さなかった。選手が状況を見ながら、「次にどこが空くか」を判断してプレーした典型的なものでした。あれで得点できたら本当に素晴らしかったです。
流れを渡さなかった後半
横浜は前節のように中盤3枚がいい距離感から関わりながら攻めたいのが最初のプランだったと思います。でも、それが上手くいかなかったので、後半は単独で局面を打開できるレアンドロ・ドミンゲスを投入して、自分たちのペースに引き寄せたかったのではないかと思います。
でも、ヒヤリとする場面こそありましたが、新潟は正しいポジションからプレスをかけていました。それによって相手は後ろを向いてなかなか前に入れませんでしたし、ボランチで坂井選手がバランスを取り、上手くカバーリングをしていました。
相手に流れを渡さず、試合を決定づけた3点目はズミさん。美しかったです。この得点もイソくんのプレッシャーからカワくん~ズミさんでしたが、イソくんの後ろでも、ボール奪取に向けた動き出しを全員がやっていました。
イソくんのところでボールを奪えず、次に出されたとしても、いいタイミングでインターセプトをして攻撃に移れていたんじゃないかと思います。イソくんだけじゃなく、後ろの選手がどういう動き出しでボールを奪いに行こうとしたかが、すごく分かりました。守備の連動性が非常に見えた、いいシーン、いい得点だったと思います。
サポーターのおかげで、ホームのような戦いができた
ニッパツに集まった新潟サポーターは3300人。映像を見ていて、どっちがホームか分からないくらいでした。ゴール裏、メインスタンド、バックスタンドにもぎっしり入っていましたよね。本当に心強いですし、こんなに集まって応援してくれるのは選手にとって幸せなことです。だからだと思うんですけれど、ホームみたいな戦い方をしていましたね(笑)。選手はすごくやりやすかったでしょうし、これも間違いなく新潟の強みです。
いい守備ができているからこそ、奪取したボールをどこに付けるかを上積みしていきたいですね。まだ失う場面もあったので、空いているスペースがどこにあり、どう使っていくか。やりながらではあると思いますが、チームとしてハッキリできれば、もっと相手を嫌がらせることができます。さらにコントロールして試合を進めるための課題だと思います。
横浜と同じ状況に陥ることもあり得ます
前の3選手が得点を取れたのは明るい材料です。でも、次の愛媛戦が同じような展開にはならないと思いますし、もしかすると、なかなか得点を取れない状況もあり得ると思います。そこで、「点を取るのは簡単だと思わない。入らないのが当たり前」と意識を持てるかどうか。
横浜FCは前節に3得点した後の新潟戦で、上手く攻撃ができずに自分たちでリズムを崩した格好でした。今度は新潟が同じ状況に陥ることもあり得ます。どれだけ焦れずにやれるかが、愛媛戦でのひとつのポイントだと思いますし、横浜から学ぶことができればと思います。
カワさん(河原和寿選手)は、僕がユースの時に一緒にやらせてもらったことがあります。すごく優しくて、コンビニで会ったらおごってくれたことがあるんですよ。「いい人だなぁ」って感激していました(笑)。カワさんが栃木SCでプレーしていて、筑波大学と練習試合した時も、僕を覚えていて、話しかけてくれたことを忘れられません。
タカくんは、全体練習終わりでボールを蹴る時、よくパートナーだったんです。よく面倒を見てもらった先輩でしたから、久しぶりに話をしたいです。左利きでキックの精度は本当に高い。いいボールが入ってくるので、注意をしなければいけないと思います。
21日愛媛戦+レディース長野戦、25日徳島戦。ビッグスワンへ!
勝利がない愛媛は試合にかける想いがとても強いはず。ひとついいプレーがあれば、そこからみんなで勢いを生み出してくるはずなので、勢いに飲み込まれず落ち着いて対応したいと思います。新潟には前に貴章さんがいます(笑)。相手が勢いよく入ってきたら、前に入れて貴章さんの推進力やキープ力を活かせば、それだけで相手は嫌なはず。流れを渡さずにできるのではないかと思います。
25日に対戦する徳島は前からプレッシャーがガンガン来ますし、アグレッシブなチーム。僕は徳島戦もすごく楽しみにしています。横、横じゃなく、一個飛ばしたり、うまく縦パスを狙う準備ができてくれば、相手のプレッシャーを回避できる術にもなるので、縦パスを入れるのが鍵になってくると思います。