【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第4回

2009/4/2
「サービスエリアは愛と義と兼続だらけだ」

ナビスコカップ2連戦は生観戦だった。まぁ、3月25日、NACK5は首都圏だから当たり前の話。29日は高速道路料金のETC割引がスタートした週末だ。何で景気浮揚策がETC取付車のみなのか、もうひとつピンと来ないのだが、とりあえず「どこまで走っても1000円」を実感してみたいじゃないか。サッカー的に考えると、これは土・日開催試合における「サポーター移動革命」が実現したに等しい。
 
といって僕のクルマはETC未装着なのだった。ビッグスワンへ同行する知人はETC車を所有しているが、都下・昭島市在住だ。笑うべきことに僕んちの最寄り駅・浅草から地下鉄とJR乗り継いで昭島駅まで850円である。不思議な気がした。昭島から新潟まで圏央道+関越道で1650円。べらぼうに高いじゃないか昭島までの電車賃!(ガソリン代は考えないでの話)。
 
 ビッグスワンに到着するや、ずんずん関係者控え室へ入って行く。目指す人はすぐに見つかった。元『サッカーマガジン』の大中祐二さんだ。大中さんは同誌で新潟&鹿島担当を務めた主力中の主力記者だった。それが突然、会社を辞めて新潟市内へ引っ越した。
 
 僕は自分のつかんでる予感を、大中さんにぶつけてみたかった。「越後の紅葉になりなさい」という母の教えを実行に移した(ウソ)大中さんは、つまり、このチームに賭けている。僕の知るかぎり、今、自分が感じている驚きや興奮を最も分かち合える感覚なのは大中さんだ。なぁ、俺たち、ものすごい面白いとこに当たっちまったんじゃないか?
 
 大中さんは超テンション高かった。
 「チーム全体が、新車に乗るのが面白くて仕方ないって感じなんですよ。新車を乗りこなすのが楽しい、もっと乗りたい。こんなに加速するのかとか、試したくてウズウズしてる状態ですよ」
 あぁ、それはそんな感じだなと思う。僕はこのチームの不思議さについて質問した。矢野貴章を例にとるとわかりやすいが、まぁ、そうだなぁカイトのように、とんでもないとこで守ってたかと思うと、次にとんでもないとこまで攻め込んでたりする。戦術論的に言うと型崩れを起こし、それでも有機体のようなつながりを感じる。
 「そうですよ、言いたかないけど新潟版トータルフットボールです。全員攻撃、全員守備ですよ」 
 うおぉ、オレンジの夢がここに輪廻転生しようとしてるのか。大中さんの幻視しているチーム像は画期的だ。いや、もちろん新潟にヨハン・クライフはいないわけで、本家オランダのトータルフットボールとは現象面で異なる。ただ言いたいことはよくわかる。このチームはまるで生きものだ。
 
 ナビスコカップ2連戦の主題は明らかに思える。人を入れ替えて、今のチームに馴じませること。例えば大宮戦は代表招集で矢野、契約の関係でペドロが使えなかった。磐田戦は代表から戻ってきた矢野を、後半、大島に代えてピッチへ送り出す。色んな組み合わせで、生きものとしてのチームを作ろうとした。だから出場機会をもらった田中亜土夢もチョ・ヨンチョルも「テスト」や「アピールの場」という感じではなしに、場数を踏んで相互理解を深める方にポイントがあった気がする。
 
 というのも、現在、チームはものすごくわかり合ってる者にしか出来ないことをやろうとしているのだ。そうじゃないかと思うなぁ。2戦それぞれ、課題を残した。大宮戦は4-4-2から4-3-3へ、大中さん流に言うと旧車から新車へ乗り替える戦術的キャパシティーがあるのかどうか。これはどっちも百点とれる成熟度とは言い難かった。磐田戦は「引いて守る」相手の攻略。今のところ前に道がないと新車は走れない。
 それから日程の問題だなぁ。試合間隔が詰まるとドライブできないのか。高速料金1000円でもか。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。


ユニフォームパートナー