【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第11回
2009/5/28
「石櫃」
第12節、新潟×神戸。前日(5月16日)、新型インフルエンザ(H1N1)の国内感染が神戸市内で確認され、世情騒然とするなか行われた試合だ。新潟・神戸両クラブ、及びビッグスワン関係者の心労はいかばかりだったろう。アルビレックス新潟は、国内感染が報告される以前の段階で、運営セクション等で想定だけはしておいたらしい。場内に消毒薬を設置するなど、適切な対応をとった。
まぁ、想定はしてあってもまさかこんなに早く、というのが実感ではなかったろうか。関西のクラブを中心に(今週は首都圏でも国内感染が確認された)、しばらく運営面の苦労が続きそうだ。第12節、神戸戦が大きな混乱なく開催できた背景には、関係者はもちろん、両軍サポーターの冷静な対応と、「サッカーを守る」意識が働いていたと思う。
「サッカーを守る」、現場を守るという考えに立てば神戸も新潟もない。はるばるビッグスワンまで足を運び、普段のJリーグを守ろうとした神戸サポーターは、言ってみれば戦友だ。僕はそう思いますね。
さて、試合。これが又しても雨中の一戦だった。ヴィッセル神戸は戦績的に分のいい相手だ。「戦友」は新潟へ来るの、ちょっぴり気が重かったかも知れませんよ。「戦友」は「戦友」として、勝負となったら話は別になります。新潟にとっては久々のホーム勝利を飾る絶好の機会が訪れた。
スタメンは前節同様、ヨンチョル&中野が起用される。神戸は「スタメン変更」の形でキム・ナミルが欠場、急遽、田中英雄がボランチにまわり、馬場賢治が左ウイングの位置に入る。警戒すべきプレーヤーは、最近評判のFW・茂木弘人。個人的には(テレビ出演自粛の一件とは無関係に)、以前から「SMAP・草薙くんの親戚っぽいルックス」の印象。
話は変わるけども、読者は「石櫃」って書けますか。いやー、神戸・右サイドバックの「石櫃(いしびつ)」は凄い。手元の『新明解国語辞典』によると「櫃」は「1.ふたの有る大形の箱。2.飯を入れておく器。おはち」ですよ。「櫃」って漢字の造形が、こう木製なんだろうね、木へんだから。その四角いなかに貴いものをしまってある状態だ。それが「石櫃」となると木製じゃなくて石の箱ですよ。失われたアークか。
話戻る。序盤は神戸の意欲的な攻めが目立った。セカンドボールを拾われ、新潟は一時、押し込まれる展開に。が、次第に盛り返し、前半トータルで見ると互角というところ。唯一、危なかったのは33分、プレッシャーを受けた中野の後方へのパスがマルセウにかっさらわれたシーン。「永田へ」「GKへ」という、明確な意思を欠いた苦しまぎれのさばきになっていた。中野は守りの安定感を買われての起用だから(実際、計算が立つ)、あぁいうのは気をつけよう。
後半は鈴木淳監督の打つ手がビシビシ決まった印象。53分、中野に代えてジウトン投入で、グッと得点の雰囲気が出てきた。チームが手の内に入っているなぁ。中野で局面を落ち着かせるのも、ジウトンで攻撃のスイッチを入れるのも自由自在。ジウトンINで、矢野もペドロも俄然目立ちだす。その一方、ボランチ・本間が献身的に火種を消してまわる。
72分、チョ・ヨンチョルに代わって松下IN。本降りの雨のなか、いよいよゲームの一番濃厚なところだ。
78分、右サイドでFKをもらい、キッカーは交代で入った松下。最高のボールを入れた。それを千代反田が首を思いきり振ったヘッドの先制ゴール!
87分、右から崩してマルシオが蹴り込んだのを、神戸・石櫃がクリア。それを狙ってたのが、又も松下だった。ワントラップして左サイドネットを揺らすゴール!
ホーム4試合ぶりの勝利だ。ヒーローインタビューで千代反田、松下がそれぞれにホッとした表情を浮かべていた。
附記1 最近のマイブームは「通訳のモトハルさん」だ。ベンチ前で鈴木淳監督の絵に映り込むニュアンスが秀逸。この日は雨よけにキャップをかぶっていた。
2 テレビ新潟・鈴木英門アナの「アルビレックス新潟」を発語するイントネーションが、稀に「レックスにー」部分を頂点として、下から上がって急降下する感じになる。「にーがた」部分だけを拡大すると、「ようこそ」と同じイントネーション。あれ、本場っぽい?
3 カンケイないけど、週明け、『歌助一笑会』(於・上野広小路亭)、『僕たちの好きだった革命』(東京芸術劇場中ホール)を連日見て、あ、これは新潟つながりだと気づく。桂歌丸門下、歌助師匠は十日町の人。鴻上尚史さんの芝居は、長岡出身の大高洋夫(第三舞台)が友人でチオビタを差し入れた。おぉ、そうだ、そのうち大高さんを試合に誘おう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、リニューアルスタートしたアルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
第12節、新潟×神戸。前日(5月16日)、新型インフルエンザ(H1N1)の国内感染が神戸市内で確認され、世情騒然とするなか行われた試合だ。新潟・神戸両クラブ、及びビッグスワン関係者の心労はいかばかりだったろう。アルビレックス新潟は、国内感染が報告される以前の段階で、運営セクション等で想定だけはしておいたらしい。場内に消毒薬を設置するなど、適切な対応をとった。
まぁ、想定はしてあってもまさかこんなに早く、というのが実感ではなかったろうか。関西のクラブを中心に(今週は首都圏でも国内感染が確認された)、しばらく運営面の苦労が続きそうだ。第12節、神戸戦が大きな混乱なく開催できた背景には、関係者はもちろん、両軍サポーターの冷静な対応と、「サッカーを守る」意識が働いていたと思う。
「サッカーを守る」、現場を守るという考えに立てば神戸も新潟もない。はるばるビッグスワンまで足を運び、普段のJリーグを守ろうとした神戸サポーターは、言ってみれば戦友だ。僕はそう思いますね。
さて、試合。これが又しても雨中の一戦だった。ヴィッセル神戸は戦績的に分のいい相手だ。「戦友」は新潟へ来るの、ちょっぴり気が重かったかも知れませんよ。「戦友」は「戦友」として、勝負となったら話は別になります。新潟にとっては久々のホーム勝利を飾る絶好の機会が訪れた。
スタメンは前節同様、ヨンチョル&中野が起用される。神戸は「スタメン変更」の形でキム・ナミルが欠場、急遽、田中英雄がボランチにまわり、馬場賢治が左ウイングの位置に入る。警戒すべきプレーヤーは、最近評判のFW・茂木弘人。個人的には(テレビ出演自粛の一件とは無関係に)、以前から「SMAP・草薙くんの親戚っぽいルックス」の印象。
話は変わるけども、読者は「石櫃」って書けますか。いやー、神戸・右サイドバックの「石櫃(いしびつ)」は凄い。手元の『新明解国語辞典』によると「櫃」は「1.ふたの有る大形の箱。2.飯を入れておく器。おはち」ですよ。「櫃」って漢字の造形が、こう木製なんだろうね、木へんだから。その四角いなかに貴いものをしまってある状態だ。それが「石櫃」となると木製じゃなくて石の箱ですよ。失われたアークか。
話戻る。序盤は神戸の意欲的な攻めが目立った。セカンドボールを拾われ、新潟は一時、押し込まれる展開に。が、次第に盛り返し、前半トータルで見ると互角というところ。唯一、危なかったのは33分、プレッシャーを受けた中野の後方へのパスがマルセウにかっさらわれたシーン。「永田へ」「GKへ」という、明確な意思を欠いた苦しまぎれのさばきになっていた。中野は守りの安定感を買われての起用だから(実際、計算が立つ)、あぁいうのは気をつけよう。
後半は鈴木淳監督の打つ手がビシビシ決まった印象。53分、中野に代えてジウトン投入で、グッと得点の雰囲気が出てきた。チームが手の内に入っているなぁ。中野で局面を落ち着かせるのも、ジウトンで攻撃のスイッチを入れるのも自由自在。ジウトンINで、矢野もペドロも俄然目立ちだす。その一方、ボランチ・本間が献身的に火種を消してまわる。
72分、チョ・ヨンチョルに代わって松下IN。本降りの雨のなか、いよいよゲームの一番濃厚なところだ。
78分、右サイドでFKをもらい、キッカーは交代で入った松下。最高のボールを入れた。それを千代反田が首を思いきり振ったヘッドの先制ゴール!
87分、右から崩してマルシオが蹴り込んだのを、神戸・石櫃がクリア。それを狙ってたのが、又も松下だった。ワントラップして左サイドネットを揺らすゴール!
ホーム4試合ぶりの勝利だ。ヒーローインタビューで千代反田、松下がそれぞれにホッとした表情を浮かべていた。
附記1 最近のマイブームは「通訳のモトハルさん」だ。ベンチ前で鈴木淳監督の絵に映り込むニュアンスが秀逸。この日は雨よけにキャップをかぶっていた。
2 テレビ新潟・鈴木英門アナの「アルビレックス新潟」を発語するイントネーションが、稀に「レックスにー」部分を頂点として、下から上がって急降下する感じになる。「にーがた」部分だけを拡大すると、「ようこそ」と同じイントネーション。あれ、本場っぽい?
3 カンケイないけど、週明け、『歌助一笑会』(於・上野広小路亭)、『僕たちの好きだった革命』(東京芸術劇場中ホール)を連日見て、あ、これは新潟つながりだと気づく。桂歌丸門下、歌助師匠は十日町の人。鴻上尚史さんの芝居は、長岡出身の大高洋夫(第三舞台)が友人でチオビタを差し入れた。おぉ、そうだ、そのうち大高さんを試合に誘おう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、リニューアルスタートしたアルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!