【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第18回
2009/7/16
「日立台劇場」
J1第16節、柏×新潟。リーグ戦再開後、(ナビスコなんてなかったかのように)ACL組を連破、勢いに乗る新潟が敵地・日立台へ乗り込む。迎え撃つ柏は今季、モデルチェンジに苦しんでいる。カウンターからポゼッションサッカーへと脱皮をはかるが、勝利に結びつかない。元日、天皇杯を戦ったファイナリストがまさかここまで大崩れするとは。ただ前節、フランサが戻って磐田戦に勝利している。又、大宮からレンタルで加わった小林慶行がこの日、日立台デビュー。
残念ながら所用でひかりTV観戦だった。首都圏開催を初めて生観戦できなかったという意味でも残念だけど、日立台は我が家から最も近く、最もお気に入りのサッカー場だ。至近距離なのでサッカーの見え方が違う。選手の息づかいまでが感じられる。又、ナイター照明の光量が大きくて、選手がステージみたいに映える。
間違いなく日本一、劇場性の高い会場だ。それは埼スタやビッグスワンのような大規模な「W杯スタジアム」にない魅力だ。その劇場性は、サッカーの光と影をくっきり映し出してしまう。05年、僕はここで東京Vと柏の降格、甲府の昇格を見た。
おそらく空間が濃密すぎるのだと思う。うまく行かないときの柏は、日立台で驚くほど勝てなくなる。05年もそうだったし、今年も似ている。ハマったときの爆発的歓喜の一方で、悪循環に陥ったとき止まらなくなる。至近距離でファンと選手が感情をぶつけ合うダイレクトな魅力は、実は両刃の剣でもある。
聞けば新潟は日立台で負けてないらしい。それがどんなに幸福なことか、バスを連ねて来た新潟サポにはなかなか理解できないと思う。又、この日の得点経過が凄かった。試合開始早々。前半終了間際。後半開始早々。試合終了間際。こう「四隅」というのか、サッカーで得失点の生まれやすい時間帯に新潟が4点決めている。で、そのうち3点はラッキーが関与している。
とはいえ新潟は見事だった。柏のように役割の修正を重ね、混乱の生じているチームと比較すると一目瞭然だ。適材適所。選手のやることがハッキリしている。そしてわかり合っている。ゴール裏を埋めた新潟サポは、この日、変幻自在のチームに惚れ惚れしたと思う。特に3点め、ペドロ・ジュニオールの驚異的なドリブル突破&ゴールはどうだ。2人股抜きして、中央に持ち出してシュート! あれを日立台の至近距離で見たサポーターは後々までの語り草にしていい。
やること為すことハマった印象の新潟だが、実はGK・北野貴之の働きも大きかった。菅沼実の飛び出し、大津祐樹の反転してのシュート等、決められてもおかしくないシーンがあった。この日の北野は百点満点。後半、柏ゴール裏の喧噪を背負っても、心憎いばかりに落ち着いていた。
ペドロのスーパーゴールは別格とする。北野の働きも別枠でいいだろう。では、「最高にハマったチーム」の正味のところはどうなのだろう。いや、破竹の3連勝に文句などない。誰が見ても好調だ。誰が見ても好調は間違いないのだが、その好調の正味の部分を3割増くらいに見せてしまうのが、「日立台劇場」の怖さでもある。
スカパーのカメラが試合後、アップする柏の選手をとらえた。野次を気にしてか、ピッチの端まで走らず、手前で折り返していた。至近距離が魅力のサッカー場で、選手が無意識にスタンドと距離をとっている。ここは不調のチームをも又、3割増くらいに見せてしまう。
附記1、所用で日光へ行ってた僕は、背筋の肉離れをやってしまった。すんげえ痛ぇ。最初、何だかわからなくて「自分はとにかく重篤な病気で死ぬのだ」と思う。ひと晩、様子を見たけど心細かった。
2、笑うのは翌朝、激痛がおさまらず、「ちょっとヤバイ」と申し出たら、鎮痛剤持ってる奴がすぐにいたこと。所用は「日光アイスバックス」という、アイスホッケーチームの関係だったんだけど、さすが氷上の格闘技、そんなの持ってんだなぁ。飲みましたよ、ボルダレン2錠。
3、で、カミさんに運転してもらって、うんうん唸りながら帰京した。ボルダレン、あんまり効かない。どうにかマンションの入り口に戻って、リモコンでシャッターを開けてたら、折悪く13階のAさん御一家(熱心な柏サポ)が外出するところとカチ合う。激痛をこらえながらあいさつしたら「おめでとうございます」って言われちゃいました。もちろん、御家族で日立台に行ってらした由。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第16節、柏×新潟。リーグ戦再開後、(ナビスコなんてなかったかのように)ACL組を連破、勢いに乗る新潟が敵地・日立台へ乗り込む。迎え撃つ柏は今季、モデルチェンジに苦しんでいる。カウンターからポゼッションサッカーへと脱皮をはかるが、勝利に結びつかない。元日、天皇杯を戦ったファイナリストがまさかここまで大崩れするとは。ただ前節、フランサが戻って磐田戦に勝利している。又、大宮からレンタルで加わった小林慶行がこの日、日立台デビュー。
残念ながら所用でひかりTV観戦だった。首都圏開催を初めて生観戦できなかったという意味でも残念だけど、日立台は我が家から最も近く、最もお気に入りのサッカー場だ。至近距離なのでサッカーの見え方が違う。選手の息づかいまでが感じられる。又、ナイター照明の光量が大きくて、選手がステージみたいに映える。
間違いなく日本一、劇場性の高い会場だ。それは埼スタやビッグスワンのような大規模な「W杯スタジアム」にない魅力だ。その劇場性は、サッカーの光と影をくっきり映し出してしまう。05年、僕はここで東京Vと柏の降格、甲府の昇格を見た。
おそらく空間が濃密すぎるのだと思う。うまく行かないときの柏は、日立台で驚くほど勝てなくなる。05年もそうだったし、今年も似ている。ハマったときの爆発的歓喜の一方で、悪循環に陥ったとき止まらなくなる。至近距離でファンと選手が感情をぶつけ合うダイレクトな魅力は、実は両刃の剣でもある。
聞けば新潟は日立台で負けてないらしい。それがどんなに幸福なことか、バスを連ねて来た新潟サポにはなかなか理解できないと思う。又、この日の得点経過が凄かった。試合開始早々。前半終了間際。後半開始早々。試合終了間際。こう「四隅」というのか、サッカーで得失点の生まれやすい時間帯に新潟が4点決めている。で、そのうち3点はラッキーが関与している。
とはいえ新潟は見事だった。柏のように役割の修正を重ね、混乱の生じているチームと比較すると一目瞭然だ。適材適所。選手のやることがハッキリしている。そしてわかり合っている。ゴール裏を埋めた新潟サポは、この日、変幻自在のチームに惚れ惚れしたと思う。特に3点め、ペドロ・ジュニオールの驚異的なドリブル突破&ゴールはどうだ。2人股抜きして、中央に持ち出してシュート! あれを日立台の至近距離で見たサポーターは後々までの語り草にしていい。
やること為すことハマった印象の新潟だが、実はGK・北野貴之の働きも大きかった。菅沼実の飛び出し、大津祐樹の反転してのシュート等、決められてもおかしくないシーンがあった。この日の北野は百点満点。後半、柏ゴール裏の喧噪を背負っても、心憎いばかりに落ち着いていた。
ペドロのスーパーゴールは別格とする。北野の働きも別枠でいいだろう。では、「最高にハマったチーム」の正味のところはどうなのだろう。いや、破竹の3連勝に文句などない。誰が見ても好調だ。誰が見ても好調は間違いないのだが、その好調の正味の部分を3割増くらいに見せてしまうのが、「日立台劇場」の怖さでもある。
スカパーのカメラが試合後、アップする柏の選手をとらえた。野次を気にしてか、ピッチの端まで走らず、手前で折り返していた。至近距離が魅力のサッカー場で、選手が無意識にスタンドと距離をとっている。ここは不調のチームをも又、3割増くらいに見せてしまう。
附記1、所用で日光へ行ってた僕は、背筋の肉離れをやってしまった。すんげえ痛ぇ。最初、何だかわからなくて「自分はとにかく重篤な病気で死ぬのだ」と思う。ひと晩、様子を見たけど心細かった。
2、笑うのは翌朝、激痛がおさまらず、「ちょっとヤバイ」と申し出たら、鎮痛剤持ってる奴がすぐにいたこと。所用は「日光アイスバックス」という、アイスホッケーチームの関係だったんだけど、さすが氷上の格闘技、そんなの持ってんだなぁ。飲みましたよ、ボルダレン2錠。
3、で、カミさんに運転してもらって、うんうん唸りながら帰京した。ボルダレン、あんまり効かない。どうにかマンションの入り口に戻って、リモコンでシャッターを開けてたら、折悪く13階のAさん御一家(熱心な柏サポ)が外出するところとカチ合う。激痛をこらえながらあいさつしたら「おめでとうございます」って言われちゃいました。もちろん、御家族で日立台に行ってらした由。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
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