【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第41回
2009/12/24
「ラストゲーム」
天皇杯準々決勝、清水×新潟。
激闘120分。鈴木淳監督のアルビレックス新潟が最後の試合を終えた。後半9分、エヴェルトン・サントスが2枚めのイエローで退場してからは、ずっと10人の戦いだった。やり抜いたなぁと思う。そりゃ、延長戦で食らった児玉のゴールは悔しいけれど、数的不利の新潟は一歩も引くところがなかった。
むしろ、肝を冷やしたのは清水だ。点をとってもすぐ追いつかれる。後半43分、土壇場で2対2に追いついたときはアウスタが凍りついた。思えば、その後、ロスタイムに矢野がロングボールを受けて抜け出したシーンが新潟最大の勝機だった。キーパー西部と1対1が作れた場面だ。あれは勝ち逃げのチャンスだったなぁ。
あと、あれが決まってたらカッコ良かったと思うのは、延長戦、ヨンチョルのパスから本間がヒールでゴール右隅を狙ったシーン。あんなので勝っちゃってたらイブラヒモビッチみたいだったけどなぁ。新潟はベスト8で敗退、今季の公式戦全日程を終了した。戦い抜いたチームに、そして鈴木淳監督に、アウェー新潟応援席から惜しみない拍手がおくられる。
毎週、御愛読いただいた当コラムもこれが今シーズンの最終回だ。こんなに毎週ハラハラ、ドキドキする楽しい連載は初めて体験した。ひとシーズン、ひとつのチームを追っかけて、曲がりなりにも全公式戦を見るという経験も初めてだ。4月頃だったか、スタジアムで評論家の後藤健生さんとハチ合わせしたとき、この連載の話をしたら、「あぁ、それは僕がいつかやりたいと思ってる、最後の夢だなぁ」という言い方をされていた。74年W杯西ドイツ大会以降、全ての大会を取材し、生涯観戦数3千を突破する後藤さんにして未体験の行為かと感じ入る。逆にプロのライター、ジャーナリストほど経験できないことかも知れないと思う。
しかも、僕が追っかけたのは幸運にも「09年アルビレックス新潟」だった。これは惚れ込みました。そして勉強になった。後遺症としては(僕はW杯をきっかけにサッカーを書くようになったんですけど)、日本代表に関心が向きにくくなった。「09年アルビレックス新潟」の挑戦を見られたのは、それほど大きな経験です。大袈裟に思われるかも知れないけど、物書きとしての財産ですね。
僕が見たものは一時、首位に立ったとか、「4-3-3」とか「4-4-2」といったキャッチーなものじゃないんですよ。今シーズンの新潟はそういう額面で語られるだろうけど、もっとすごいことをやり抜いた。それは自らのスタイルを貫くことです。シーズン途中、システムの変更はあったけれど、スタイルは一貫していた。僕は地元が何でもっと大騒ぎしないのかなぁと不思議でした。だって、ホームチームが「自分たちのサッカーをやり抜けば、どんな強豪と当たっても勝負できる」域に来たんですよ。少なくともクロスゲームは絶対作れる。これはカンタンなことじゃないと思います。
ですから最終回に当たって申し上げたいのは、僕がどんなに幸運で、ひとシーズン楽しかったかということと、もうひとつ、鈴木淳監督の4年間を「行きつけのサッカー」として御覧になって来られた読者がどれだけ幸運であったかという話です。ホントにそう思いますよ。残念ながら時計は逆に戻せないから、僕にはそれが叶わない。
これはクラブの歴史になることですね。読者はスタジアムで歓声を上げ、拍手をし(ときには敵チームに呪いの言葉を浴びせながら)、その歴史というものを歩んでいる。
来シーズンはどんな戦いが待っているでしょう。だけど、しばらくは今シーズンの激闘から頭が切り替えられそうにないなぁ。とにかく鈴木淳監督、素晴らしい選手たち、クラブ関係者、そして最高のサポーターである読者の皆さんにお礼が言いたいです。
感謝を込めて、メリークリスマス! おつかれ様でした。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
天皇杯準々決勝、清水×新潟。
激闘120分。鈴木淳監督のアルビレックス新潟が最後の試合を終えた。後半9分、エヴェルトン・サントスが2枚めのイエローで退場してからは、ずっと10人の戦いだった。やり抜いたなぁと思う。そりゃ、延長戦で食らった児玉のゴールは悔しいけれど、数的不利の新潟は一歩も引くところがなかった。
むしろ、肝を冷やしたのは清水だ。点をとってもすぐ追いつかれる。後半43分、土壇場で2対2に追いついたときはアウスタが凍りついた。思えば、その後、ロスタイムに矢野がロングボールを受けて抜け出したシーンが新潟最大の勝機だった。キーパー西部と1対1が作れた場面だ。あれは勝ち逃げのチャンスだったなぁ。
あと、あれが決まってたらカッコ良かったと思うのは、延長戦、ヨンチョルのパスから本間がヒールでゴール右隅を狙ったシーン。あんなので勝っちゃってたらイブラヒモビッチみたいだったけどなぁ。新潟はベスト8で敗退、今季の公式戦全日程を終了した。戦い抜いたチームに、そして鈴木淳監督に、アウェー新潟応援席から惜しみない拍手がおくられる。
毎週、御愛読いただいた当コラムもこれが今シーズンの最終回だ。こんなに毎週ハラハラ、ドキドキする楽しい連載は初めて体験した。ひとシーズン、ひとつのチームを追っかけて、曲がりなりにも全公式戦を見るという経験も初めてだ。4月頃だったか、スタジアムで評論家の後藤健生さんとハチ合わせしたとき、この連載の話をしたら、「あぁ、それは僕がいつかやりたいと思ってる、最後の夢だなぁ」という言い方をされていた。74年W杯西ドイツ大会以降、全ての大会を取材し、生涯観戦数3千を突破する後藤さんにして未体験の行為かと感じ入る。逆にプロのライター、ジャーナリストほど経験できないことかも知れないと思う。
しかも、僕が追っかけたのは幸運にも「09年アルビレックス新潟」だった。これは惚れ込みました。そして勉強になった。後遺症としては(僕はW杯をきっかけにサッカーを書くようになったんですけど)、日本代表に関心が向きにくくなった。「09年アルビレックス新潟」の挑戦を見られたのは、それほど大きな経験です。大袈裟に思われるかも知れないけど、物書きとしての財産ですね。
僕が見たものは一時、首位に立ったとか、「4-3-3」とか「4-4-2」といったキャッチーなものじゃないんですよ。今シーズンの新潟はそういう額面で語られるだろうけど、もっとすごいことをやり抜いた。それは自らのスタイルを貫くことです。シーズン途中、システムの変更はあったけれど、スタイルは一貫していた。僕は地元が何でもっと大騒ぎしないのかなぁと不思議でした。だって、ホームチームが「自分たちのサッカーをやり抜けば、どんな強豪と当たっても勝負できる」域に来たんですよ。少なくともクロスゲームは絶対作れる。これはカンタンなことじゃないと思います。
ですから最終回に当たって申し上げたいのは、僕がどんなに幸運で、ひとシーズン楽しかったかということと、もうひとつ、鈴木淳監督の4年間を「行きつけのサッカー」として御覧になって来られた読者がどれだけ幸運であったかという話です。ホントにそう思いますよ。残念ながら時計は逆に戻せないから、僕にはそれが叶わない。
これはクラブの歴史になることですね。読者はスタジアムで歓声を上げ、拍手をし(ときには敵チームに呪いの言葉を浴びせながら)、その歴史というものを歩んでいる。
来シーズンはどんな戦いが待っているでしょう。だけど、しばらくは今シーズンの激闘から頭が切り替えられそうにないなぁ。とにかく鈴木淳監督、素晴らしい選手たち、クラブ関係者、そして最高のサポーターである読者の皆さんにお礼が言いたいです。
感謝を込めて、メリークリスマス! おつかれ様でした。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!