【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第42回
2010/3/18
「ここから始まる」
J1開幕節、川崎×新潟。高畠勉、黒崎久志、同い齢の新監督対決から物語が始まる。共に内部昇格、共に前任者がチームを躍進させての引き継ぎと状況がよく似ている。又、開幕戦は偶然、川崎がジュニーニョ&中村憲剛、新潟がマルシオ・リシャルデスと中心選手をケガで欠いての一戦となった。
もっともスタメンを見渡すと選手層の差は意識せざるを得ない。川崎は稲本潤一、小宮山尊信と積極的な補強に打って出た。新潟は去年より若いチームになった。といって若いチームがネガティブな要素だけを意味するのかといえば、そんなことはわからない。試合に出続けることで選手は飛躍する。
個人的には今年は順位より、選手の成長をていねいに見たいと思う。そりゃ降格されたら困るけど、今年のチームの魅力は星勘定じゃない。歴戦のなか、選手がどう変わっていくかだ。黒崎監督のインタビューを読んでも発想はプラス志向だ。雨のなか、2万2千強のサポーターが等々力に結集する。皆、この日を待っていた。
試合はいきなり劇的だった。開始早々、チョン・テセのポストプレーからタテに展開、DFの裏へ抜けた黒津がシュート。新潟の新守護神・黒河が弾いたこぼれをレナチーニョに拾われた。レナチーニョは落ち着いて持ち替え、29秒の秒殺ゴール(公式記録は1分)。
新潟はあわてた。今年のチームを見ていくポイントとして、「選手の成長」ともうひとつ「スタイルの継承はあるのか?」があるだろうと思う。例えば堅守速攻を貫き通すしぶとさがあるのか。まぁ、ひと試合見ただけでは何とも言えないことだけど、序盤、新潟は堅守のベースを見失いかけ、バタバタにあわてていた。川崎のプレッシャーがとてつもない。出足がよく、中盤の位置でボールをカットされる。又、チョン・テセが効いている。この男を逆につぶしにかからないとやりたい放題やられてしまう。
前半22分、2点めの失点。河原のパスを簡単に稲本がカット。持ち上がってスペースの黒津へ出す。黒津は左足を振り抜きゴール。去年、新潟が得意にしていた「刈りとってショートカウンター」のイメージ。期待の河原はこの日、冴えなかった。たぶん眠れないくらい悔しい思いをしただろう。誰よりも自分がわかることだ。僕らはこの日の河原を覚えていればいい。J2とは違う。彼の物語もここから始まる。
前半は完全に制圧された。何点入っててもおかしくなかったが、どうにか2失点で終わった。サポーターは鈴木淳監督の1年め、6対0で敗れた同カードの開幕戦(06年3月5日)が頭をよぎったかも知れない。
が、わからないもんだ。後半は新潟が牛耳った。川崎はプレスに来なくなった。前半飛ばし過ぎたのか。中盤が自在に作れる。前半は敵のアンカー、稲本がやけに目立った印象だけど、後半になって本間が目立った。
64分、チョン・テセから千葉がボールを奪い、内田がすばやくタテ展開。押し上げてきていた川崎DFの裏をとってチョ・ヨンチョルが抜け出す。そのまま持ち込んでファインゴールを決める。
これで完全にイケル感じになった。試合終盤は押し込みっぱなし。けれど敵GK・川島の頑張りもあってゴールが奪えない。2対1のままタイムアップ。「黒崎アルビ」の初陣は黒星だった。若いチームの良さと悪さと両方が出た試合だった。が、今日のところは後半、盛り返したのを手柄としよう。
附記1 厳しい見方をすれば、あぁなったら同点に追いつかなきゃ駄目な試合です。更に要求を高くすれば、あの展開なら勝たなきゃいけない。が、僕はやられっぱなしで終わらなかった点をプラス評価したい。選手らに自信を持ってもらいたい。
2、ファグネル、顔がいいですね。こう集団就職で上京した青年みたいでしょ。たぶんツメ襟が似合うと思う。がんばれ。
3、不思議なもんで三門とか酒井高徳とか、去年のチームで見たときより圧倒的に頼もしく見えますね。ヨンチョルも本物になりそうだ。若いチームの魅力はこれです。
4、僕はこの日から図書館で借りてきた『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)を読み始めました。幕末の長岡藩士、河井継之助の物語です。NHK大河ドラマ『龍馬伝』の裏側、譜代藩の側から見た幕末が面白い。しかし、ホーム開幕を目前にして雪ですねー。土曜日、大丈夫かなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1開幕節、川崎×新潟。高畠勉、黒崎久志、同い齢の新監督対決から物語が始まる。共に内部昇格、共に前任者がチームを躍進させての引き継ぎと状況がよく似ている。又、開幕戦は偶然、川崎がジュニーニョ&中村憲剛、新潟がマルシオ・リシャルデスと中心選手をケガで欠いての一戦となった。
もっともスタメンを見渡すと選手層の差は意識せざるを得ない。川崎は稲本潤一、小宮山尊信と積極的な補強に打って出た。新潟は去年より若いチームになった。といって若いチームがネガティブな要素だけを意味するのかといえば、そんなことはわからない。試合に出続けることで選手は飛躍する。
個人的には今年は順位より、選手の成長をていねいに見たいと思う。そりゃ降格されたら困るけど、今年のチームの魅力は星勘定じゃない。歴戦のなか、選手がどう変わっていくかだ。黒崎監督のインタビューを読んでも発想はプラス志向だ。雨のなか、2万2千強のサポーターが等々力に結集する。皆、この日を待っていた。
試合はいきなり劇的だった。開始早々、チョン・テセのポストプレーからタテに展開、DFの裏へ抜けた黒津がシュート。新潟の新守護神・黒河が弾いたこぼれをレナチーニョに拾われた。レナチーニョは落ち着いて持ち替え、29秒の秒殺ゴール(公式記録は1分)。
新潟はあわてた。今年のチームを見ていくポイントとして、「選手の成長」ともうひとつ「スタイルの継承はあるのか?」があるだろうと思う。例えば堅守速攻を貫き通すしぶとさがあるのか。まぁ、ひと試合見ただけでは何とも言えないことだけど、序盤、新潟は堅守のベースを見失いかけ、バタバタにあわてていた。川崎のプレッシャーがとてつもない。出足がよく、中盤の位置でボールをカットされる。又、チョン・テセが効いている。この男を逆につぶしにかからないとやりたい放題やられてしまう。
前半22分、2点めの失点。河原のパスを簡単に稲本がカット。持ち上がってスペースの黒津へ出す。黒津は左足を振り抜きゴール。去年、新潟が得意にしていた「刈りとってショートカウンター」のイメージ。期待の河原はこの日、冴えなかった。たぶん眠れないくらい悔しい思いをしただろう。誰よりも自分がわかることだ。僕らはこの日の河原を覚えていればいい。J2とは違う。彼の物語もここから始まる。
前半は完全に制圧された。何点入っててもおかしくなかったが、どうにか2失点で終わった。サポーターは鈴木淳監督の1年め、6対0で敗れた同カードの開幕戦(06年3月5日)が頭をよぎったかも知れない。
が、わからないもんだ。後半は新潟が牛耳った。川崎はプレスに来なくなった。前半飛ばし過ぎたのか。中盤が自在に作れる。前半は敵のアンカー、稲本がやけに目立った印象だけど、後半になって本間が目立った。
64分、チョン・テセから千葉がボールを奪い、内田がすばやくタテ展開。押し上げてきていた川崎DFの裏をとってチョ・ヨンチョルが抜け出す。そのまま持ち込んでファインゴールを決める。
これで完全にイケル感じになった。試合終盤は押し込みっぱなし。けれど敵GK・川島の頑張りもあってゴールが奪えない。2対1のままタイムアップ。「黒崎アルビ」の初陣は黒星だった。若いチームの良さと悪さと両方が出た試合だった。が、今日のところは後半、盛り返したのを手柄としよう。
附記1 厳しい見方をすれば、あぁなったら同点に追いつかなきゃ駄目な試合です。更に要求を高くすれば、あの展開なら勝たなきゃいけない。が、僕はやられっぱなしで終わらなかった点をプラス評価したい。選手らに自信を持ってもらいたい。
2、ファグネル、顔がいいですね。こう集団就職で上京した青年みたいでしょ。たぶんツメ襟が似合うと思う。がんばれ。
3、不思議なもんで三門とか酒井高徳とか、去年のチームで見たときより圧倒的に頼もしく見えますね。ヨンチョルも本物になりそうだ。若いチームの魅力はこれです。
4、僕はこの日から図書館で借りてきた『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)を読み始めました。幕末の長岡藩士、河井継之助の物語です。NHK大河ドラマ『龍馬伝』の裏側、譜代藩の側から見た幕末が面白い。しかし、ホーム開幕を目前にして雪ですねー。土曜日、大丈夫かなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
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