【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第43回
2010/3/25
「疾風のチーム」
J1第2節、新潟×磐田。
勝負のアヤとしては、もちろん後半30分、GK・黒河貴矢の負傷退場である。あれから流れが変わった。新潟は突如、初出場の機会がまわってきた第2GK、東口順昭を落ち着かせたい。磐田は局面がザワついてる間に一気に攻め込みたい。
同33分、磐田のCKから那須が飛び込んで同点ゴール。たぶんあの瞬間、ピッチ上も含めビッグスワンにいた全員の不安(磐田側にとっては期待?)が的中した。東口本人には絶対に忘れられないデビュー戦だ。もっともその後はしっかり気持ちを切り替え、フィードに非凡なものを見せていた。
勝敗だけを考えるなら、ホーム開幕戦は「アンラッキーな同点劇」でしかない。黒河と矢野の交錯は不可抗力だ。ツイてない。去年のシーズン半ばからアルビはホームで勝てない。黒崎新監督の初勝利はいつになるだろう。下手をしたらこのままズルズル長いトンネルに入ってしまうんじゃないか。どうすか、うっかりそんな気になってないですか?
僕はですね、カンタンに言うと「ちっきしょー、やっぱスワンへ行きゃよかった」とめっちゃ後悔しました。そもそも特に前半は当たりの激しい(したがって僕好みの)好ゲームです。又、磐田の前線がイ・グノと前田遼一っていう、ヒヤヒヤする2人っていうのも面白い。しかし、それよりも何よりも新潟が素晴らしかった。「10年シーズン・アルビレックス新潟」の可能性の芽が全部あった。あれはねぇ、生で見た人の勝ちです。冗談じゃない、「主力大量離脱による戦力ダウン」的な開幕前の下馬評は何なんだ。
このチーム、面白い。伸び伸びやれている。たぶんそれは黒崎監督がもたらした積極的な気風なんだと思う。僕は「アンラッキーな同点劇」はちょっと横に置いて、それまでピッチに展開されたサッカーの中身を思い出してもらいたい。
「10年アルビレックス」は、言葉にするなら疾風のチームだ。スポーツ紙の大見出しをとるような欧州帰りのビッグネームはいない代わりに、バツグンに生きのいいのが揃ってる。チョ・ヨンチョルがパク・チソンばりに再三、磐田陣内をおびやかす。かと思うと河原が、三門が自在に顔を出す。千葉が随所で好プレーを見せる。永田が齢に似合わぬ大黒柱の風格でイ・グノを抑え込む。
たぶん観客は皆、試合中、何らかの爽快感を感じていた筈だ。僕は驚いた。マルシオ抜きでこんなに魅力あるサッカーが出来るのか。
先週書いたことを受けると、スタイルはハッキリ継承されている。
攻守の切り替え。
新潟の守備意識、戻りの早さは徹底していた。そこがベースというか、物事の前提になっている。
が、魅力があるのは攻めに転じたときだ。いやー、行くねぇ。気持ちいいねぇ。僕は賭けてもいいが、読者もヨンチョルの持ち上がりや、河原が思いっきし打ったシュート、三門の凄まじいミドルを見て、ビリビリ感じるものがあった筈だ。
疾風のチーム。
ひとりひとりはまだ無名に近い若者だが、そのチャレンジが風を起こす。そして、もちろん新潟の「疾風」性のシンボル、矢野貴章の存在感も大きい。又、「風を作る役」の本間勲、「風を受ける役」の大島秀夫も頼り甲斐十分。これは成長していったら、大仕事しでかすチームになる。この上は早く初勝利を挙げて、取り組んでる方向性に自信を持ってもらいたい。
まだJにかかわるほとんどの人が「10年アルビレックス」の可能性に気づいていない。それは2万8千の観客だけが直接、体感できたものだ。僕のようなTV観戦者はどうなるかというと「ちっきしょー、やっぱ開幕からスワンへ行きゃよかった」と後々まで悔いることになるであろう(とハッキリ水晶玉に映っております)。
附記1、ホーム開幕が3万人を切ったことについては、たぶんクラブ側もサポーターも危機感を持っていると思います。
ま、雨が降った。マルシオ欠場がわかってた。そういう色々が重なって2万8千なんでしょう。僕は新潟を強くするのはカンタンで、つまり、観客が多ければ多いほど将来にわたってチームは強化されていく仕組みだと思います。観客が多いことはチケット収入になるし、スポンサーへの説得材料にもなる。サッカーチームの強い弱いはお金だけじゃないけど、そりゃ豊富な資力があった方が選手も揃えられるし、環境も整えられる。第一、超満員って方が選手は確実に燃えます。
2、だからビッグスワンに友達を誘いましょう。
3、ただ2万8千にはちゃんとゴホウビがあった、黒崎さんの「10年アルビレックス」の第一章が見られた、というのが今回、本文の主旨です。追いつかれてドローって悔しい試合で何言ってんだと思われるかも知れないけど、僕は(後悔まじりに)本気でそう思います。さっきと矛盾するようだけど、このチームは「サッカーはお金だけじゃないし、名前でもない」を証明してくれるような存在だ。
4、田中亜土夢が出た『やべっちFC』見ました?あと『ケンミンショー』で新潟が取り上げられてたですね。星野知子さんのコメント通りだとすると、僕の名前は新潟では「いのきどえちろう」と発音されてしまうらしい。そんなこと言う人にはまだ会ってない。
5、、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)上巻読了。河井継之助が徹底的に理詰めなのに、その一方で芸者遊びが好きっていうのがいいなぁ。長岡に行きたくなりました。それからアレですね、「北国」であり「東国」である長岡藩から見た長崎の遠さっていうのはなるほどと思った。継之助は世界情勢や西欧文明から取り残される焦りのなか、「おれたちは横浜だ」と開港間もない横浜からそれらを吸収しようとする。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第2節、新潟×磐田。
勝負のアヤとしては、もちろん後半30分、GK・黒河貴矢の負傷退場である。あれから流れが変わった。新潟は突如、初出場の機会がまわってきた第2GK、東口順昭を落ち着かせたい。磐田は局面がザワついてる間に一気に攻め込みたい。
同33分、磐田のCKから那須が飛び込んで同点ゴール。たぶんあの瞬間、ピッチ上も含めビッグスワンにいた全員の不安(磐田側にとっては期待?)が的中した。東口本人には絶対に忘れられないデビュー戦だ。もっともその後はしっかり気持ちを切り替え、フィードに非凡なものを見せていた。
勝敗だけを考えるなら、ホーム開幕戦は「アンラッキーな同点劇」でしかない。黒河と矢野の交錯は不可抗力だ。ツイてない。去年のシーズン半ばからアルビはホームで勝てない。黒崎新監督の初勝利はいつになるだろう。下手をしたらこのままズルズル長いトンネルに入ってしまうんじゃないか。どうすか、うっかりそんな気になってないですか?
僕はですね、カンタンに言うと「ちっきしょー、やっぱスワンへ行きゃよかった」とめっちゃ後悔しました。そもそも特に前半は当たりの激しい(したがって僕好みの)好ゲームです。又、磐田の前線がイ・グノと前田遼一っていう、ヒヤヒヤする2人っていうのも面白い。しかし、それよりも何よりも新潟が素晴らしかった。「10年シーズン・アルビレックス新潟」の可能性の芽が全部あった。あれはねぇ、生で見た人の勝ちです。冗談じゃない、「主力大量離脱による戦力ダウン」的な開幕前の下馬評は何なんだ。
このチーム、面白い。伸び伸びやれている。たぶんそれは黒崎監督がもたらした積極的な気風なんだと思う。僕は「アンラッキーな同点劇」はちょっと横に置いて、それまでピッチに展開されたサッカーの中身を思い出してもらいたい。
「10年アルビレックス」は、言葉にするなら疾風のチームだ。スポーツ紙の大見出しをとるような欧州帰りのビッグネームはいない代わりに、バツグンに生きのいいのが揃ってる。チョ・ヨンチョルがパク・チソンばりに再三、磐田陣内をおびやかす。かと思うと河原が、三門が自在に顔を出す。千葉が随所で好プレーを見せる。永田が齢に似合わぬ大黒柱の風格でイ・グノを抑え込む。
たぶん観客は皆、試合中、何らかの爽快感を感じていた筈だ。僕は驚いた。マルシオ抜きでこんなに魅力あるサッカーが出来るのか。
先週書いたことを受けると、スタイルはハッキリ継承されている。
攻守の切り替え。
新潟の守備意識、戻りの早さは徹底していた。そこがベースというか、物事の前提になっている。
が、魅力があるのは攻めに転じたときだ。いやー、行くねぇ。気持ちいいねぇ。僕は賭けてもいいが、読者もヨンチョルの持ち上がりや、河原が思いっきし打ったシュート、三門の凄まじいミドルを見て、ビリビリ感じるものがあった筈だ。
疾風のチーム。
ひとりひとりはまだ無名に近い若者だが、そのチャレンジが風を起こす。そして、もちろん新潟の「疾風」性のシンボル、矢野貴章の存在感も大きい。又、「風を作る役」の本間勲、「風を受ける役」の大島秀夫も頼り甲斐十分。これは成長していったら、大仕事しでかすチームになる。この上は早く初勝利を挙げて、取り組んでる方向性に自信を持ってもらいたい。
まだJにかかわるほとんどの人が「10年アルビレックス」の可能性に気づいていない。それは2万8千の観客だけが直接、体感できたものだ。僕のようなTV観戦者はどうなるかというと「ちっきしょー、やっぱ開幕からスワンへ行きゃよかった」と後々まで悔いることになるであろう(とハッキリ水晶玉に映っております)。
附記1、ホーム開幕が3万人を切ったことについては、たぶんクラブ側もサポーターも危機感を持っていると思います。
ま、雨が降った。マルシオ欠場がわかってた。そういう色々が重なって2万8千なんでしょう。僕は新潟を強くするのはカンタンで、つまり、観客が多ければ多いほど将来にわたってチームは強化されていく仕組みだと思います。観客が多いことはチケット収入になるし、スポンサーへの説得材料にもなる。サッカーチームの強い弱いはお金だけじゃないけど、そりゃ豊富な資力があった方が選手も揃えられるし、環境も整えられる。第一、超満員って方が選手は確実に燃えます。
2、だからビッグスワンに友達を誘いましょう。
3、ただ2万8千にはちゃんとゴホウビがあった、黒崎さんの「10年アルビレックス」の第一章が見られた、というのが今回、本文の主旨です。追いつかれてドローって悔しい試合で何言ってんだと思われるかも知れないけど、僕は(後悔まじりに)本気でそう思います。さっきと矛盾するようだけど、このチームは「サッカーはお金だけじゃないし、名前でもない」を証明してくれるような存在だ。
4、田中亜土夢が出た『やべっちFC』見ました?あと『ケンミンショー』で新潟が取り上げられてたですね。星野知子さんのコメント通りだとすると、僕の名前は新潟では「いのきどえちろう」と発音されてしまうらしい。そんなこと言う人にはまだ会ってない。
5、、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)上巻読了。河井継之助が徹底的に理詰めなのに、その一方で芸者遊びが好きっていうのがいいなぁ。長岡に行きたくなりました。それからアレですね、「北国」であり「東国」である長岡藩から見た長崎の遠さっていうのはなるほどと思った。継之助は世界情勢や西欧文明から取り残される焦りのなか、「おれたちは横浜だ」と開港間もない横浜からそれらを吸収しようとする。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!