【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第45回
2010/4/8
「してやられた」
J1第4節、湘南×新潟。
見事にしてやられた。試合後の会見で湘南・反町監督は「相手にボールを動かす力があってサイドで数的優位を作られてしまうと、どうしても引いてしまうだけの話」と狙いを否定してみせたけれど、とても額面通りには受けとれない。新潟は完全にボールを持たされた。湘南は引いた布陣。一見、ゲームを支配してるのは新潟に見えるが、実際は守りながら湘南がリズムを作る。
これは湘南の集中力が続くかどうかが見ものだった。カウンター速攻に勝機を見出すまで耐え続けるミッションだ。マークする選手をちょっとでも離したらプランが台なしになる。田村雄三が働いていた。中盤はひたむきにカットを続け、村松&ジャーンのセンターバックは跳ね返し続ける。又、GK・野澤洋輔が心憎いほど落ち着いていた。
新潟は攻めが単調だったのだと思う。ゴール前の密集にサイドからクロスを入れては跳ね返されることの繰り返し。前が詰まってるので、持ち上がってウラをとるとかタテに早い展開を作る等の、つまり「疾風」性が封じられている。ゆっくりビルドアップして、どうしようかと困って横パスをカットされたり、とりあえずサイドにあずけて一本調子のクロスを入れるシーンが目につく。こりゃ今日は「微風」だ。あるいは風が凪いだ状態か。
黒崎久志監督はこの展開を「予想していた」と語った。トレーニングの段階から「しっかりと後ろに引いて守り、カウンター狙い」と湘南のゲームプランを想定していた。それだけに会見の表情からは悔しさがにじみ出る。新潟はかっちり型にハメられて完敗した。こういうのはわかっててやられる方がダメージがでかい。
試合は2発のカウンターで決したわけだが、僕は中村祐也にやられた1点め(前半20分)を重く見たい。早い話、先取点をとった方が勝つ試合だった。何故、先手がとれなかったのか。
何故、攻めあぐねたのか? 黒崎監督の指摘した問題点は二つ。
「流れのなかで得点するためのコンビネーション等をもっと高めていかなければならないし、ボックスに入ってからもシュートを何本も打っていたがワクに飛ばなかった。その辺りは精度を上げていくしかない」
コンビネーション及びシュートの精度向上。
ひょっとすると監督会見の席上は悔しさのあまり、わざとパターン化した物言いで済ませたのかも知れない。
が、本音かも知れない。
本音だとしたらハラをくくった発言だと思う。コンビネーションを高めるのは時間がかかるし、シュートの精度は一朝一夕に良くはならない。黒崎さんはじっくり行くつもりだと言ってるのかも知れない。
この試合は大変勉強になった試合だ。「何故、攻めあぐねたのか?」、「何故、わかってたカウンターを防げなかったのか?」、そこを詰める必要がある。言っとくが若いチームがこんなことで凹んでても始まらない。若いチームは失敗して学ぶのだ。
シーズン序盤の対戦は「反町さん、お見事!」でいいじゃないか。このカードはホームゲームが残っている。反町ベルマーレをビッグスワンでとっちめればいいだけのことだ。
今年はW杯イヤーで中断期間があるのがミソだ。ひとつには中断前にどれだけ勝ち点を積み重ねておけるか。もうひとつは中断期間の「もうひとつのキャンプ」で序盤戦の反省をもとにチームを仕上げられるか。今の時点で課題にぶつかるのは悪いことじゃない。
附記1、新潟交通の応援ツアーバスが事故渋滞に巻き込まれて、試合後半(残り15分ほど?)の到着になったそうですね。そりゃ、まいったなぁ。キックオフ時刻くらいの車内の落胆は想像するに余りあります。又、本当の「弾丸」で帰ったんですよね。参加された皆さん、おつかれ様でした。
2、で、新潟交通さんもつらかったでしょうね。添乗員の人はきっと悪い汗いっぱいかいたと思う。新潟交通HPにお詫びの文が掲載されてますね。
3、試合が始まる前、大中祐二さんと「この試合に勝って自信をつかんでくれるといい」と話してたんですよ。なかなか思うようにはいかないもんです。ただ試合展開は「昔のアルビ」と「今のアルビ」が戦ってるような不思議な興趣がありましたね。
4、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)下巻途中。継之助はとうとう執政(正確には家老職)です。これを読んで幕末期の長岡と新潟の関係がよくわかった。しかし、徳川幕府ってのはよっぽど越後を怖れたんですね。上杉家を米沢へ転地しただけじゃ足らず、越後を細かい藩に分けて、要所に譜代を配した。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第4節、湘南×新潟。
見事にしてやられた。試合後の会見で湘南・反町監督は「相手にボールを動かす力があってサイドで数的優位を作られてしまうと、どうしても引いてしまうだけの話」と狙いを否定してみせたけれど、とても額面通りには受けとれない。新潟は完全にボールを持たされた。湘南は引いた布陣。一見、ゲームを支配してるのは新潟に見えるが、実際は守りながら湘南がリズムを作る。
これは湘南の集中力が続くかどうかが見ものだった。カウンター速攻に勝機を見出すまで耐え続けるミッションだ。マークする選手をちょっとでも離したらプランが台なしになる。田村雄三が働いていた。中盤はひたむきにカットを続け、村松&ジャーンのセンターバックは跳ね返し続ける。又、GK・野澤洋輔が心憎いほど落ち着いていた。
新潟は攻めが単調だったのだと思う。ゴール前の密集にサイドからクロスを入れては跳ね返されることの繰り返し。前が詰まってるので、持ち上がってウラをとるとかタテに早い展開を作る等の、つまり「疾風」性が封じられている。ゆっくりビルドアップして、どうしようかと困って横パスをカットされたり、とりあえずサイドにあずけて一本調子のクロスを入れるシーンが目につく。こりゃ今日は「微風」だ。あるいは風が凪いだ状態か。
黒崎久志監督はこの展開を「予想していた」と語った。トレーニングの段階から「しっかりと後ろに引いて守り、カウンター狙い」と湘南のゲームプランを想定していた。それだけに会見の表情からは悔しさがにじみ出る。新潟はかっちり型にハメられて完敗した。こういうのはわかっててやられる方がダメージがでかい。
試合は2発のカウンターで決したわけだが、僕は中村祐也にやられた1点め(前半20分)を重く見たい。早い話、先取点をとった方が勝つ試合だった。何故、先手がとれなかったのか。
何故、攻めあぐねたのか? 黒崎監督の指摘した問題点は二つ。
「流れのなかで得点するためのコンビネーション等をもっと高めていかなければならないし、ボックスに入ってからもシュートを何本も打っていたがワクに飛ばなかった。その辺りは精度を上げていくしかない」
コンビネーション及びシュートの精度向上。
ひょっとすると監督会見の席上は悔しさのあまり、わざとパターン化した物言いで済ませたのかも知れない。
が、本音かも知れない。
本音だとしたらハラをくくった発言だと思う。コンビネーションを高めるのは時間がかかるし、シュートの精度は一朝一夕に良くはならない。黒崎さんはじっくり行くつもりだと言ってるのかも知れない。
この試合は大変勉強になった試合だ。「何故、攻めあぐねたのか?」、「何故、わかってたカウンターを防げなかったのか?」、そこを詰める必要がある。言っとくが若いチームがこんなことで凹んでても始まらない。若いチームは失敗して学ぶのだ。
シーズン序盤の対戦は「反町さん、お見事!」でいいじゃないか。このカードはホームゲームが残っている。反町ベルマーレをビッグスワンでとっちめればいいだけのことだ。
今年はW杯イヤーで中断期間があるのがミソだ。ひとつには中断前にどれだけ勝ち点を積み重ねておけるか。もうひとつは中断期間の「もうひとつのキャンプ」で序盤戦の反省をもとにチームを仕上げられるか。今の時点で課題にぶつかるのは悪いことじゃない。
附記1、新潟交通の応援ツアーバスが事故渋滞に巻き込まれて、試合後半(残り15分ほど?)の到着になったそうですね。そりゃ、まいったなぁ。キックオフ時刻くらいの車内の落胆は想像するに余りあります。又、本当の「弾丸」で帰ったんですよね。参加された皆さん、おつかれ様でした。
2、で、新潟交通さんもつらかったでしょうね。添乗員の人はきっと悪い汗いっぱいかいたと思う。新潟交通HPにお詫びの文が掲載されてますね。
3、試合が始まる前、大中祐二さんと「この試合に勝って自信をつかんでくれるといい」と話してたんですよ。なかなか思うようにはいかないもんです。ただ試合展開は「昔のアルビ」と「今のアルビ」が戦ってるような不思議な興趣がありましたね。
4、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)下巻途中。継之助はとうとう執政(正確には家老職)です。これを読んで幕末期の長岡と新潟の関係がよくわかった。しかし、徳川幕府ってのはよっぽど越後を怖れたんですね。上杉家を米沢へ転地しただけじゃ足らず、越後を細かい藩に分けて、要所に譜代を配した。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!