【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第46回

2010/4/15
「佐渡見えず」

 J1第5節、新潟×大宮。
 話は全然違うようだが、先月、札幌へ出かけたとき、中島公園の北海道立文学館というところへ立ち寄ったんである。北海道文学だから啄木や原田康子かなぁと思って展示を見ると、色紙の並んでるところに大野風流がある。大野風流は新潟の人だ。柳都川柳の主幹。何故、道立文学館に色紙があるのか。書かれた句も物凄く新潟な内容だった。
 「僕が悪いかのごとく 佐渡見えず」

 いやー、佐渡見えないなー。
 こういうのは見えるときはいきなり見えるんだけどなー。見えないときは見えない。こないだよりも見えなくなった気すらしてしまう。
 ミッドウィーク(3月31日)のナビスコ杯・仙台戦に続くスコアレスドローだ。佐渡見えず。これで公式戦6戦未勝利か。ちょっと困ったとこにハマリ込んでしまった。

 試合は基本的に膠着(こうちゃく)したものだった。大宮もラファエルの負傷からパタッと勝てなくなり、苦しいところだ。それでも張監督の大方針、「激しいプレスや囲い込みからボールを奪い、すばやいタテ展開でゴールを狙う」は徹底していた。今年はサイド攻撃も加えるらしい。選手が大幅に入れ替わって、組織が揺るがないのが凄い。市川雅彦が危険だったなぁ。彼がもうひとりいて、後半投入されてたらヤバかった。

 が、新潟だってよく粘っていた。ヒヤッとする場面を作られても、どうにかしのいで見せるのがチームの持ち味だ。気になったのは後半、ガクンと運動量が落ちて中盤を支配されたこと。さほどプレスに行かないで脚を残しとく戦法に見えたが(中2日がたたったのか)、脚は残ってなかった。全体が間延びして、試合終盤は生きた心地がしない。大宮にとっては勝ちを逃したドロー。新潟は辛くもしのぎ切ったドロー。

 といって新潟の勝機もあった。
 79分と82分、ともにカウンターから矢野貴章が抜け出したシーン。敵GK・北野貴之(!)と1対1の局面が作れた。
 あれは決めて欲しかった。
 キリンチャレンジ杯・セルビア戦に代表招集された矢野貴章であれば、チーム未勝利の一因を負わせても許されるのじゃないか。
 「あの場面、貴章が決めていれば」ということが何度もあった。
 矢野貴章はエースであり、新潟の誇りだ。
 本人が一番悔しいだろうことはわかるけれど、敢えて苦言を呈す。彼のゴールがチームの暗雲を払うのだ。

 開幕前、日程を見て反町ベルマーレとの対戦はどんなだろうと想像したりしていた。野澤や寺川との「再会」はどんなドラマになるだろうと。
 それと同じことが大宮・北野、アン・ヨンハにもあった。アン・ヨンハなんて6年ぶりのビッグスワンらしいじゃないですか。
 だけど思ってたのと実際は違うなぁ。こんなに苦しく、余裕がないとこで「再会」するとはなぁ。
 
 まぁ、「今年は楽じゃないぞー」と覚悟して迎えたつもりのシーズンだ。それじゃお前はどんな形で北野やヨンハを迎え撃つつもりだったんだと、俺は俺に聞いてみたい。甘いこと言ってるようだったら、俺は俺を殴ってやりたい。

俺が悪い。かのごとく勝利が見えないのだ。


附記1、今回はかつてウエブ上で俳句(?)を発表したりしていたアン・ヨンハ選手にちなんだ形。なのかどうなのかわかんないけど、大野風流さんフューチャリングスペシャルになりました。

2、スカパー中継を見てたんですが、実況の鈴木英門アナ、一瞬、大宮を「大分!」と連呼するシーンがありましたね。あれはちょっと笑った。放送の仕事をやってみるとわかるけど、何で俺はあんなこと口走ったんだろうというときがあります。

3、本文にも出てきた代表・セルビア戦ですが、ガッカリでしたねー。主力を欠くセルビアにあれはない。矢野貴章は最後のヘッド惜しかったなぁ。「副審ちゃんと見てんのか、入ったんじゃないの!」と声をあげてしまった。矢野選手が当たりだすのがホントに待ち遠しいです。

4、『峠』下巻途中。先週からほとんど進んでない。その代わり、『桃鉄2010』やりこみました。新潟に出現する「エチゴヤ怪獣ダイカーン」は考えさせられる。世間は新潟というと何故、越後屋なのか。そういえば大宮サポで「越後屋成敗!」のゲーフラを掲げた人が映ってたなぁ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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