【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第47回
2010/4/22
「スタメン」
J1第6節、新潟×浦和。
前半終わって0対0、攻めの構成力に勝る浦和にいい形を作られるが、どうにかしのいだ。これは黒崎監督のゲームプラン通りだったと思う。ボランチの1枚に経験豊富な小林慶行を起用、試合を落ち着かせて後半勝負へ持っていきたかった。
システムは4-4-2。2トップの一角に田中亜土夢をスタメン起用だ。これはミッドウィークに代表戦を戦った矢野貴章を休ませる(&勝負手に使う)狙いもあるけれど、亜土夢の状態が良かったからだ。もちろん僕の注目も亜土夢だった。
考えてもみてくれ、チームは未曾有の危機にある。開幕から全く勝てない上に、点がとれない。そのタイミングでスタメン起用されたFWはどんな気持ちか。田中亜土夢はひとつハマれば本物になるポテンシャルを感じさせながら、ずっと控えに甘んじてきた。控え選手はしんどい。僕はいつも試合後半、3人めの交代枠を使い切った後、アップをやめるビブス組を見て、せつないなぁと思う。メラメラ燃えるものがあっても、どうしようもない。脇で見てるしかないのだ。
まして亜土夢は今季、ベンチ入りすら叶わない試合が続いた。この抜擢に賭けていた筈だ。顔つきが違った。大袈裟に言えば、ここでチームを救えば「人生を変える試合」になるかも知れない。
いやー、亜土夢の姿は胸に来たですよ。必死だった。何とかしたいんだ。けれど意図が合わなかったりして、うまく行かない。又、浦和の守りがなかなかいい。ボールホルダーに2、3人すぐ寄せてくるし、くさびを入れると山田暢久あたりが巧みにつぶす。これはノーチャンスかなぁ。ホントにいっぺんだけで構わないから彼に仕事をさせてくれ。
そのチャンスが来た。後半開始早々の47分、右サイドの攻防から浮き球のパスが来る。浦和DFは寄せていて、バイタルの亜土夢のところに戻り切れない。トラップが決まった。フリーだ。先取点をモノにすれば、黒崎監督の思惑がぴったりハマる。
亜土夢は狙いすまして、ほぼイメージ通りのシュートを放った筈だ。アウトにかけて、GK・山岸範宏の指先をかすめ、逃げていく軌道。サイドネットに突き刺さるイメージだ。それがポストの横を無情にそれていく。
僕の考える新潟の勝機はその一瞬だった。先制すれば展開が変わった。後半投入の矢野貴章の意味だって変わった。何て残念なことだろう。あれだけ確信を持った、そして気持ちの乗ったシュートが決まらない。
田中亜土夢は「人生を変える試合」を経験できなかった。開幕から勝てないチームを救い、苦手中の苦手・浦和にひと泡ふかせる決定機を逃した。僕らはその姿を覚えておくのだ。それが亜土夢のぶつかっている壁だ。腸(はらわた)が煮えくり返るほど悔しいだろう。いつかその壁を突破する日が来るのを信じよう。
試合は完敗だ。浦和は個の力でも優れているけれど、勝つ為に理に適ったサッカーをしていた。
新潟は迫力ないなぁ。もっとしぶとく動きまわるサッカーが身上じゃないかなぁ。奪われるのが心配で、カウンターになってもスピードアップできず、陣型を整えられたところへ気のないクロスを入れる。あれで点とるにはイブラヒモヴィッチ連れて来ないと。
ひとつ歯車が噛み合えば、話は全然変わってくるのだと思う。こういうときは原点じゃないか。1対1の競り合い、闘争心。とにかくひとつ勝ちたい。勝利は勝利を連れてくる。積極性と自信を連れてくる。
附記1、ナビスコ杯・C大阪戦、やりましたねー。黒崎アルビ公式戦初勝利です。これでムードが変わると思う。とにかく、まぁ、一歩一歩行きましょう。幸いリーグ戦もダンゴになりそうだ。ここから這い上がってみせよう。
2、浦和戦から黒崎さん、スーツ姿でしたね。ゲン直しみたいな意味があったのかも知れない。僕はスーツの方が断然、カッコいいと思います。
3、『峠』下巻途中。先々週から大して進んでない。その代わり、『桃鉄』はすんごいやり込んでます。上越を買い占めると上杉謙信が加勢してくれるようになって、他プレーヤーの物件を奪いとってくれます。やっぱり、1対1の奪い合いですね。ちがうかー。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第6節、新潟×浦和。
前半終わって0対0、攻めの構成力に勝る浦和にいい形を作られるが、どうにかしのいだ。これは黒崎監督のゲームプラン通りだったと思う。ボランチの1枚に経験豊富な小林慶行を起用、試合を落ち着かせて後半勝負へ持っていきたかった。
システムは4-4-2。2トップの一角に田中亜土夢をスタメン起用だ。これはミッドウィークに代表戦を戦った矢野貴章を休ませる(&勝負手に使う)狙いもあるけれど、亜土夢の状態が良かったからだ。もちろん僕の注目も亜土夢だった。
考えてもみてくれ、チームは未曾有の危機にある。開幕から全く勝てない上に、点がとれない。そのタイミングでスタメン起用されたFWはどんな気持ちか。田中亜土夢はひとつハマれば本物になるポテンシャルを感じさせながら、ずっと控えに甘んじてきた。控え選手はしんどい。僕はいつも試合後半、3人めの交代枠を使い切った後、アップをやめるビブス組を見て、せつないなぁと思う。メラメラ燃えるものがあっても、どうしようもない。脇で見てるしかないのだ。
まして亜土夢は今季、ベンチ入りすら叶わない試合が続いた。この抜擢に賭けていた筈だ。顔つきが違った。大袈裟に言えば、ここでチームを救えば「人生を変える試合」になるかも知れない。
いやー、亜土夢の姿は胸に来たですよ。必死だった。何とかしたいんだ。けれど意図が合わなかったりして、うまく行かない。又、浦和の守りがなかなかいい。ボールホルダーに2、3人すぐ寄せてくるし、くさびを入れると山田暢久あたりが巧みにつぶす。これはノーチャンスかなぁ。ホントにいっぺんだけで構わないから彼に仕事をさせてくれ。
そのチャンスが来た。後半開始早々の47分、右サイドの攻防から浮き球のパスが来る。浦和DFは寄せていて、バイタルの亜土夢のところに戻り切れない。トラップが決まった。フリーだ。先取点をモノにすれば、黒崎監督の思惑がぴったりハマる。
亜土夢は狙いすまして、ほぼイメージ通りのシュートを放った筈だ。アウトにかけて、GK・山岸範宏の指先をかすめ、逃げていく軌道。サイドネットに突き刺さるイメージだ。それがポストの横を無情にそれていく。
僕の考える新潟の勝機はその一瞬だった。先制すれば展開が変わった。後半投入の矢野貴章の意味だって変わった。何て残念なことだろう。あれだけ確信を持った、そして気持ちの乗ったシュートが決まらない。
田中亜土夢は「人生を変える試合」を経験できなかった。開幕から勝てないチームを救い、苦手中の苦手・浦和にひと泡ふかせる決定機を逃した。僕らはその姿を覚えておくのだ。それが亜土夢のぶつかっている壁だ。腸(はらわた)が煮えくり返るほど悔しいだろう。いつかその壁を突破する日が来るのを信じよう。
試合は完敗だ。浦和は個の力でも優れているけれど、勝つ為に理に適ったサッカーをしていた。
新潟は迫力ないなぁ。もっとしぶとく動きまわるサッカーが身上じゃないかなぁ。奪われるのが心配で、カウンターになってもスピードアップできず、陣型を整えられたところへ気のないクロスを入れる。あれで点とるにはイブラヒモヴィッチ連れて来ないと。
ひとつ歯車が噛み合えば、話は全然変わってくるのだと思う。こういうときは原点じゃないか。1対1の競り合い、闘争心。とにかくひとつ勝ちたい。勝利は勝利を連れてくる。積極性と自信を連れてくる。
附記1、ナビスコ杯・C大阪戦、やりましたねー。黒崎アルビ公式戦初勝利です。これでムードが変わると思う。とにかく、まぁ、一歩一歩行きましょう。幸いリーグ戦もダンゴになりそうだ。ここから這い上がってみせよう。
2、浦和戦から黒崎さん、スーツ姿でしたね。ゲン直しみたいな意味があったのかも知れない。僕はスーツの方が断然、カッコいいと思います。
3、『峠』下巻途中。先々週から大して進んでない。その代わり、『桃鉄』はすんごいやり込んでます。上越を買い占めると上杉謙信が加勢してくれるようになって、他プレーヤーの物件を奪いとってくれます。やっぱり、1対1の奪い合いですね。ちがうかー。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
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