【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第63回
2010/8/12
「要所を締める」
J1第16節、新潟×FC東京。
中3日でFC東京を迎え撃つ。両軍ともにしばらく負けがついていないのだ。こういうとき、「好調の波にのる」とか「勢いにのる」とか形容されるのが常じゃないだろうか。結果だけで判断するとそうなるけれど、実際はそんなことはない。ムードは悪くないと思うが、この暑さで連戦だ。コンディションは完調からは程遠い。そこでどうするかがプロの勝負だ。
FC東京はこの後、8月4日に「スルガ銀行チャンピオンシップ2010」のリガ・デ・キト戦が控えていて、ターンオーバー制よろしく先発メンバーをゴソッと替えてきた。これが奏功するかどうか。
新潟はホームへ戻れたことが何よりの利点だろう。状態のきびしいときこそ、住み慣れた我が家の有難味が増す。ビッグスワンの大声援は確実に「戦力」だ。
この試合は新潟がうまく戦った。「要所を締める」ってやつですよ。チーム状態を考えると90分走りまわるサッカーは望めない。陣形をコンパクトに保ってエネルギーのロスを防ぐ一方、ボールの奪いどころに集中する戦法だ。特に前半、FC東京のゲームメーカー・梶山陽平がいなかったこともあって、ずっと試合をコントロール下におくことができたんじゃないですか。FC東京、こんなに攻めが組み立てられないチームだったかなぁと思う。本間勲、小林慶行のダブルボランチがめっちゃ効いていた。
先制点は狙いの勝利。FC東京の新人・高橋秀人のパスミスをかっさらうと、そこから速い。一発でDFのウラへ出して、そこへ矢野貴章が飛び込んでいく。前半15分、矢野貴章2戦連続ゴール! エンジンかかってきました。夏場、皆が苦しいところでゴール感覚をとり戻してくれたのは本当に心強い。
FC東京はターンオーバーで入れた高橋の軽率なプレーが悔やまれるところ。「前半0対0で行って、後半勝負」的なプランが瓦解する。
しかし、新潟の「試合巧者」ぶりはどうだろう。そういう芸風だったか? いつの間にこんな大人っぽいサッカーができるようになったのか。こういう試合を見ると、サッカーが総合力の競技であることがよくわかる。この日は動けなかったかも知れないが、それを補う読みが冴えていた。
その一番わかりやすい例が後半35分、本間勲のゴールシーンだろう。見てると本間が、いつどこから飛び出してきたんだと思うくらいスルスルッと前線に顔を出している。矢野とマルシオがパス交換しているタイミングだった。あの躊躇(ちゅうちょ)ない飛び出しはエクセレントだ。ここが勝負どころだと局面を読みきっている。いわゆる「スーパーゴール」というのではないけれど、読みがスーパー。
でも、まぁ試合は最終的にはグダグダになりましたね。FC東京が今野のゴールで1点返して、ちょっと元気づいたのもある。新潟は最後は基本、クリアに次ぐクリアです。さすがに足が残っていない。ここで力を発揮したのは「12番めの選手」、ビッグスワンの大声援でした。ホームの力が見事、新潟を逃げきらせたんだと思います。
それから忘れずに書いておきたいと思うけど、GK・黒河貴矢の頑張りは称賛に値します。「ここでオレがやらないで誰がやる!」って気迫がみなぎっていた。前半39分、クリアを羽生に拾われてゴール右隅にシュートを打たれたシーン等、ファインセーブが印象に残ります。サンキュー、黒河! GK難は黒崎監督にとっても最大の懸念材料でしょう。彼が戻ってきてくれて、チームが救われた。
驚いたことに10戦負けなしですよ。まぁ、長いシーズン、そうそう思い通りにはいかないだろけど、新潟は例年とは違うムードで夏を乗り越えようとしている。ここからお盆明けまで週一ペースに戻ります。しっかり休養をとって、存分に戦って欲しいですね。
附記1、千葉和彦選手、J1通算100試合出場おめでとうございます!
2、次節は敵地の京都戦、先方の監督交代劇で何と「黒崎vs秋田」の元鹿島対決が実現ですね。Jも歴史を積み重ねたんだなぁと思います。僕は新聞報道を見て、加藤久さんに「おつかれ様でした」と電話をかけました。次節、久さんのチームの方がやりにくかった気がします。
3、僕は先日、ベランダの鉢植えに水をやっててギクッとなったと思ったら、椎間板ヘルニア発症でした。ま、ぎっくり腰ですね。しばらくTV観戦で安静に暮らします。あ、先週書いたセイヒョーって佐渡は工場があるだけで、新潟市のメーカーでした。「うらしま亀太郎」の柿味は「柿氷アイス」という高度なシャレだということもわかりました。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第16節、新潟×FC東京。
中3日でFC東京を迎え撃つ。両軍ともにしばらく負けがついていないのだ。こういうとき、「好調の波にのる」とか「勢いにのる」とか形容されるのが常じゃないだろうか。結果だけで判断するとそうなるけれど、実際はそんなことはない。ムードは悪くないと思うが、この暑さで連戦だ。コンディションは完調からは程遠い。そこでどうするかがプロの勝負だ。
FC東京はこの後、8月4日に「スルガ銀行チャンピオンシップ2010」のリガ・デ・キト戦が控えていて、ターンオーバー制よろしく先発メンバーをゴソッと替えてきた。これが奏功するかどうか。
新潟はホームへ戻れたことが何よりの利点だろう。状態のきびしいときこそ、住み慣れた我が家の有難味が増す。ビッグスワンの大声援は確実に「戦力」だ。
この試合は新潟がうまく戦った。「要所を締める」ってやつですよ。チーム状態を考えると90分走りまわるサッカーは望めない。陣形をコンパクトに保ってエネルギーのロスを防ぐ一方、ボールの奪いどころに集中する戦法だ。特に前半、FC東京のゲームメーカー・梶山陽平がいなかったこともあって、ずっと試合をコントロール下におくことができたんじゃないですか。FC東京、こんなに攻めが組み立てられないチームだったかなぁと思う。本間勲、小林慶行のダブルボランチがめっちゃ効いていた。
先制点は狙いの勝利。FC東京の新人・高橋秀人のパスミスをかっさらうと、そこから速い。一発でDFのウラへ出して、そこへ矢野貴章が飛び込んでいく。前半15分、矢野貴章2戦連続ゴール! エンジンかかってきました。夏場、皆が苦しいところでゴール感覚をとり戻してくれたのは本当に心強い。
FC東京はターンオーバーで入れた高橋の軽率なプレーが悔やまれるところ。「前半0対0で行って、後半勝負」的なプランが瓦解する。
しかし、新潟の「試合巧者」ぶりはどうだろう。そういう芸風だったか? いつの間にこんな大人っぽいサッカーができるようになったのか。こういう試合を見ると、サッカーが総合力の競技であることがよくわかる。この日は動けなかったかも知れないが、それを補う読みが冴えていた。
その一番わかりやすい例が後半35分、本間勲のゴールシーンだろう。見てると本間が、いつどこから飛び出してきたんだと思うくらいスルスルッと前線に顔を出している。矢野とマルシオがパス交換しているタイミングだった。あの躊躇(ちゅうちょ)ない飛び出しはエクセレントだ。ここが勝負どころだと局面を読みきっている。いわゆる「スーパーゴール」というのではないけれど、読みがスーパー。
でも、まぁ試合は最終的にはグダグダになりましたね。FC東京が今野のゴールで1点返して、ちょっと元気づいたのもある。新潟は最後は基本、クリアに次ぐクリアです。さすがに足が残っていない。ここで力を発揮したのは「12番めの選手」、ビッグスワンの大声援でした。ホームの力が見事、新潟を逃げきらせたんだと思います。
それから忘れずに書いておきたいと思うけど、GK・黒河貴矢の頑張りは称賛に値します。「ここでオレがやらないで誰がやる!」って気迫がみなぎっていた。前半39分、クリアを羽生に拾われてゴール右隅にシュートを打たれたシーン等、ファインセーブが印象に残ります。サンキュー、黒河! GK難は黒崎監督にとっても最大の懸念材料でしょう。彼が戻ってきてくれて、チームが救われた。
驚いたことに10戦負けなしですよ。まぁ、長いシーズン、そうそう思い通りにはいかないだろけど、新潟は例年とは違うムードで夏を乗り越えようとしている。ここからお盆明けまで週一ペースに戻ります。しっかり休養をとって、存分に戦って欲しいですね。
附記1、千葉和彦選手、J1通算100試合出場おめでとうございます!
2、次節は敵地の京都戦、先方の監督交代劇で何と「黒崎vs秋田」の元鹿島対決が実現ですね。Jも歴史を積み重ねたんだなぁと思います。僕は新聞報道を見て、加藤久さんに「おつかれ様でした」と電話をかけました。次節、久さんのチームの方がやりにくかった気がします。
3、僕は先日、ベランダの鉢植えに水をやっててギクッとなったと思ったら、椎間板ヘルニア発症でした。ま、ぎっくり腰ですね。しばらくTV観戦で安静に暮らします。あ、先週書いたセイヒョーって佐渡は工場があるだけで、新潟市のメーカーでした。「うらしま亀太郎」の柿味は「柿氷アイス」という高度なシャレだということもわかりました。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
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