【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第76回
2010/11/11
「真っ向勝負」
J1第28節、新潟×鹿島。
26節・名古屋戦の冒頭発言をあっさり撤回する。あの試合も素晴らしかったが、今節・鹿島戦はその上を行った。これが「今季ベストゲーム」。この種の発言撤回は何度やったって大歓迎だ。できるならリーグ戦残り6戦、天皇杯4戦、合計10ぺんやらせて下さい。
まず、この試合のレベルの高さを語ろう。この日、ピッチ上に展開されたのは現在、Jリーグで見ることのできる最高水準のサッカーだった。気候が良く、ピッチコンディションが良く(スワン関係者の努力をたたえたい)、両軍選手の状態が良好で、ベストメンバーが真っ向やり合った。どちらのサッカーが良くて、どちらが不調だったということもない。最後の最後まで気力あふれる攻防が続いた。主審の高山啓義氏がイングランドっぽい、球際の激しさを許容するゲームコントロールをした。つまり、熱戦を導いてくれた。そして肝心なこと、両軍合わせて3つのゴールが生まれ、そのすべてがスーパーゴールだった。この日、ビッグスワンを埋めた3万大観衆は、まずその意味で実に幸運だった。
そしてクラブ史のパースペクティブ(遠近法)を考えたい。僕はこの試合を歴史的な達成だと思うのだ。昨年、「あくまで自らのスタイルを貫いて王者・鹿島に2度勝った」ことも快挙だった。選手らが勇気をふるってタスクを完遂した結果だ。この日の試合にだって、スカウティングに基づいたタスクがあった。が、意味が重いのはフツーに勝ってしまったことだ。舞の海のような小兵力士が猫だましで横綱に勝ったのではない。僕はこれは黒崎久志監督のサッカー観にかかわることだと思うのだけど、あくまで王道を行った。
歴史的な勝利ではないだろうか。「3連覇の王者・鹿島」に真っ向勝負で勝ち切ってみせたのだ。フツーに勝った。当日、スカパー実況はこれを「ジャイアントキリング」と伝えたそうだけど、僕は(語句の正確な意味がどうこうではなく)そう思わない。この試合の歴史的意味はジャイアントキリングではないことなのだ。サッカーの美しさも、球際の激しさも、勝負強さも上を行った。ビッグスワン3万大観衆はその目撃者だ。おそらくクラブ史上最高の高みまで、専門誌に「J2降格候補」と書かれたチームがたどり着いた。会場に居合わせた新潟ファン、サポーターはその意味でとてつもなく幸運だった。
試合。今日は簡単に触れるだけにする。何故かというと僕の筆力ではあの試合が再現できない。もし、試みるとしたらとんでもない長さになる。前半はまったくの互角。見ていて本当に面白かった。鹿島はモチベーション高かったねぇ。それを新潟ががっちり受け止めて、ピーンと張った緊張感が45分続いた。ハーフタイム、僕の第一声は「新潟、フツーに強い」。つまり、上に書いたことは勝ったから思ったことじゃないんだな。
後半3分、マルシオ・リシャルデスの先制ゴールは「僕のサッカー人生のなかで最も美しいゴールだと思う」と本人が試合後、振り返るほどの完璧さ。後半15分、鹿島・新井場徹がサイドネットに突き刺して反撃。この辺りから漂いだした決戦ムードがすごかった。好ファイトの連続。大騒ぎの場内。首位を追走する鹿島はもちろん圧をかけてくる。新潟も勝ちに行く。終盤、GK・東口順昭の超絶セーブが勝利をたぐり寄せた。「愛シテル ニイガタ」のチャントが選手に注がれる。ロスタイムだ。チョ・ヨンチョルのキープから本間勲圧巻の決勝弾!
僕は下手っぴな試合描写をするよりもファン、サポーターに申し上げたいことがある。これは試合前、恒例企画のサッカー講座で話したことでもある。僕は実際のところ、同講座に呼んでいただく度に、色んな話をして「自分たちのクラブに誇りを持つべきだ」と言い続けてる気がする。
何ひとつあきらめないで下さい。何ひとつというのは本当に何ひとつのことです。そりゃ今シーズンは名古屋が走っていて届かないかもしれない。だけど、何ひとつあきらめないで下さい。優勝しよう。タイトルを獲ろう。ACLに出て未知の冒険をしよう。
優勝しよう。バカだと思われていいじゃないか。オレはわりと思われてるから平気だ。地方クラブだからとかお金がないとか、そんなの最初からわかってるよ。つまんないよ。で、「GO ACL!」って言うと失敗したら損するみたいな話?それはずいぶんとお利口さんだよ。
何ひとつあきらめないで下さい。あきらめ癖なんかついてロクなことないです。誇りを持とう。そこからしか何にも始まらない。チームは誇るに値することを目の前で見せてくれたよ。オレは先手を打ってバカの1号でいく。いつか優勝の散歩道を書かしてくれ。
附記1、しかし、今年はホントに日程に恵まれてますね。土曜だったら台風の影響で違う試合になったかもしれない。BS-TBSで川崎×磐田見たけど、とんでもねー風雨でした。風でカメラが揺れてたもんなぁ。
2、この試合、時間があったんで監督会見出たんですよ。黒崎さんがどんな話するかなぁと楽しみだった。いやー、だけど本当に新潟の監督会見は僕の知ってるのと違いますねー。あれだけの試合した黒崎さんに質問2個か3個ですよ。質問しちゃおうかと思った。負け試合みたいだもん。で、終了して拍手したんだけど、僕ひとりなんだ。逆に黒崎さんに「え、何?」みたいな感じで見られちゃった。あのね、首都圏だと勝利監督には自然とジャーナリスト全員、拍手を送るんですよ。特に素晴らしいゲームの後は盛大にやる(つまんない試合でさえチョコッとはやる)。拍手に値するゲームだと思ったがなぁ。
3、サッカー講座はおかげ様で大盛況でした。参加された皆さん、信義を守ってくれてありがとう。それから今回も応募多数で抽選もれされた方が出たようです。ホントに申し訳ないことです。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。
J1第28節、新潟×鹿島。
26節・名古屋戦の冒頭発言をあっさり撤回する。あの試合も素晴らしかったが、今節・鹿島戦はその上を行った。これが「今季ベストゲーム」。この種の発言撤回は何度やったって大歓迎だ。できるならリーグ戦残り6戦、天皇杯4戦、合計10ぺんやらせて下さい。
まず、この試合のレベルの高さを語ろう。この日、ピッチ上に展開されたのは現在、Jリーグで見ることのできる最高水準のサッカーだった。気候が良く、ピッチコンディションが良く(スワン関係者の努力をたたえたい)、両軍選手の状態が良好で、ベストメンバーが真っ向やり合った。どちらのサッカーが良くて、どちらが不調だったということもない。最後の最後まで気力あふれる攻防が続いた。主審の高山啓義氏がイングランドっぽい、球際の激しさを許容するゲームコントロールをした。つまり、熱戦を導いてくれた。そして肝心なこと、両軍合わせて3つのゴールが生まれ、そのすべてがスーパーゴールだった。この日、ビッグスワンを埋めた3万大観衆は、まずその意味で実に幸運だった。
そしてクラブ史のパースペクティブ(遠近法)を考えたい。僕はこの試合を歴史的な達成だと思うのだ。昨年、「あくまで自らのスタイルを貫いて王者・鹿島に2度勝った」ことも快挙だった。選手らが勇気をふるってタスクを完遂した結果だ。この日の試合にだって、スカウティングに基づいたタスクがあった。が、意味が重いのはフツーに勝ってしまったことだ。舞の海のような小兵力士が猫だましで横綱に勝ったのではない。僕はこれは黒崎久志監督のサッカー観にかかわることだと思うのだけど、あくまで王道を行った。
歴史的な勝利ではないだろうか。「3連覇の王者・鹿島」に真っ向勝負で勝ち切ってみせたのだ。フツーに勝った。当日、スカパー実況はこれを「ジャイアントキリング」と伝えたそうだけど、僕は(語句の正確な意味がどうこうではなく)そう思わない。この試合の歴史的意味はジャイアントキリングではないことなのだ。サッカーの美しさも、球際の激しさも、勝負強さも上を行った。ビッグスワン3万大観衆はその目撃者だ。おそらくクラブ史上最高の高みまで、専門誌に「J2降格候補」と書かれたチームがたどり着いた。会場に居合わせた新潟ファン、サポーターはその意味でとてつもなく幸運だった。
試合。今日は簡単に触れるだけにする。何故かというと僕の筆力ではあの試合が再現できない。もし、試みるとしたらとんでもない長さになる。前半はまったくの互角。見ていて本当に面白かった。鹿島はモチベーション高かったねぇ。それを新潟ががっちり受け止めて、ピーンと張った緊張感が45分続いた。ハーフタイム、僕の第一声は「新潟、フツーに強い」。つまり、上に書いたことは勝ったから思ったことじゃないんだな。
後半3分、マルシオ・リシャルデスの先制ゴールは「僕のサッカー人生のなかで最も美しいゴールだと思う」と本人が試合後、振り返るほどの完璧さ。後半15分、鹿島・新井場徹がサイドネットに突き刺して反撃。この辺りから漂いだした決戦ムードがすごかった。好ファイトの連続。大騒ぎの場内。首位を追走する鹿島はもちろん圧をかけてくる。新潟も勝ちに行く。終盤、GK・東口順昭の超絶セーブが勝利をたぐり寄せた。「愛シテル ニイガタ」のチャントが選手に注がれる。ロスタイムだ。チョ・ヨンチョルのキープから本間勲圧巻の決勝弾!
僕は下手っぴな試合描写をするよりもファン、サポーターに申し上げたいことがある。これは試合前、恒例企画のサッカー講座で話したことでもある。僕は実際のところ、同講座に呼んでいただく度に、色んな話をして「自分たちのクラブに誇りを持つべきだ」と言い続けてる気がする。
何ひとつあきらめないで下さい。何ひとつというのは本当に何ひとつのことです。そりゃ今シーズンは名古屋が走っていて届かないかもしれない。だけど、何ひとつあきらめないで下さい。優勝しよう。タイトルを獲ろう。ACLに出て未知の冒険をしよう。
優勝しよう。バカだと思われていいじゃないか。オレはわりと思われてるから平気だ。地方クラブだからとかお金がないとか、そんなの最初からわかってるよ。つまんないよ。で、「GO ACL!」って言うと失敗したら損するみたいな話?それはずいぶんとお利口さんだよ。
何ひとつあきらめないで下さい。あきらめ癖なんかついてロクなことないです。誇りを持とう。そこからしか何にも始まらない。チームは誇るに値することを目の前で見せてくれたよ。オレは先手を打ってバカの1号でいく。いつか優勝の散歩道を書かしてくれ。
附記1、しかし、今年はホントに日程に恵まれてますね。土曜だったら台風の影響で違う試合になったかもしれない。BS-TBSで川崎×磐田見たけど、とんでもねー風雨でした。風でカメラが揺れてたもんなぁ。
2、この試合、時間があったんで監督会見出たんですよ。黒崎さんがどんな話するかなぁと楽しみだった。いやー、だけど本当に新潟の監督会見は僕の知ってるのと違いますねー。あれだけの試合した黒崎さんに質問2個か3個ですよ。質問しちゃおうかと思った。負け試合みたいだもん。で、終了して拍手したんだけど、僕ひとりなんだ。逆に黒崎さんに「え、何?」みたいな感じで見られちゃった。あのね、首都圏だと勝利監督には自然とジャーナリスト全員、拍手を送るんですよ。特に素晴らしいゲームの後は盛大にやる(つまんない試合でさえチョコッとはやる)。拍手に値するゲームだと思ったがなぁ。
3、サッカー講座はおかげ様で大盛況でした。参加された皆さん、信義を守ってくれてありがとう。それから今回も応募多数で抽選もれされた方が出たようです。ホントに申し訳ないことです。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。