【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第94回(前編)

2011/6/9
「一歩前進」

 J1第13節、浦和×新潟。
 主題は「呪縛を解く試合」ではなかったろうか。
 埼玉スタジアムでのこのカード、新潟は驚いたことに全敗である。鬼門中の鬼門、苦手中の苦手といってよい。いや、浦和レッズがJ有数のビッグクラブであることは論をまたないが、例えば去年は新潟9位、浦和10位でシーズンを終えている。一戦一戦の勝敗は順位通りに決着しないにしても、これほど一方的にやられるのはおかしい。
 この試合はもうひとつ要素があって、それは「赤いマルシオ・リシャルデス」との対決だ。浦和へ移籍したのは永田充も同時だし、それを言うならエジミウソンも同じことだと読者は思われるかもしれない。が、ここ数シーズン、マルシオ・リシャルデスが新潟にとってどういう存在だったか思い出そう。新潟は「マルシオがいないと勝てない」ジンクスを破れずにいた。テレビ新潟の実況・鈴木英門アナは好んで「新潟の王様、マリシオ・リシャルデス」というフレーズを使った。あ、一度だけ失敗して「新潟の王様、アルビレックス新潟」と言ってしまったことがあるけれど、これは別にチームが王政から共和制へ移行したとかそういう示唆ではない。

 いきなり余談。僕は去年スカパー(名古屋戦)で聞いた「新潟の王様、アルビレックス新潟」の大ファンである。あのときは本当に笑ったな。鈴木英門アナは気を悪くしないでいただきたい。僕もラジオ番組のキャリアが長いから、数えきれないくらい言い間違えの経験がある。後になると何でオレ、あんなこと言っちゃったんだろうと呆然とするのだ。大概は次に言うつもりのことが(放送台本が目に入るなどして)頭にひっかかっている場合が多い。ケースとしては「新潟の王様、マルシオ・リシャルデスです。しかし、梅山さん今シーズン、アルビレックス新潟の戦いぶりを語る上で・・」と言おうと思っていて、先の言葉が前に出てきてしまう。例文なら「新潟の王様、梅山さんです」もあり得る。
 別のケースは頭のなかに似た感じの言葉が収納されていて、誤って出てきてしまうケースだ。まぁ、タンスの引き出しから「アルビレックス」をいそいで取り出すとき、「アルデンテ」が出てきてしまう状態。これはその人の収納がわかって面白い。Jリーグチームとスパゲティのゆで加減が「アル」だけで同じ引き出しという人もいるだろう。サッカーに詳しくない人なら「アルディージャ」も同じ引き出しかもしれない。が、間違っても「アルビレックス」と「アルディージャ」は同じとこには収納できないという人もいる。つまり、言い間違いはその人を語ってしまう部分があるのだ。
 第3のケースは本当にわからない間違い。これは一種、風格をたたえる。僕が一番気に入ってる逸話は「文化放送ライオンズナイター」での実況・菅野詩朗アナだ。実況席で解説者をまじえテンポよくしゃべっていた菅野さんは試合途中、何と自分を呼んでしまった。「それでは3塁側ベンチレポート呼んでみましょう、3塁側の菅野さん!」。菅野さんは自分だ。もう文化放送で語り草になっている間違い。誰にも意味がわからない。「あれっ、菅野さん!」。返事がないので重ねた。そのとき、彼は一体誰だったのか。

後編に続く


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