【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第98回
2011/7/7
「100分間がサッカーの試合」
J1第18節、新潟×C大阪。
この週末は「BOOK!BOOK!AIZU」「BOOK!BOOK!SENDAI」とブックイベント2連発だった。東北各県を本と人がめぐる「東北ブックコンテナ」企画に積極的に参加している。試合当日は会津若松市のホテルをチェックアウト後、郡山経由で仙台に入っていた。仙台中心部はすっかり活気が戻っている。沿岸部はまだまだということだが、街のにぎわいが頼もしい。
だからセレッソ戦は試合時間、ケータイ速報をチラ見していた。定期的に席をはずし、うーん、まだ0対0かぁと席へ戻る繰り返し。後半だいぶ経って新潟のとこに「1」が入ってたときはガッツポーズだ。が、その後、大丈夫かなぁと思う。1週間前のホームゲーム、仙台戦のように終盤になって追いつかれはしないだろうか。
悪い予感は当たる。ふと気づいたときは「1-1、試合終了」の表示に変わっていた。見間違えなんじゃないかと思うが、本当のことらしい。試合が終わるといつもは大体、知り合いから感想のメールが来たりするんだけど、この日は皆無だった。まぁ、そうだろう、スタジアムにいれば僕の10万倍ダイレクトに歓喜も不安も落胆も経験することになる。
帰京して録画中継を見た。何という悔しい試合か。すごくうまく戦っていた。過密日程5連戦の最後の試合だからバテていないわけがない。内容的にはセレッソに押されていたけれど、GK・小澤英明のスーパーセーブもあって(あと大野のクリア!)、試合を作れていた。後半31分の先制点は田中亜土夢の勝負パスがブルーノ・ロペスに通り、これを切り返して、DFの股抜きで決めた個人技によるもの。
ところが叉しても勝ち切れない。ホーム2試合続けてロスタイム失点によるドロー(得点者・酒本憲幸)。こう、塩でも撒きたい気持ちになる。何がいけないのか。あわててしまうのか。チームの下降線と過密日程が重なり、新潟はJ1残留争いにリアリティが生じるところに来た。9戦勝ちなしは深刻だ。まぁ、もちろんまだシーズンは半分残っている。ここから巻き直せばいいのだが。
試合後の選手談話を拾ってみよう。まず、ロスタイムの失点について面白いコメントがあった。
「サッカーは90分で終わると思ってはいけない。100分間がサッカーの試合」(小澤英明)
ベテランらしい含蓄のあるコメントだ。新潟は「ロスタイム失点ドロー」や「あとひと押し足りず、勝ちきれない」が本当に多いチームだ。選手が変わっても監督さんが変わっても、何か持ち芸のように繰り返している。小澤はたぶんキャリアの多くを過ごした鹿島と比べ、もの足りなく思うのだろう。「勝てそう」と「勝ち切る」はぜんぜん違う。僕らは強化費用や選手層の話にかまけて、大事なことを見落としているかもしれない。
「危険なところではっきりクリアするなど、徹底すればよかった」(本間勲)
「リードしてから全体的に引いてしまった」(田中亜土夢)
終盤、足がつって本間が下がったのは痛かったと思う。まぁ、これも6月連戦のきびしさだ。それよりゲームコントロールの不徹底に関して選手に自覚がある。リードして落ち着きをなくすのは、勝ててないチームの特徴だろう。だけど、それはチームのバイオリズムではなく、本当の強さを身につけていないからだ。強いチームは小澤のコメントのように考える。「勝てそう」「勝ちたい」ではなく、「勝ち切る」と考える。
「ただ、勝つためにはもう1点必要」(ブルーノ・ロペス)
根本的にはここである。いや、例えば終盤の失点を防げただけで2、3勝は拾えてると思うから、それを徹底するだけで残留争いの話などしなくていいのだ。いいのだけれど、それじゃ上が狙えるかというと、もう1点欲しい。新潟は早い話、点がとれれば上位へ顔を出すのだ。現状は1対0の完封試合でしか勝てる感じがない。
これは窮屈なゲームプランになる。「ロスタイム失点恐怖症」まで計算に入れると、とにかく堅実に試合を0対0で推移させ、得点も早い時間は不安だから後半なるべく遅く、バタバタしだす前にタイムアップの笛が鳴るようでありたい。そんなうまく行く試合なんてないだろう。
今年はチームが固まる時期にケガや体調不良が出て選手が揃わず、まだ「これが11年アルビですよ」という決定版がない。ヘンリンは感じさせてくれるのだ。藤田のクロスはチームにハマっていったら凄まじい武器になる。ブルーノ・ロペスは決定的な仕事ができる。川又は得難いポテンシャルを示す。だが、まだヘンリンだ。中盤やサイドバックの選手が攻撃参加する「ディス イズ 11年アルビ」はまだ形にならない。
セレッソ戦では多くの読者がミシェウと菊地に注目したと思う。体調が上向いているのだろう、さすがにサッカーがわかってるなぁという動きを見せた。長期的に考えれば選手は戻ってくる一方だ。ブレずに頑張れば、もう1点をとってくれるチームが作れると思う。
ただ今、僕が考えてるのは別のことなんだよ。セレッソ戦の悔しさは「長期的には選手が戻ってきて」じゃなく今、晴らしたい。1週空いて、7月最初の連戦は山形&甲府だ。順位上、J1残留戦の当面のライバルだ。落とせない。今いるメンバーで勝ち切りたい。すまんかった、絶対見に行く。間にいっぺん福島市へ行くけど必ずスワンへ戻る。
附記1、エイヤード・丸山英輝さんに「この2戦、前半のヤマだよね」とメールしたら、「ヤマもヤマ、大ヤマです。大山のぶよです」と返信がありました。せっかくの天地人&川中島ダービーにアレですが、個人的には「大山のぶよシリーズ」と呼ぶことにしました。空を自由に飛びたいな。
2、こうなったら久々に観音様へお参りしていこう。
3、たぶん明日更新されちゃうと思うので、これはモバアル読者だけにお知らせですが、『オレンジページ』誌のウェブサイト、オレンジnetというところで2週間の「ごはん日記」を頼まれ、6月30日いっぱい仙台戦のとき食べた「みかづきのナポリタン」の記事が上がってます。ご覧いただき、いかにえのきどが着々とやっておるか確認されたし。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
J1第18節、新潟×C大阪。
この週末は「BOOK!BOOK!AIZU」「BOOK!BOOK!SENDAI」とブックイベント2連発だった。東北各県を本と人がめぐる「東北ブックコンテナ」企画に積極的に参加している。試合当日は会津若松市のホテルをチェックアウト後、郡山経由で仙台に入っていた。仙台中心部はすっかり活気が戻っている。沿岸部はまだまだということだが、街のにぎわいが頼もしい。
だからセレッソ戦は試合時間、ケータイ速報をチラ見していた。定期的に席をはずし、うーん、まだ0対0かぁと席へ戻る繰り返し。後半だいぶ経って新潟のとこに「1」が入ってたときはガッツポーズだ。が、その後、大丈夫かなぁと思う。1週間前のホームゲーム、仙台戦のように終盤になって追いつかれはしないだろうか。
悪い予感は当たる。ふと気づいたときは「1-1、試合終了」の表示に変わっていた。見間違えなんじゃないかと思うが、本当のことらしい。試合が終わるといつもは大体、知り合いから感想のメールが来たりするんだけど、この日は皆無だった。まぁ、そうだろう、スタジアムにいれば僕の10万倍ダイレクトに歓喜も不安も落胆も経験することになる。
帰京して録画中継を見た。何という悔しい試合か。すごくうまく戦っていた。過密日程5連戦の最後の試合だからバテていないわけがない。内容的にはセレッソに押されていたけれど、GK・小澤英明のスーパーセーブもあって(あと大野のクリア!)、試合を作れていた。後半31分の先制点は田中亜土夢の勝負パスがブルーノ・ロペスに通り、これを切り返して、DFの股抜きで決めた個人技によるもの。
ところが叉しても勝ち切れない。ホーム2試合続けてロスタイム失点によるドロー(得点者・酒本憲幸)。こう、塩でも撒きたい気持ちになる。何がいけないのか。あわててしまうのか。チームの下降線と過密日程が重なり、新潟はJ1残留争いにリアリティが生じるところに来た。9戦勝ちなしは深刻だ。まぁ、もちろんまだシーズンは半分残っている。ここから巻き直せばいいのだが。
試合後の選手談話を拾ってみよう。まず、ロスタイムの失点について面白いコメントがあった。
「サッカーは90分で終わると思ってはいけない。100分間がサッカーの試合」(小澤英明)
ベテランらしい含蓄のあるコメントだ。新潟は「ロスタイム失点ドロー」や「あとひと押し足りず、勝ちきれない」が本当に多いチームだ。選手が変わっても監督さんが変わっても、何か持ち芸のように繰り返している。小澤はたぶんキャリアの多くを過ごした鹿島と比べ、もの足りなく思うのだろう。「勝てそう」と「勝ち切る」はぜんぜん違う。僕らは強化費用や選手層の話にかまけて、大事なことを見落としているかもしれない。
「危険なところではっきりクリアするなど、徹底すればよかった」(本間勲)
「リードしてから全体的に引いてしまった」(田中亜土夢)
終盤、足がつって本間が下がったのは痛かったと思う。まぁ、これも6月連戦のきびしさだ。それよりゲームコントロールの不徹底に関して選手に自覚がある。リードして落ち着きをなくすのは、勝ててないチームの特徴だろう。だけど、それはチームのバイオリズムではなく、本当の強さを身につけていないからだ。強いチームは小澤のコメントのように考える。「勝てそう」「勝ちたい」ではなく、「勝ち切る」と考える。
「ただ、勝つためにはもう1点必要」(ブルーノ・ロペス)
根本的にはここである。いや、例えば終盤の失点を防げただけで2、3勝は拾えてると思うから、それを徹底するだけで残留争いの話などしなくていいのだ。いいのだけれど、それじゃ上が狙えるかというと、もう1点欲しい。新潟は早い話、点がとれれば上位へ顔を出すのだ。現状は1対0の完封試合でしか勝てる感じがない。
これは窮屈なゲームプランになる。「ロスタイム失点恐怖症」まで計算に入れると、とにかく堅実に試合を0対0で推移させ、得点も早い時間は不安だから後半なるべく遅く、バタバタしだす前にタイムアップの笛が鳴るようでありたい。そんなうまく行く試合なんてないだろう。
今年はチームが固まる時期にケガや体調不良が出て選手が揃わず、まだ「これが11年アルビですよ」という決定版がない。ヘンリンは感じさせてくれるのだ。藤田のクロスはチームにハマっていったら凄まじい武器になる。ブルーノ・ロペスは決定的な仕事ができる。川又は得難いポテンシャルを示す。だが、まだヘンリンだ。中盤やサイドバックの選手が攻撃参加する「ディス イズ 11年アルビ」はまだ形にならない。
セレッソ戦では多くの読者がミシェウと菊地に注目したと思う。体調が上向いているのだろう、さすがにサッカーがわかってるなぁという動きを見せた。長期的に考えれば選手は戻ってくる一方だ。ブレずに頑張れば、もう1点をとってくれるチームが作れると思う。
ただ今、僕が考えてるのは別のことなんだよ。セレッソ戦の悔しさは「長期的には選手が戻ってきて」じゃなく今、晴らしたい。1週空いて、7月最初の連戦は山形&甲府だ。順位上、J1残留戦の当面のライバルだ。落とせない。今いるメンバーで勝ち切りたい。すまんかった、絶対見に行く。間にいっぺん福島市へ行くけど必ずスワンへ戻る。
附記1、エイヤード・丸山英輝さんに「この2戦、前半のヤマだよね」とメールしたら、「ヤマもヤマ、大ヤマです。大山のぶよです」と返信がありました。せっかくの天地人&川中島ダービーにアレですが、個人的には「大山のぶよシリーズ」と呼ぶことにしました。空を自由に飛びたいな。
2、こうなったら久々に観音様へお参りしていこう。
3、たぶん明日更新されちゃうと思うので、これはモバアル読者だけにお知らせですが、『オレンジページ』誌のウェブサイト、オレンジnetというところで2週間の「ごはん日記」を頼まれ、6月30日いっぱい仙台戦のとき食べた「みかづきのナポリタン」の記事が上がってます。ご覧いただき、いかにえのきどが着々とやっておるか確認されたし。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。