【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第112回
2011/10/13
「ヨンチョルのお父さん」
J1第28節、新潟×横浜FM。
これが今季、ベストゲームだ。この後だっていい試合があるだろうが、意味合いの大きさが違う。新潟はぎりぎりまで追いつめられていた。降格圏の16位・甲府まで勝ち点差わずか2。つまり今節、順位が入れ替わる可能性があった。
壊れるチームはここで壊れる。あわてるクラブはここでとり乱す。急場しのぎの手を打って、自滅するのだ。自分たちが信じきれなくなる。僕はそういう降格チームを記者席から見てきた。ある日、突然、フロントの人間も聞かされてない「熱血コーチ」が入団して、ベンチ入りしたチームがある。監督が「選手の質」を敗因に挙げて、修復不能の不信を招いたチームがある。
新潟が幸運なのはひとつにまとまっていたことだ。フロントも現場もブレがない。ミッドウィークのナビスコ清水戦に勝利して、ムードもグッと良くなった。自信を失いかけたチームにとって勝利は何よりの特効薬だ。意識がポジティブになる。自分たちの良さを信じよう。自分たちのやってきたことを信じよう。それをやり切ろう。
対する横浜FMは剣が峰だ。首位まで勝ち点3。小椋が戻って守りが安定した。上位はその勝ち点3差に4チームがひしめく混戦だ。新潟はGK・武田洋平がリーグ戦初スタメン。出場停止の菊地に代わって千葉がCBを務める。秋の気候になってビッグスワンは最高のコンディションだ。両軍、モチベーション高くぶつかった一戦。
スカパー解説の梅山修さんが「ボランチの前のスペース」に注目していた。新潟の本間&小林慶行、横浜FMの小椋のところ。特に横浜FMはこのところそのスペースを使われて失点している。その主戦場で小林慶行が最高の働きを見せる。今季ずっといい仕事を続けているが、この試合は出色だった。
当然のように次第に新潟がゲームを支配する。又、目立ったのは選手らの出足だ。セカンドボールを拾う。ロストボールを追う。寄せて2人がかりでブロックして奪う。球際の集中力が素晴らしい。そうだ、新潟はこういうチームだ。これがストロングポイントだ。しぶとく出続ける。動く。そうすることで自分らのリズムを作る。
先制シーンはその出足のたまもの。パスコースを読んで田中亜土夢が敵陣でボールを奪い、いったん奪い返されたのを追い回して後方の村上に戻す。村上はダイレクトでクロスを供給。前半20分、フリーのチョ・ヨンチョルが頭で合わせた。田中亜土夢の闘魂はチームを鼓舞する。この役は以前ならマルシオ・リシャルデスが務めていた。
ヨンチョルの先制弾はエンギがいい。この男に迫力が戻るかどうかはチームの命運を握る。この試合では(単に得点者に名前を連ねただけでなく)復調の気配があった。あとスカパー実況で言ってた「ヨンチョルのお父さんの教え」が凄かった。来日中のお父さんは「もっとチームの助けになるようなプレーをしなさい。終了間際にゴールを許してもいいぐらい、それまでにヨンチョルがゴールを決めればいいじゃないか」と厳しく説いたらしい。まぁ、それは「新潟病」(終盤失点)に対する納得の処方箋である。僕は「チョモランマ先生」かと思いました。
試合はどっちが優勝争いをしてて、どっちが残留争いしてるのかわからなくなった。新潟の惜しいシュートシーンが続く。追加点は後半になった。14分、スローイングの折り返しを酒井高徳が自分で持ち込んでド迫力のJ1初ゴール! バイタルで高徳をフリーにした横浜FMのミスでもあったが、それにしてもセリエA級のスーパーゴールだった(あ、これは失言)。
このゴールが新潟を完全に「アゲる」。ゴートクはまっしぐらに黒崎監督に抱きつく。選手らが駈け寄る。皆、ゴートクの頭をぱんぱん叩く。顔を上気させた川又がいちばん近くにいて、ついでに頭をぱんぱんされている。バカ軍団か。そしてこのゴールが又々、エンギいいのはクロスバーに当たって、ゴールの内側へ落ちたところだ。これまでポストやクロスバーを直撃して新潟は何点損したことか。
出足出足。ゴートクゴールの興奮冷めやらぬ後半15分、中沢から栗原の横パスをブルーノ・ロペスがさらい、ミシェウに送る。ミシェウ落ち着いてゴール隅へ流し込む。横浜FMは集中力を欠いた凡ミスで試合を壊した。この後、栗原ヘッドで反撃(後半26分)に転じるが、直後の27分、ブルーノ・ロペスのヘッドで4点め、流れを変えられない。
新潟はタスクを完遂し、8試合ぶりの勝利をつかんだ。唯一、反省点があるとすればこの日もロスタイムに「新潟病」の失点をしたことか(得点者・天野貴史)。だが、ヨンチョルのお父さんの教えは正しかった。4対1で終わる筈のゲームが4対2になったが、それだけゆとりを持たせれば大丈夫なのだ。ちなみにこの日、甲府が敗れた為、勝ち点差は5に広がる。
附記1、すいません、本当はナビスコ準々決勝・名古屋戦の結果を反映させることもできたんですが、このベストゲームとあの死闘を半分半分に書く気がしません。ナビスコは来週に送ります。悔しかったねー。感動したねー。はんにゃむー、ほんにゃむー、来週は川又堅碁のゴールを書くであろーうー。
2、先週書き忘れたんですが、本間勲選手200試合出場おめでとうございます。そして201試合もおめでとうございます。又、増田繁人選手、初出場おめでとうございます。
3、先週書き忘れたんですが、単行本『アルビレックス散歩道2009-2010』がついに発売されました。これは書籍コードをとってない「私家版」のテイサイなので、一般書店やアマゾンでは買えません。ビッグスワンかオレンジガーデン、もしくはアルビ公式HPのネットショップのみのとり扱いとなります。「面白くて肌年齢が5才若返る」(新潟市、A・Kさん 個人の感想です)と評判です。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第28節、新潟×横浜FM。
これが今季、ベストゲームだ。この後だっていい試合があるだろうが、意味合いの大きさが違う。新潟はぎりぎりまで追いつめられていた。降格圏の16位・甲府まで勝ち点差わずか2。つまり今節、順位が入れ替わる可能性があった。
壊れるチームはここで壊れる。あわてるクラブはここでとり乱す。急場しのぎの手を打って、自滅するのだ。自分たちが信じきれなくなる。僕はそういう降格チームを記者席から見てきた。ある日、突然、フロントの人間も聞かされてない「熱血コーチ」が入団して、ベンチ入りしたチームがある。監督が「選手の質」を敗因に挙げて、修復不能の不信を招いたチームがある。
新潟が幸運なのはひとつにまとまっていたことだ。フロントも現場もブレがない。ミッドウィークのナビスコ清水戦に勝利して、ムードもグッと良くなった。自信を失いかけたチームにとって勝利は何よりの特効薬だ。意識がポジティブになる。自分たちの良さを信じよう。自分たちのやってきたことを信じよう。それをやり切ろう。
対する横浜FMは剣が峰だ。首位まで勝ち点3。小椋が戻って守りが安定した。上位はその勝ち点3差に4チームがひしめく混戦だ。新潟はGK・武田洋平がリーグ戦初スタメン。出場停止の菊地に代わって千葉がCBを務める。秋の気候になってビッグスワンは最高のコンディションだ。両軍、モチベーション高くぶつかった一戦。
スカパー解説の梅山修さんが「ボランチの前のスペース」に注目していた。新潟の本間&小林慶行、横浜FMの小椋のところ。特に横浜FMはこのところそのスペースを使われて失点している。その主戦場で小林慶行が最高の働きを見せる。今季ずっといい仕事を続けているが、この試合は出色だった。
当然のように次第に新潟がゲームを支配する。又、目立ったのは選手らの出足だ。セカンドボールを拾う。ロストボールを追う。寄せて2人がかりでブロックして奪う。球際の集中力が素晴らしい。そうだ、新潟はこういうチームだ。これがストロングポイントだ。しぶとく出続ける。動く。そうすることで自分らのリズムを作る。
先制シーンはその出足のたまもの。パスコースを読んで田中亜土夢が敵陣でボールを奪い、いったん奪い返されたのを追い回して後方の村上に戻す。村上はダイレクトでクロスを供給。前半20分、フリーのチョ・ヨンチョルが頭で合わせた。田中亜土夢の闘魂はチームを鼓舞する。この役は以前ならマルシオ・リシャルデスが務めていた。
ヨンチョルの先制弾はエンギがいい。この男に迫力が戻るかどうかはチームの命運を握る。この試合では(単に得点者に名前を連ねただけでなく)復調の気配があった。あとスカパー実況で言ってた「ヨンチョルのお父さんの教え」が凄かった。来日中のお父さんは「もっとチームの助けになるようなプレーをしなさい。終了間際にゴールを許してもいいぐらい、それまでにヨンチョルがゴールを決めればいいじゃないか」と厳しく説いたらしい。まぁ、それは「新潟病」(終盤失点)に対する納得の処方箋である。僕は「チョモランマ先生」かと思いました。
試合はどっちが優勝争いをしてて、どっちが残留争いしてるのかわからなくなった。新潟の惜しいシュートシーンが続く。追加点は後半になった。14分、スローイングの折り返しを酒井高徳が自分で持ち込んでド迫力のJ1初ゴール! バイタルで高徳をフリーにした横浜FMのミスでもあったが、それにしてもセリエA級のスーパーゴールだった(あ、これは失言)。
このゴールが新潟を完全に「アゲる」。ゴートクはまっしぐらに黒崎監督に抱きつく。選手らが駈け寄る。皆、ゴートクの頭をぱんぱん叩く。顔を上気させた川又がいちばん近くにいて、ついでに頭をぱんぱんされている。バカ軍団か。そしてこのゴールが又々、エンギいいのはクロスバーに当たって、ゴールの内側へ落ちたところだ。これまでポストやクロスバーを直撃して新潟は何点損したことか。
出足出足。ゴートクゴールの興奮冷めやらぬ後半15分、中沢から栗原の横パスをブルーノ・ロペスがさらい、ミシェウに送る。ミシェウ落ち着いてゴール隅へ流し込む。横浜FMは集中力を欠いた凡ミスで試合を壊した。この後、栗原ヘッドで反撃(後半26分)に転じるが、直後の27分、ブルーノ・ロペスのヘッドで4点め、流れを変えられない。
新潟はタスクを完遂し、8試合ぶりの勝利をつかんだ。唯一、反省点があるとすればこの日もロスタイムに「新潟病」の失点をしたことか(得点者・天野貴史)。だが、ヨンチョルのお父さんの教えは正しかった。4対1で終わる筈のゲームが4対2になったが、それだけゆとりを持たせれば大丈夫なのだ。ちなみにこの日、甲府が敗れた為、勝ち点差は5に広がる。
附記1、すいません、本当はナビスコ準々決勝・名古屋戦の結果を反映させることもできたんですが、このベストゲームとあの死闘を半分半分に書く気がしません。ナビスコは来週に送ります。悔しかったねー。感動したねー。はんにゃむー、ほんにゃむー、来週は川又堅碁のゴールを書くであろーうー。
2、先週書き忘れたんですが、本間勲選手200試合出場おめでとうございます。そして201試合もおめでとうございます。又、増田繁人選手、初出場おめでとうございます。
3、先週書き忘れたんですが、単行本『アルビレックス散歩道2009-2010』がついに発売されました。これは書籍コードをとってない「私家版」のテイサイなので、一般書店やアマゾンでは買えません。ビッグスワンかオレンジガーデン、もしくはアルビ公式HPのネットショップのみのとり扱いとなります。「面白くて肌年齢が5才若返る」(新潟市、A・Kさん 個人の感想です)と評判です。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!